第9話:ハンバーグを作ってみよう!
授業も終わりお昼休みとなった。
大半の生徒たちは教室を出ていき購買へと我先にと向かっていく。奏多たちが通うこの高校の購買には弁当や定食をはじめ、うどんやラーメン、丼ものがあったりする。
料金も学生のことを考えて良心的な価格となっていた。
隣の席では世那が弁当を広げ、クラスの女子と一緒にお昼を食べようとしていた。
「天ヶ瀬さんのお弁当は手作りなの?」
「今日のお弁当箱はいつもと違うから気になってたの!」
彼女たちの質問に世那は微笑みながら答えた。
「手作りですよ。恥ずかしながら私が作ったのではないですが」
そう言うと奏多の方を見たが、それも一瞬ですぐに視線を戻す。
「私も料理を勉強しないとですね」
「もしかして婚約者に⁉」
教室にいた男子たちがザワッとし聞き耳を立てる。
「いえ。婚約の話は私が直接言ってなくなりましたので関係ないですよ」
「なら彼氏にとか?」
するとどこからともなく安堵の声が聞こえたが、次の「彼氏に」という質問に教室は静まり返る。
「いえ。そのような人はいませんよ」
男子からふーという安堵の息。誰もが高峰の花である世那に好意を寄せているが、お嬢様ということと、入学から今まですべての告白が断られているという事実に諦めざるをえなかった。
静まり返った教室で、奏多は弁当を持って立ち上がると声がかけられた。
「奏多、どこに行くんだ?」
「外で食べようかなって。今日は快晴だからな。こういう日は外で食べるに限る」
「お! なら俺も一緒に行こうかな。璃奈も一緒にどう?」
「たまには外で食べるのもいいね! 行こう!」
奏多たち三人は中庭にあるベンチへと移動した。弁当を広げると璃奈が意外そうに表情をしていた。
「どうかした?」
「いや、一人暮らしなのに弁当なのが意外だったから」
「節約だよ。それに自炊するのは苦じゃないからね」
「へぇ~。今度雨宮くんに習おうかな?」
「お、なら俺は味見係だな」
「来るんじゃねぇよ……」
来たら世那と同棲しているのがバレるので回避したかった。
璃奈が不服そうに口を尖らせる。
「ちぇっ、いいじゃん。もしかして同棲しているとか!」
「……単純に家ではゆっくりしたいだけだ」
「なんだ、つまんな~い」
否定しなかったことに俊斗と璃奈は気付いていない。
「あ、でも来週は調理実習があるらしいよ。その時に教えてもらおうかな!」
「……え? 今なって言った?」
「聞いてなかったの?」
二限の授業でウトウトしていたので、恐らくはその時に言ったのだろうと推測する。
だがそれよりも、奏多はとある不安に駆られていた。
それは世那が料理できないということだ。世那は家事全般が苦手でさらにいえば、完璧そうに見えてポンコツなところがある。
「聞いてなかった。何を作るんだ?」
「たしかハンバーグだっけ?」
答えたのは俊斗だった。
(ハンバーグなら包丁を使うことが少ないか)
「まあ、その時は最高のハンバーグの作り方を伝授してやる」
「やったぜ!」
「本当⁉」
二人は喜ぶのだった。
その日は何事もなく授業が終わり放課後となった。奏多は公園で世那が来るのを待つのだった。
「お待たせしました」
「おう。帰るか。そうだ、スーパーに寄って行かないとだ」
「今日は何を作るんですか?」
そこで調理実習のことを思い出す。
そのことを世那に話すと深刻そうな表情をする。
「私、料理できません……」
「作るのはハンバーグらしい。だから今日は予行演習でもしておこう」
「ってことは、ハンバーグを作るんですか?」
「そのつもりだ。手伝ってくれよ?」
「頑張ります」
二人はスーパーに買い出しへと行き、そこでレジのおばさんに彼女と間違えられて世那の顔が赤くなったりとしたが無事に家へと着いた。
「さて、作りますか」
「はい、先生」
「せ、先生?」
「そうです。料理を教えてくれるんですから先生ですよ」
