第27話 再戦
森を歩く。
木は《小型迷宮》の熱帯雨林エリアより少なく、足下に気を取られることはない。
天井からの光を木の葉が遮るものの、薄暗いというほどでもなく視界には困らない。
大きな茂みを横切ったマロンが手にした槍をその茂みに突き刺した。
「キャインっ!」
犬っぽい悲鳴が上がる。直後、茂みを揺れて二匹のコボルトが飛び出してくる。
「〈ウィンドアロー〉」
内一匹を用意していた風の矢で狙う。
事前に気配は捉えられていた。慌てて出て来たところを狙い撃つなど造作もない。
「ギャウッ!」
「キャンッ!」
俺が倒したのともう一匹、マロンが槍の石突で殴殺したコボルトの断末魔が響いた。
最初にマロンが突き殺したのも含めてこれで三匹、辺りに潜んでいた魔物はこれで全てだ。
人と犬を掛け合わせたような二足歩行の魔物の姿が消え《ドロップアイテム》が現れる。
「《中型迷宮》って言っても大したことないねぇ」
「油断は禁物だぞ。索敵だけはミスらないでくれよ」
「分かってるよ~」
《中型迷宮》での初戦闘を終え《ドロップアイテム》を拾いながらそんな会話を交わす。
昇級試験に合格した次の日、俺達は予定通り《中型迷宮》の第三階層に来ていた。
なお初戦闘が第三階層なのは第一、二階層で魔物と遭遇しなかったからではない。
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称号
迷宮攻略者 ランク4:迷宮を踏破した者の称号。
Lv1 第二階層以下の階層石を無視して進める。
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《小型迷宮》を攻略して得たこの《称号》のおかげで低階層はショートカットできた。
再び進んで行くと今度は一匹のウェアウルフ、二足歩行の狼に出くわした。
「〈ストーンアロー〉」
俺が牽制に放った石の矢を躱し短剣を手に駆け寄ってくる。獣らしく俊敏な動きだ。
マロンが前に出て槍を振るう。
「〈
穂先が巨大化した横薙ぎをウェアウルフは跳躍して避けそのまま飛び掛かる。
「〈ウォーターアロー〉」
そこへすかさず〈魔術〉を放つ。
真っ直ぐ顔面直撃コースの水の矢を短剣で弾いたコボルトだったが、その胸を槍の穂先が喰い破った。
「グルァ!?」
「ふッ」
ドチュッ。少し湿った音が響く。槍をウェアウルフごと地面に叩きつけた音だ。
力なく地に伏したウェアウルフが《ドロップアイテム》に変わる。握っていた短剣も一緒だ。
「見事な追撃だな、硬直もあるってのに」
「硬直って言っても〈下級槍術〉だからすぐ解けるしね」
事もなげに彼女は言うがそこから繰り出した攻撃の迅速さは、静から動への移行の速さは優れた技量が故だろう。
そんな会話をしながら《ドロップアイテム》を拾った。
その後も《中型迷宮》探索は順調に進んだ。
襲い来る人型魔物達を片っ端から返り討ちにして進み
「おや、お待たせてしましたか。かたじけない」
先客が挑戦中だったので踊り場で待っていると中から一人の男性が出て来た。双剣を担ぎさらに二本の剣を腰に帯びている。腕は二本しかないはずだがスペアだろうか。
見た限り他に仲間はいないようだ。守護者戦で喪ったという雰囲気でもない。
「気にしなくて大丈夫だよ」
「俺らもさっき来たとこですし」
互いに会釈してすれ違う。ふと気になったので階段を上る背中にちらりと目をやり鑑定する。
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人間種―
個体名 エルドレッド
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つっっよ。Bランク冒険者の《レベル》が大体四十から六十なので七十一はAランク冒険者クラスということになる。
気配はEランクくらいだったが《潜伏》で隠していたのだろう。マロンのように《スキル》を鍛えているのか、それとも無駄に自身の気配を垂れ流すのを嫌っているのか。
いずれにせよソロで守護者を倒せる実力は十分にあるようだ。
さて、気を取り直してこれからの戦いに意識を向けよう。既に最初の二つの待機部屋は通り抜け守護者部屋に入った。どこから襲われてもいいようにしなければ。
小竜を召喚し《気配察知》で警戒する。
「十二時の方向、一体だけだね」
まあマロンの方が感知範囲は広いのだが。
木々の奥を注視しながら歩いていく。少ししてのしのしと地面を揺らしながら区間守護者は現れた。
「ブモオォォォ!」
《ブラックミノタウロス Lv30》。
区間守護者は黒いミノタウロスだった。隆々とした肉体には威圧感がある。しかしかつて戦ったフロストミノタウロスに比べれば迫力不足だ。
《レベル》はもちろん体格も一段劣る。
「〈ウィンドカッター〉、〈ライトアロー〉」
挨拶代わりに〈魔術〉を二発。ミノタウロスは手にした大剣で防いだが〈魔術〉は囮だ。
「〈
マロンがミノタウロスの脛に突きを放つ。そして硬直が解けるや飛び退く。一拍遅れてマロンの立っていた場所を大剣が薙ぎ払った。
「〈ウィンドアロー〉」
風の矢がミノタウロスの肩に突き刺さる。ついでに遊撃担当の小竜が背後から《ドラゴンブレス》を浴びせた。
「ブモォゥ!」
怒り心頭といった様子で大剣を滅多やたらに振り回すミノタウロス。けれどその動きは当初より心なしか鈍ったように見える。
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状態 攻撃力低下
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マロンの使った〈下級槍術:
無論、足の怪我も響いているはずだが。
「〈ウォーターアロー〉」
俺の〈魔術〉にタイミングを合わせマロンが接近する。ミノタウロスは先の失敗から学習したのか水の矢を己の胸筋で受け止め迫るマロンに備えている。
マロンは〈術技〉を使わず大剣の間合いに入り込んだ。横合いから大剣が迫る。
「〈
マロンが槍の石突で地面を突く。そして勢いよく跳び上がった。
槍で突いただけにしては不自然な急加速は〈術技〉の賜物だ。
棒高跳びさながらに跳び上がったマロンはその速度を十全に活かし、足裏からミノタウロスの鼻先にぶつかった。
首を折るほどの威力はなかったが顔面に高速でぶつかられれば誰だって動転する。ミノタウロスだって例外ではない。
慌てて腕で顔を押さえるが既にマロンはそこにはいない。
顔面を足場にしてさらに跳んだのだ、
「〈ウィンドカッター〉」
風の刃が宙を翔ける。狙いは足。
〈魔術〉はすんでのところで大剣に散らされたものの、防御に使われた大剣を横へと弾くことに成功した。
ミノタウロスの次の動作が一瞬遅れ、その一瞬があれば十分だった。
「せいッ」
「ブボォ!?」
落下してきたマロンが槍で脳天をぐっさり貫く。
それが致命傷となった。
夥しい血を流したミノタウロスは力なく倒れやがて《ドロップアイテム》へと変わったのだった。
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