第25話 《小型迷宮》攻略★

「これよりC級冒険者昇格試験を行う」


 第十階層、《小型迷宮》の最終階層であるこの階層の出入口は、これまでと異なり階段の正面に付いている。

 その出入口のある踊り場に、俺やマロンを始めとした数人のD級冒険者が集まっていた。


「一パーティーずつ最終守護者に挑戦し討伐できたら昇格だ。まずはそこの四人パーティーから行け」


 例によってスキンヘッドマッチョの試験官の指示で四人組が扉を潜って行く。

 彼らが守護者部屋に入ると共に暗い膜が掛かり中の様子は見えなくなる。

 この膜には覗き見防止の他に行き来を阻む効果もあるため特殊な手段を用いない限り途中参加・退室は不可能だ。


 しばらくして膜が消え四人組が出て来た。合格を言い渡された彼らは合格証を受け取りギルドに帰って行った。

 次にもう一つのパーティーが呼ばれ残ったのは俺とマロンだけとなる。そのパーティーも無事試験に合格し俺達の番が回って来た。


「お前達は本当に一人ずつ挑むのか?」

「うん。私もリュウジ君も強いし《エスケープクリスタル》もあるから大丈夫だよ」

「ならば止めはせん。油断だけはするなよ」


 俺とマロンは単独ソロで試験を受けることにした。報酬のためだ。

 一緒に行くと討伐報酬の宝箱が一つしか出ないが別々なら二倍。

 マロンは一度ここの最終守護者に勝っているし、そのマロンの見立てでは俺も最終守護者に勝てそうとのこと。

 《エスケープクリスタル》が手に入ったのもあってソロ攻略を決断した次第だ。

 呼ばれたマロンが守護者部屋に入って行く。


「負けるなよー」

「はいはーい」


 気の抜ける声援で見送った。試験官と二人、気まずい空気の中、彼女の帰りを待つ。

 今の内に《ステータス》を確認しておこう。


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人間種―魔人 Lv25

個体名 リュウジ

職業 竜騎兵ドラグーン 光魔術見習い 魔術見習い

職業スキル 砲術強化 火器強化 光魔術強化 魔術強化


スキル 剣術(下級)Lv1 体術(下級)Lv6 砲術(上級)Lv3 風魔術(中級)Lv7 土魔術(中級)Lv2 火魔術(中級)Lv3 光魔術(中級)Lv3 水魔術(中級)Lv4 暗視Lv1 気配察知Lv4 職権濫用Lv3 双竜召喚Lv3 竜の血Lv--


称号 竜の体現者ザ・ドラゴンLv4 竜骨Lv1


装備 ジェネラルヘルム

   柔鉄の籠手

   柔鉄の鎧

   見習い魔術師の指輪

   見習い魔術師の指輪

   見習い魔術師の指輪

   見習い魔術師の指輪

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 前回確認した時から四つも《レベル》が上がっている。昨日のソロ狩りで相当量の《経験値》が稼げたのだ。


 次に《スキル》を見ていこう。

 銃を積極的に使ったからか《砲術》が伸びている。

 《体術》がかなり上がっているのはジャイルと戦ったためか。

 成長度合いに闘志や集中力が関わってくる《スキル》もあると境界で聞いていた。中でも《武術系スキル》はその傾向が顕著であるとも。

 《リディストリビューション》を発動したジャイルの《攻撃力》はまともに受ければシャレにならないレベルだったので、短時間の戦闘ではあったが無我夢中で応戦していた。

 それ故に得られた《スキル経験値》も多かったのだろう。


 《暗視》は眠る前に天井を睨み続けていたら取れた。《魔術系》やその他の《スキル》も順調に育っていて何よりだ。


 最後に《装備品》だ。やたら装備している《見習い魔術師の指輪》は《職権濫用》で召喚したものだ。

 《魔導力》を少し引き上げる程度の効果しかないが、四つも装備していれば気休めくらいにはなる。

 なお《装備品》は七つまでしか装備できないのでこれ以上召喚しても無駄になる。


 そうして確認が終わった頃に膜が消えマロンが帰って来た。


「楽勝だったよ-」

「お疲れ」

「合格だ。これをギルドの受付まで持って行け」

「わかりました。じゃ、リュウジ君、頑張ってね」

「ああ、すぐに終わらせて来る」


 彼女から《エスケープクリスタル》を貰い受け第十階層へ入っていく。二つの待機部屋を抜けた先には見慣れた古城の廊下があった。

 廊下を少し行き窓からバルコニーに出る。ここは二階のようで端から見下ろせば落ちても大怪我で済みそうな距離に地面が見える。

 だが今見るべきはそこではない。このバルコニーと向かい合うようにして建っている目前の廃城にこそ注目しなくてはならない。

 なぜならそこに最終守護者がいるのだから。


===============

妄骨種―スケルトンロード Lv30

職業 最終守護者

職業スキル 守護者の妙技 守護者の偉容 守護者の矜持


スキル 剣術(上級)Lv3 風魔術(中級)Lv3 土魔術(中級)Lv3 火魔術(中級)Lv3 水魔術(中級)Lv3 闇魔術(上級)Lv3 暗視Lv3 アーチャースケルトン群召喚Lv3 恨み骨髄Lv3 貴骨化Lv3 強化骨格Lv3 自動再生Lv3 同族指揮Lv3 ナイトスケルトン群召喚Lv3 ボーンスナイプLv3 魔力高速自動回復Lv3 骸の妄執Lv3