「そうか。んじゃあ、作りますか」
こうしてハンバーグ作りが始まった。
用意する材料は、合い挽肉とパン粉、卵、玉ねぎ、塩コショウ、牛乳、にんにくとその他もろもろだ。
玉ねぎをみじん切りにして炒めるのだが、その作業は世那にやってもらう。
「玉ねぎは飴色くらいまで炒めてくれ」
「飴色ですか?」
「そう。玉ねぎは炒めれば甘みが増すからね。それじゃあ焦げないように注意しながらやってみてくれ」
「はい」
程なくして良い感じの飴色になった。
「そしたら火を止めてある程度冷めるまで待とうか。その間に次は材料を入れていこう」
ボウルにひき肉、塩コショウ、パン粉、パン粉、にんにく、牛乳などの材料を入れていく。
「あの、どうしてパン粉と卵を?」
「それは繋ぎとして役割になるからだよ」
「繋ぎ?」
首を傾げる世那に奏多は説明する。
どうして繋ぎが必要なのか。それはいたって簡単だ。
「そのままだとポロポロと崩れちゃうけど、パン粉と卵を入れてよく練ることでポロポロと崩れないで、ふわっとした柔らかいハンバーグができるんだ」
「なるほど。接着剤みたいな効果があるんですね」
「そういうことだ。さて、そろそろ炒めたためネギも冷めただろうからボウルに入れて、粘り気が出るまでよく練っていこうか」
「はい」
言われた通りに世那はタネを練っていく。程なくして粘り気が出たので、それを一人前のサイズに取り分ける。
「んでこのまま形を整えて焼いちゃうと空気が入っているから膨らんじゃうから、空気を抜くようこうやって空気を抜いてくれ」
両手でパンパンとタネの空気を抜く作業する。世那も奏多の見様見真似で同じように空気を抜いていく。
出来たのは普通サイズが二つと小さいサイズが一つだ。
「この小さいのはどうするんですか?」
「それは明日のお弁当用だ」
そう言うと世那は嬉しそうに表情を崩す。
「あとは形を整えて焼くだけだ。まあ、焼くのにもコツは必要だけどね」
そう言って奏多は温めたフライパンで焼きはじめた。
火加減は弱火よりやや強いくらいで三分ほど。焼き目がついたら裏返して弱火にし、ふたをして八分ほど蒸し焼きにする。こうすることで中まで火が通る。
八分が経過して中まで火が通っているのを確認したら皿に盛りつける。
フライパンは洗わず、そこにバターを溶かしてソースとケチャップ、醤油、砂糖を入れてひと煮立ちさせて出来上がりだ。
ここに赤ワインなどを入れればもっと本格的に仕上がるのだが、未成年なので買うことはできない。
「ってわけで、完成だ。さあ、ご飯も炊けているから食べようか」
「美味しそうですね」
二人は席に着いていただきますと手を合わせ食べ始めた。
世那がハンバークを一口サイズにしようと箸でハンバーグを割ると、そこから肉汁が溢れ出る。
一口サイズにしたハンバーグを口へと運び――目を見開いた。
「美味しい……」
続いて奏多も食べる。
「お、上手くいったな。本当に美味い。焼く作業なら世那でも出来たし実習は大丈夫そうだな。あとは包丁の握り方だな」
「はい、頑張ります」
「頑張りすぎて手を切らないようにな」
「気を付けます」
それから楽しい夕食の時間は過ぎていった。
その日の夜、世那のスマホが鳴った。
「誰でしょうか?」
確認すると父からのようだった。
「はい、お父様。……はい。……はい。え? どうして急に? ……はい。分かりました。聞いてみますね。それではおやすみなさい」
通話を終えると少し申し訳なさそうな表情で奏多を見た。
「来週、お父様が奏多さんと会いたいそうです」
「え? 俺に……?」
「はい、なんでも話したいことがあるとかで……すみません」
「いいや、特に予定もないから構わないよ。世那のお父さんに行くと伝えておいて」
「はい」
こうして奏多は世那の父と会うことが決まるのだった。
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