第8話:二度目とホームルーム
月曜日の朝。
目が覚めた奏多はベッドの違和感に気付いて思うことがあった。
「部屋に鍵を付けた方がいいのだろうか?」
その理由は言わずもがな。隣へと顔を向けると、そこには気持ちよさそうに寝ている世那の姿があった。
これで二度目である。
パジャマがはだけ、隙間から陶器のような白い胸元が見えている。視線が吸い寄せられそうになるも、罪悪感がそれをヨシとはしなかった。
すぐに視線を逸らした奏多は起き上がり着替え、世那に布団をかけ直して朝食の準備へと向かった。
朝食はトーストとサラダだが弁当の準備もある。
一時間ほどして世那が眠そうに瞼を擦りながら起きてきた。着替えてはおらず、パジャマも若干だがはだけており目に毒だ。
「ふぁ~、おはようございましゅ……」
まだ寝ぼけているようで、今の状況に気付いておらず奏多は視線を逸らしながら挨拶する。
「おはよう。早く顔を洗って着替えてきてくれ……」
「……?」
困惑する世那は、数秒して自分の格好と、二度目となる奏多のベッドの侵入を思い出し顔を赤くした。
「す、すみません~!」
逃げるようにして自室へと向かっていった。戻ってきた世那は顔にほんのり赤みが残っており、奏多と目が合うとすぐに逸らされる。
チラチラと奏多を見る世那は何かを言いたそうにしており、ようやく口を開いた。
「あの、寝顔、見ましたか……?」
どう答えればいいのかを思考する奏多ではあるが結局は正直に答えることにした。
「その、ぐっすり寝ていたな」
やっぱり正直には答えられなく、頬をポリポリと搔きながらそっぽを向く。
世那は見られていたことに羞恥心で顔を真っ赤にしてしまい、声にもならない声を上げて俯いてしまった。
そしてキッと睨みつけた。
「雨宮さんのバカッ!」
そう言って自室へと籠ってしまった。
学校に行く時間となり世那に弁当箱を渡した。
「お昼だ。いらないならいいけど」
「いえ。ありがとうございます。ですが、これだと一緒に暮らしているってバレちゃいますね」
「まあ、俺はよく一人で食べているし何とも思われないだろ。今日は特に天気がいいから外で食べようかと思っているし」
外には雲一つない、晴れ渡った青い空が広がっていた。風も強くなく穏やかだ。外で食べるには絶好の日であった。
こういう日こそ、昼寝をしたいというもの。
世那は奏多と一緒に食べたいと言いたかったが、それを口に出して言えなかった。
「朝や夜も一緒ですからね。ですが、今日は確かに天気もいいですし、私も外で食べようと思います」
「ああ、良いと思うよ」
それから学校へと向かう道中、奏多は世那に言う。
「そうだ。天ヶ瀬さん」
「世那でいいですよ」
「そうか? なら俺も奏多でいいよ」
「はい。か、奏多さん」
ぎこちないが慣れていくには時間は必要。奏多は世那に話そうとしていたことがあったので言うことに。
それは通学に関してだ。
「一緒に通学するのは良いんだけど、途中までにしないか?」
「どうしてでしょうか?」
「変に噂されても困るだろ?」
「確かにそうですね……」
「学校でもいつも通りの方がいいだろうな」
奏多は世那と二人で住んでいることが広まれば、変に絡んでくる人がいるだろうと思っていた。世那は他人と距離を作っておりそれを感じないだろうが、平穏に学校生活を送りたい奏多にとっては問題だった。
世那は入学して早々学校一の美少女ともてはやされているが、彼女はそれを自覚していない。
そもそも、お嬢様である世那とこうやって一緒に住むことになったのが可笑しいのだ。男子からすれば羨ましい話だろうが、進んで自分から自慢することもない。
「変に絡んでくる人もいる。それを避けるには一緒に住んでいることも話さない方がいいと思う」
「そうですね。私もそれは面倒くさいです」
そう言ってクスッと微笑んだ彼女は言葉を続ける。
「それに、誰かに自慢するようなことでもないですから」
そうして学校近くで別れて行くことになり、帰りは近くの公園で待ち合わせして帰ることになった。
学校に着いて教室に入ると、世那は奏多に気付くも挨拶はしなく、クラスの女子と会話を楽しんでいた。席に座ると俊斗が声をかけて来た。
「おはよう。疲れているのか?」
「おはよう。そう見えるか?」
質問に質問で返す。
「土日で何かあったか?」
俊斗の質問に奏多は「察しがいいな」と思いつつも、本当のことは言えないので誤魔化すことにした。
「まあ、色々あったな……」
「何か困ったことがあれば言ってくれよ?」
「その時は相談するよ」
そこに担任の桜井先生が教室に入ってくるなり各々が席に着いた。
「よーし。全員いるな~?」
見渡して全員いることを確認した桜井先生は満足そうに頷くとホームルームを始めた。
連絡事項をサクッと話し終えると、桜井先生は俊斗と璃奈を見た。
「おい。久世と高倉。週末は何してた?」
「え? 璃奈と出かけてましたよ」
「チッ、リア充が」
「な、何かありました……?」
俊斗は桜井先生に尋ねると、教卓に肘を突きながらクラスの生徒に愚痴を言い始めた。
「週末に友人から合コンに誘われて行ったんだ。相手は医者や大企業のエリートのイケメン揃いで。なのにあいつらときたら私になんて言ったと思う?」
「さ、さあ?」
バンッと教卓を叩いてイライラした様子で言った。
「『煙草を吸う人は無理』だって。ふざけるんじゃないわよ!」
煙草は、肺がんをはじめとした多くのがんや心筋梗塞、脳梗塞などの数多くの疾患に深く関係しており様々なリスクが伴う。
「吸ったっていいじゃない。美人な私が結婚してあげるんだから」
全員が思った。
そんな考えをしているから結婚できないんじゃないかと。
「別にいいのよ。もっと素敵な人を見つければいいんだから。ってことで、私はイライラしてきたら煙草を吸ってくる。お前ら授業には遅れるなよ~」
そう言って桜井先生は早々に教室を出て行き、教室には何ともいえない空気が流れるのだった。
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