第3話 メルチアの街

 街道を歩くことしばし、ようやくメルチアの街が見えて来た。

 狼の群れの後には馬車とすれ違ったくらいで大したハプニングもなく無事に着くことができた。

 護衛にしていた小竜を消し近づいていく。ちなみに服装はこの転生した時にこの世界の旅人としておかしくないものに変わっている。

 一人突っ立って欠伸あくびをしている門番に話しかけた。


「すいませーん、街に入りたいんすけどー」

「ちょっと待ってろ、今《ステータス》を確認する」


 この世界では街に入る前にこうして《ステータス》を検査される。この検査で危険な能力を持っていることが分かった場合、街に入るのに色々と面倒な手続きが必要になる。


「……よし、ヤバそうなもんはないな。にしてもすげえなお前さん、ユニークいくつ持ってんだ」

「よく言われますね。あとこれ入街税です」

「ひぃ、ふぅ、みぃ……確かに受け取った。手配書にも載ってないし入っていいぞ」

「どもー。あぁそうだ、冒険者ギルドってどう行けばいいんですか?」

「そこの通りを真っ直ぐ行けば右手側に見えてくる、剣の形をした看板が目印だ。建物自体デカくて目立つから見逃すことはないだろ」

「ありがとうございました。それでは」


 別れを告げて門をくぐる。街の中は朝の活気に包まれていた。多くの人々が忙しく行き交い活動している。

 普通の人間に混じってエルフにドワーフ、獣人も歩いていて異世界情緒に溢れている。


 先程すれ違った一団は冒険者だろうか、武器や防具を身に着けていた。朝日を照り返す金属光沢を帯びた緑の鎧、大の男の身長ほどもある剣、角度によって色が七変化するフード付きローブ。

 見慣れない物品の数々に思わず目が釘付けとなった。


 そうしていると大きな建物が見えてきた。高校の体育館くらいある。剣の形をした看板には冒険者ギルドと書かれているしここで間違いないだろう。

 開けっ放しの扉を通って入る。中にはそれなりに人が居るが混雑しているというほどではない。

 冒険者登録をするため入って正面の窓口に向かう。


「すいません、冒険者登録したいんですけどここで合ってますか?」

「はい、合っております。奥へどうぞ」


 そう言った彼女に続いて受付の奥の席に腰を下ろす。


「ではこれから《ステータス》を見せていただきます。こちらの《魔道具》に魔力を込めてください」


 受付嬢が銀色の輪っかを差し出してきた。二つある持ち手の片方を自分で握りもう片方を俺に向けている。


==========

《信頼の車輪》ランク3:この《魔道具》に一分以上魔力を込めている者同士は互いにランク二相当の鑑定を行える。

==========


 聞いていた通りだな、このくらいなら大丈夫だろう。

 握って魔力を込めていく。魔力の動かし方はこの辺りで使われている言語などと一緒に転生に際して勝手に覚えていた。

 このことは境界で説明されてはいたが学んだ覚えのない知識があるのはなんだか不思議な感覚だ。

 どこで知ったか忘れた知識などいくらでもあるのだからそう気にする必要もないのだろうが。


「……お名前はリュウジさんですね。《竜騎兵》、初めてみる《職業》です。《砲術》に対応しているのでしょうか。それに《ユニークスキル》を二つ・・もお持ちとは。将来が楽しみです」


 情報を紙に書き記しながらも受付嬢は元気な調子で喋り続ける。

 それから少しして、どうやら書き終わったようで書類をこちらに見せてくる。


「……はい、完成しました。お名前や《スキル》等に間違いがあれば仰ってください。文字が読めないのでしたら代読いたします」

「いえ、結構です。…………ミスはないですね。これで大丈夫です」


 《スキル》の欄には《砲術(上級)》の他、《職権濫用》と《双竜召喚》があった。しかし《ランク5》の《竜の血》は抜けている。《ランク2》の鑑定では《ランク5》以上の情報は取得できないのだ。

 冒険者を統括するギルドが冒険者の能力を把握していた方が適材適所の采配ができるというのはわかる。だが自分の情報全てをよく知らない組織に握らせるのは不安だった。

 そこで《竜の血》と《称号》の存在は秘匿することにした。これらは俺自身を強化する能力なので外からでは気付きづらく、使っていてもバレにくいだろうというのもある。


「それでは冒険者の仕事の説明に移らせていただきます。まず──」


 受付嬢は仕事の内容に始まり、ギルドの規則、パーティーの組み方、注意すべき魔物や植物、初心者にオススメの宿屋や武器屋などを教えてくれた。


「私からお伝えすることは以上となります。何かご不明な点はございますか?」

「ないですね」

「それではリュウジさんは今から冒険者です。冒険者証をどうぞ」


 恭しく両手で木札が渡される。木札には紐が通っており首に掛けられるようになっている。

 この木札が冒険者証だ。名前、等級、出身ギルドが記されている他は特に何の変哲もない木の板だ。


 冒険者証を首にかけギルドを後にする。最初に目指すのは受付嬢に勧められた宿屋だ。

 部屋は空いていたようであっさり一週間先まで予約できた。

 次に向かうのは武器屋だ。剣型の看板を掲げた冒険者ギルドと被る目印の武器屋に入る。


「冒険者入門セットをください」


 武器屋という名前だが防具や冒険者が扱う便利グッズも売っている。冒険者入門セットもその一つだ。

 入門セットにはさまざまなお役立ちアイテムが入っているため是非購入すべきだと受付嬢に勧められた。

 実際、必要そうなものが揃っていたので買った次第だ。


 それから防具を見ていく。

 転生した時に持たされていたお金にはまだ余裕があるが今後何に使うかわからないのである程度温存しておきたい。

 しかし防具をケチって死んでしまってはお話にならない。バランスが重要だ。

 店員さんに聞いたり《竜の体現者ザ・ドラゴン》による鑑定能力も駆使したりして選んだのは柔鉄製防具一式だ。柔らかい鉄とか大丈夫かよと思われそうだがこの『柔』は白みの強い柔らかな灰色、という意味らしい。柔鉄自体は鉄より硬く、しかも軽い優れた金属だ。

 手や足、胸などの急所は柔鉄で守り、それ以外は柔鉄と魔物の皮革を併用して機動性と防御力を両立させている。

 ちなみにこの世界の《装備品》は着用者に合わせてサイズが変わるので店売りの防具でもそのまま使えた。


 防具の選び方や着方を教えてくれた店員さんに礼を言い店を出る。

 これで準備は万全だ。ついさっき街に着いたばかりなのに性急すぎるかもしれないがじっとしていても何も変わらない。

 早速冒険者活動を始めよう。

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