第53話:花火と約束

 二人はゆっくりと神社へと向かう。

 ちらほらと花火を見ずに帰る人もいる。


「ここの参道を上がったところだな」


 参道の緩やかな階段が明かりで照らされている。

 奏多の父である修一の言う通り、これなら草履をはいて浴衣を着ていても簡単に登ることが出来る。


「行こうか。お手をどうぞ」


 少し恥ずかしいが、世那へと手を差し伸べる。

 世那はほんのりと頬をピンク色に染めつつも差し出された手を取った。


「奏多さんにしては珍しいですね」

「転ばれたりしたら危ないからな。いつもの世那ならあり得るから」

「もう、揶揄わないでくださいよ!」


 可愛らしく頬をぷくっと膨らませている世那を見て奏多は思わず笑ってしまう。


「なんで笑うんですか」

「いや、ついな。それよりも花火が始まるし行こうか」

「はい」


 二人は緩やかな階段を登っていき、少しして視界が開けてきた。

 こじんまりとした神社で奏多と世那以外に人は誰もいなかった。

 街を一望できる神社となっており、眺めも良い。


「いい場所ですね」

「だな。父さんにはあとでお礼を言っておかないとだ」

「そうですね。こんなにも素敵な場所を教えてくれたのですから、お礼をしないといけませんね」


 ベンチがあったのでそこに腰を下ろして花火が上がるのを待つことにする。


「なんか色々あったな」

「ふふっ、そうですね」


 奏多の呟きともいえる言葉に世那が同意した。

 入学して世那をマンション前で見つけ複雑な事情を抱えており、そこから同棲することになった。天ヶ瀬家にお邪魔し、夏休みではこうして一緒にお祭りに来て花火を見ようとしている。

 お互いに顔を見合わせて笑ってしまった。


「これでまだ高校一年か」

「それもまだ夏ですよ」

「確かに。一緒に住み始めてからまだ半年も経っていないのか」


 そう考えると濃い数ヵ月だ。


「最初は面倒くさいと思ったよ」

「私は不安でした」


 男女二人きりでの生活だ。不安にならない方が可笑しいだろう。


「完璧そうに見えて家事がダメダメだったり、家だと天然だったり面白いけどね」

「うぅ~……それは言わないでくださいよ……」


 シュンとする世那がこれまた可愛らしく、思わずクスッと笑ってしまった。それを見られて頬を膨らませる世那。


「ごめんって。つい可愛くて」

「そういうところです!」


 怒った表情も可愛らしいなと思っていると、ひゅ~という口笛じみた音と一緒に一滴の光がよく晴れた夜空へと打ち上がった。

 そして爆音と共に、幻のように鮮やかな花火が夜空に一面に咲いた。一滴一滴が息を飲むほど煌いて、大輪の雫はたちまち夜空に溶けるように時間をかけて消えていく。

 続けて赤や青、緑など様々な色の花火が夜空というキャンバスを光の花で埋める。

 二人は打ち上がる花火を静かに眺めていた。

 花火の煌めきで世那の顔がハッキリと見え、息を飲むほどに美しく見惚れてしまった。

 視線に気付いた世那が奏多へと顔を向けて首を傾げた。


「どうしました?」

「いや、花火が綺麗だなって」

「ふふっ、そうですね」


 花火も終わりに差し迫ろうとしていた時、世那が呟いた。


「また見に来たいですね」

「ああ。また見に来ようか」

「約束ですよ? 忘れたりしたら許しませんから」

「約束だ」


 二人は子供のように指切りをし、次も見に来ようと約束を交わした。

 そして、締めとなる花火が空高く打ち上がり、夜空に大輪の花を咲かせたのだった。



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