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 豪華な白銀の鎧にサーコートを羽織ったその骸骨は城門の前に立っていた。

 騎士のスケルトンと弓使いのスケルトンを九体ずつ従えている。

 スケルトンロードが手にした華美な長剣をこちらに向け手下達に指示を出した。ように見えた。

 スケルトン達が動き出す。騎士は盾を構えて弓使いを守り、後列から弓使いが矢を射る。


「うおっとっと、〈エアシールド〉、《双竜召喚》」


 一斉に降り注いだ矢の雨から〈魔術〉で身を守る。念のため小竜達も呼んでおく。

 大分離れているので俺に当たる矢はほとんどなく空気の盾一つで簡単に弾けた。

 てか弾いた矢も俺の体にはギリ当たらなかったぽいな、あの軌道だと。

 スケルトン軍団に向き直る。視線の先では弓使い達が次の矢を番えていた。

 とはいえあれが脅威にならないことはわかった。小竜達もいるし俺は反撃の準備をしよう。


「《職権濫用》」


 嵐銃を呼び出しいつかと同じようにバルコニーの縁に設置する。そして照準。

 狙うは一点、長剣を指揮棒のように振るいスケルトン軍団を指揮しているスケルトンロードだ。

 矢の降る音を聞きながら肋骨の奥、心臓の位置にある《魔核》をスコープ越しに捉える。

 引き金を引く。


 放たれた風の弾丸が狙い違わず《魔核》を穿ったと、スケルトンロードの胸に空いた穴を見て分かった。

 スケルトンロードが《ドロップアイテム》に変わると手下のスケルトン軍団も光に還って行った。彼らは小竜と同じ召喚生物、何度倒されても時間を置けば再召喚できるが召喚主が死ぬと共に死亡するのだ。

 《レベル》が上がった感覚を味わいながら嵐銃を消しバルコニーから飛び降りる。小竜にぶら下がり落下速度を緩和して両足で着地した。

 スケルトンロードの居たところまで歩いて行き《ドロップアイテム》を拾う。ついでに近くに現れていた宝箱も開けた。


 城の中に戻る。二階に上がって扉を探し、待機部屋二つを通って踊り場まで帰って行く。

 このやけに長い道のりはどうにかならないものか……。

 そんなことを思いながら試験官の元まで辿り着いた。


「リュウジ、合格だ」

「ありがとうございます」


 合格証を手渡される。


「……君は優秀だな。冒険者になってまだ一週間だというのにC級昇格とは」


 ギルドに向かおうとしたところ、試験官から唐突にそんな言葉を投げかけられた。


「あ、どうも。《スキル》にはかなり恵まれてますんで」


 意図が分からず当たり障りのないことを言ってお茶を濁す。


「……気配でわかる。《レベル》は既に三十付近だな。強力な《スキル》で格上を倒しているからなのだろうが、驚異的な成長速度だ」


 だが、と言葉を繋げる試験官。


「戦闘を生業にしていれば予期せぬ事態にも度々遭遇する。敵が格下であっても相性が悪く思いがけず苦戦したりな」


 そう言った試験官は、悔いるようでも悲しむようでもある、なんとも言えない表情をしていた。


「《ユニークスキル》は強力で特化した性能を持つ反面、それが機能しない相手や局面も多く存在する。そうなった時、相手の《レベル》が自身より高ければ苦戦は必至だ」


 なるほど、その通りだ。

 高速で動く相手には《職権濫用》の銃は当てづらいし、〈魔術〉の通じない相手には《竜の血》は実質無力化される。

 そういう相性の悪い相手との戦うこともこれからはC級になれば増えるだろう。


「《ユニークスキル》を持ちながらそれで夭逝していった者を俺は幾人も知っている。《中型迷宮》に挑むならくれぐれも慎重にな。あまり生き急いでくれるなよ」

「そうですね。俺も死にたくはないですし、今日はソロでしたが普段は出来る限りパーティーで動いて弱点をカバーしようと思います」


 気遣い助言してくれた試験官に感謝を伝え、再度ギルドへ向けて歩き出したのだった。

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