第18話:天ヶ瀬邸⑥
翌朝。奏多の顔はどこか疲れていた。
それもそのはず。二回とも一緒のベッドで寝ていたが、それは奏多が寝ている間に世那が寝ぼけて入り込んだだけであって、意識はなかったのだ。
故に意識がある状態で寝るにも寝れない状況だった。結果、寝れたのはあれから数時間後であり、睡眠時間は三時間程度だった。
「ふぁ~……あれ、もう朝ですかぁ?」
寝ぼけている世那は奏多の存在に気付いておらず、着替えを始めようとパジャマのボタンを外し始め、白い胸元があらわになり、バッと視線を逸らした。
「世那、着替えは待て!」
世那は手を止めて寝ぼけた顔で奏多の方を見て――真っ赤に染まり毛布に包まり口元を隠しながら睨みつける。
「み、見ましたか……?」
恥じらう世那の表情はとても可愛らしい。だが、奏多がどうやって答えようかと悩んでいた時間は、心の内を読まれるのには十分過ぎたようだった。
「……見てない」
見えたのは一瞬であってすぐに視線を逸らした。だが最初の微妙ともいえる間は、世那にとって見たと言っているようなものだった。
「奏多さんのばかっ!」
「ぶはっ⁉」
投げられた枕が奏多の顔面にヒットした。
その後、お互いに着替えて部屋を出た。鍵は解除されていたようですんなりと出ることが出来た。
食卓へと足を運ぶと、そこにはニコニコしている鈴華の姿があった。
「二人ともおはよう。昨晩は楽しめた?」
「お母様、どうしてあのようなことを?」
「だって世那は……」
そう言って世那の耳元で鈴華が奏多には聞こえない声量で囁く。
「奏多君のことが好きなんでしょ?」
「――ふぇ⁉ ち、違います!」
「あら、私の勘違いかしら」
鈴華は上品に「ふふっ」と笑い、奏多に顔を向けた。
「様子を見る限り手は出していないようね」
「当たり前ですよ」
新聞を読んでいた宗司の奏多を睨む目が怖い。
「そう。誠実なのね。安心したわ。君なら世那を任せられるわ。家事とかは私に似てダメな娘だけど、これからもよろしく頼むわ」
「あの、いつまで同棲が続くのですか?」
答えたのは鈴華ではなく宗司だった。新聞を折りたたみ説明した。
「私は提案しただけであって、奏多君の両親にも了承をもらっている。決めるのは二人だ」
奏多はもう少しこの生活を続けてみたいと思った。学校では見ることのない世那の一面を見ることが出来たからだ。
そして、同じ人形だった者同士、どこか通じ合うところがあったのだ。
「俺は世那が嫌でなければ、もう少し続けたいと思います」
宗司が世那に顔を向ける。
チラッと奏多を見た世那は一瞬だが口元に笑みを浮かべた。
「私ももう少し一緒にいたいと思います」
「ふっ。そうか。では朝食にしよう」
満足そうにしている宗司。
「そうね。せっかくのスープが冷めちゃうわ」
こうして朝食を食べるのだった。
その後、帰ろうと車に乗ろうとして宗司が奏多を呼び止めた。
「奏多君。昨日話していたコーヒーだ」
「あ、ありがとうございます! 大切に飲ませていただきます」
「うむ。それと今度は奏多君のご両親を呼んで食事でもしようか」
「来るでしょうか?」
「確かに真面目だから来るか難しいか。その時は私の社長命令で連れて来るとしよう」
「強引ですね」
「それが社長というものだ。世那も、いつでも戻ってきなさい」
「はい。また奏多さんと来ます」
「その時にはお付き合いの報告が待っているといいわねぇ」
「ちょっ、お母様⁉」
「ふふっ、冗談よ。それじゃあ、気を付けて帰るようにね」
こうして二人に見送られた奏多と世那は家へと帰るのであった。
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