第36話:中庭で
朝。ニュースを見ると梅雨明けを宣言していた。
「梅雨が明けたか……」
「あのジメジメした感じがなくなりますね」
「確かにそれは嬉しいけど、それでも暑いよりはマシだよ」
窓の外を見ると、快晴で太陽が地上を照りつけていた。
見るからに暑そうで、奏多は外に出る気がなくなってしまう。
「そうは言っても、もうじきテストがありますよ?」
「うっ……授業サボろっかな?」
「私が許すと思っていますか?」
キッと睨みつける世那を見て奏多は肩を落とす。
「残念だ」
「少しは反省してください」
「サボりたいのは事実だしなぁ」
「もう! 学生は勉強することが仕事なんですから」
「それもそうだな」
ゆっくりと学校に行く支度を始める奏多を見て世那も準備を始める。
準備を終えてマンションを出ていく時間になる。
「よし。そろそろ行こうか」
「いい時間ですね」
外に出ようと玄関の扉を開けると、梅雨明け独特の暑い空気を感じた。
「暑いな。春も終わりか」
「名残惜しいですか?」
「そりゃあな。まだ外で食べれそうだけど、しばらくしたら教室で食べることになりそうだ」
「ふふっ、暑くても外で食べてもいいんですよ?」
「止してくれ」
困ったような表情を見て世那が「ふふっ」と笑みを零した。
そこから二人で学校へと向かいながら、梅雨明けの景色を見ながらのんびりと向かった。
学校に着くと、厚着をしていた生徒は薄着になっており夏の訪れを感じてしまう。
「どうしたんだよ。そんな気怠そうな顔して」
「おはよう俊斗。いやさ、薄着な人を見ると夏を感じてしまって……」
「ははっ、確かに梅雨が明けたからな。これから暑くなっていくぞ」
「言うな……」
程なくしてホームルームが始まった。
桜井先生はいつもより服装が薄着で胸元を開けていた。何人かの男子生徒がちらちらと胸を見ており、気付いた桜井先生はふっと口角が上がった。
「思春期の男子を前にこの格好は刺激が強かったか。悪いな~」
悪びれた様子もなく言う桜井先生に、男子たちはバッと視線を逸らしたが遅かった。
女子からは冷たい視線が向けられており、奏多も真横から冷たい視線を感じていたがあえて気付かないフリをした。
「さて、学期末テストまで残り二週間を切った。私はテスト勉強なんてしなくていいが、お前たちは頑張れよ~」
すると生徒から恨めしそうな視線が桜井先生へと向けられるが、それを知ってか悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「赤点は夏休み中に補習だからな~」
それだけ言うと「んじゃ~」と言ってホームルームを終わらせて教室を出て行った。
クラスのみんなが「ふざけんなぁ!」と嘆いていたが、一限から実習なので奏多や世那は静かに教科書を取り出して準備を始めたのだった。
お昼になり、璃奈の提案により外でお昼を食べることになった。
メンバーは提案者の璃奈とその彼氏である俊斗。加えて奏多と世那になった。他の男子から奏多に恨めしそうな視線が向けられるが気にしないことにした。
中庭の日当たりが良さそうなベンチでお弁当を広げて食べ始める。
「今日はどっちの手作り?」
「私と雨宮さんですよ」
周りには他にもいるが距離はあり話が聞かれることはなくても、学校では奏多のことを雨宮と呼ぶようにしている。それは奏多も同じで、学校では世那のことを天ヶ瀬と呼んでいた。
「へぇ~、その唐揚げ美味しそう」
「昨日の夕飯が唐揚げだったからな。弁当用に用意しといた」
「いいな。一個頂戴」
「あっ、おい!」
奏多の弁当から唐揚げが一個取られ、璃奈の口へと吸い込まれていった。
「ん~! 冷めてても美味しい! 流石私のシェフ!」
「誰がお前のシェフだ」
「あははっ、いいじゃん。代わりに私のおかずを一つ上げるよ」
そう言ってミニトマトが置かれた。
唐揚げとの交換にはやや、というよりは大分不平等であり、奏多の顔にはそれが浮かんでいた。
「べ、別にいいじゃん!」
「はぁ……まあいけど」
「悪いな奏多。代わりに俺のミートボールを一個上げるよ」
「サンキュ」
そんなこんなで話していると、奏多が教室での視線を思い出して璃奈に言う。
「あまり俺と世那を一緒に誘わない方がいいと思う」
「なんで?」
「それは視線が……」
「ご、ごめん」
思い出したのだろう。申し訳なさそうな表情で謝る璃奈に奏多は顔の前で手を振る。
「違う違う。世那が嫌な噂とか立てられたら困ると思って。俺は別に視線とかは気にしてないから」
「え?」
その声が璃奈からではなく世那からであった。
「私も別に気にしていませんよ。それに、奏多さんと一緒ならべつに……」
「ん?」
「あっ、いえ。なんでもないです! 私は別に気にしていませんよ。そのような心配は要らないということで……」
徐々に顔を赤くしていく世那を見て璃奈と俊斗はニヤニヤして奏多を見ていた。
「イチャイチャしやがって」
「ほんと。人にイチャイチャするなとか言っておいてこれだからね」
「ち、違います!」
慌てて否定する世那と不思議そうにしている奏多。
それを見て俊斗と璃奈は顔を見合わせて呆れた表情をする。
「はぁ、気付けよ」
「ほんとに。こういうところは鈍感だよね~」
「何を言っているんだ?」
「「別になんでも」」
そう言って二人は話しながら食べ始めた。
奏多は顔を赤くしている世那に声をかける。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!」
「そうか? ならいいけど……」
こうしてゆっくりと時間は過ぎていくのだった。
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