第26話 ミス
「C級昇格おめでとうございます。C級からは一人前の冒険者として扱われます。これまで以上に責任ある行動を心掛けてください」
「はい、肝に銘じておきます」
朝と昼の
木板にはピンが三つついており、C級冒険者であることが示されていた。
「形式上の話はここまでにしておいて、リュウジさん、試験お疲れさまでした! いやぁ、ギルドに登録したのは先週ですのにもうC級だなんてすごいです!」
「あはは、どうも」
「ところで、」
ガシッ、と音がするほどの勢いで肩を掴まれる。
「どうして一人で最終守護者に挑んだんですか?」
あっ、やべ。
マロンに助けを求めようにも掲示板を一心不乱に眺めている。何がそんなに面白いのか、こちらには全く視線を寄越さない。
薄情者めェ。
「戦闘に想定外は付き物です。想定外の敵、想定外のミス、想定外の環境……、いくらでも挙げられます。そんなとき仲間が居るのと居ないのとではリスクが段違いなんです。《エスケープクリスタル》だって一人で戦闘しながらだと使えないかもしれないんです! 昨日リュウジさんに最終守護者の資料をお見せしたのはソロ攻略させるためではありませんよ!?」
「お、落ち着いてくださいユーカさん。お叱りならマロンも一緒に──」
「これが落ち着いていられますか! それにマロンさんにはもう話しました!」
「そうでしたか」
肩を激しく揺さぶられながら説教の続きを聞く。
自分でも、初めての最終守護者戦に単身で臨むのはなかなか軽率だったと思うので深く反省した。
「──ですので、これからは不測の事態が起こり得ることを念頭に置き、出来るだけ危険を冒さないようにしてくださいね。わかりましたか?」
「はい……」
体感では数時間に及んだ(実際は数分だろうが)説教はそうして締めくくられた。
「私からは以上です。長々とすみませんでした」
「いえいえ、大変ためになりました」
「あ、お話終わった? リュウジ君昇格おめでとー」
「…………」
説教の終わりを耳聡く聞きつけたマロンがニコニコしながら近づいてきた。
恨みがましい視線を向けても涼しい顔をしている。
「それにしても、お二人ともユニーク持ちとはいえ異例の速さの昇進ですね。これからは拠点を移されるのですか?」
「そうだね。次どっちを攻略するかはまだ決めてないけど多分他のギルドを利用すると思うよ」
「ユーカさん、これまでお世話になりました」
「そうですか、寂しくなりますね……。たまには南ギルドにも来てくださいね」
「もちろんだよ」
「森には南ギルドが一番近いですしその時はまた使わせてもらいます」
そんな会話をしてギルドを出た。
「お昼は一緒に昇格祝いする?」
「……そうだな。どっかいい店知ってるか?」
「うん、ちょっと歩くけどね」
そんなこんなで俺達は大通りを少し外れたところにある料理屋にやって来た。
いつも行く食堂に比べ店員の身なりが良く、店内も静かで高級店っぽい雰囲気がある。緊張するな。
一度帰宅し着替えてきたがもっと高い服も買っておくべきだったかもしれない。
「お待たせ致しました。ピーキーターキーのローストでございます」
壁際の二人席で待っていると大皿に乗った鳥の丸焼きが運ばれて来た。
タレが塗られているのか表面は飴色に光を反射しておりここまでいい香りが漂ってくる。二人分のサラダやソース、スープに白米も付いて来た。
丸焼きを小皿にとりわけ食べて行く。
「!
一切れ口にしただけで旨味が一杯に広がった。固すぎず脆すぎないちょうどいい肉質で噛み締めるごとに味が深まる。
ソースを付けるとまた違った味わいになり、数種類あるソースを試しながら夢中で食べているとあっという間に完食してしまった。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて一息ついてから先に食べ終わっていたマロンに話しかける。
「で、明日からどうするよ」
「んー? 《中型迷宮》に行くかもう一個の《小型迷宮》を先にするかってこと?」
「そうだ。俺としては街の外で魔物狩りなり採取なりしても良いんだけどな」
「えー、《迷宮》行こうよー」
「宝箱を感知できるしそっちの方が稼ぎはいいか。それに魔物の《レベル》も高ぇから《経験値》的にも
あと一々街の外まで出なくていいので時間が短縮できる。
「そういやマロンはもう一個の《小型迷宮》はもう攻略してるんだったよな」
「うん、次の試験まで暇だったからちょちょいとね」
「じゃあ《中型》でよくねぇか。俺の《レベル》も上がってるし」
「《中型迷宮》ってリュウジ君の宿から遠いけど大丈夫?」
「ああ、今日引っ越す予定だからな」
C級に上がれば《中型迷宮》近くの宿に移るだろうと考えていたので宿泊料金も昨日の分までしか払っていない。
「あはは、準備万端だね。じゃあ明日からは《中型迷宮》の広場に集合で」
「おう」
今後の予定の打ち合わせも終わったので店を出る。
財布的には少々痛かったがお代に釣り合う味だった。たまにはこういうのもいいだろう。なにせ今日はひとまずの目標だったC級昇格を果たせた記念日なのだから。
次の目標もおいおい考えるとしよう。
孤児院に帰るマロンとはそこで別れ俺は俺の用事を済ませに行く。
向かうのはかつて訪れた《
「いらっしゃい。おや、君はいつかの冒険者君じゃないか」
「あ、どうも」
以前と変わらず安楽椅子に深く腰掛けた店員がそう話しかけてくる。顔を覚えられていたとは驚きだ。
「ふふ、よく驚かれるよ。記憶力には自信があってね、一度見たお客の顔は忘れないのさ。それで、今日は《
「いえ、《
そう言いながらポーチに仕舞っていた布包みを取り出す。
カウンターの上に置き包みを解いて見せた。店員は椅子から僅かに身を起こし片眉をぴくりと動かす。
「ほう、これは《骸公の骨灰》じゃないか。最終守護者を倒したのかい?」
「ちょうど今日が試験だったので。たしかこの灰は《
「そうだとも。毒薬と副作用が強い強化薬が作れるけどどちらが欲しいのかな?」
その二つなら、そうだな……。
「強化薬でお願いします」
「ふむ、では詳細を詰めて行こう」
どの《パラメータ》を上げたいか、効果量はどのくらいがいいか、副作用はどのようなタイプにするか等々、様々なことを聞かれる。
強化薬と一口に言っても種類は多岐に渡るので、こちらの要望を聞いて良さそうな《
色々話し合った結果、『《敏捷性》を一定時間大きく引き上げるが、体力を少し消耗し魔力を継続的に激しく消耗する』効果の《
効果的にも値段的にもこれが最も有用そうだったのだ。
「ご注文確かに承った。調合師に渡してくるよ。数分で完成するから待っていてくれたまえ」
店員が《骸公の骨灰》を持って店の奥に消えて行く。
あの店員は我が物顔で居座っていたがこの薬屋の店主ではないようだ。《
《レベル》が高く《術技系スキル》や《気配察知》が高いのを見るに護衛とか用心棒とかそういう職種の人間なのだろう。高価だったり使い方を誤ると危険だったりする《
にしては《
素材を渡し、戻って来た店員と雑談して時間を潰しながら《
そうしていると大きな隈のある小柄な女性が出て来た。
「こ、こちら《死力駆けの劇薬》です……」
「ありがとうございます」
どうやら彼女が調合師らしい。《製薬術》もかなりの高《ランク》で所持している。
薬効に間違いがないことを
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