第24話 ソロ探索
「じゃ、後は任せた」
「はい。責任を持って預からせていただきます」
わっせわっせと担いで運んで来たジャイル一味を詰所の衛兵に引き渡す。
彼らはジャイルがB級冒険者と知るとたちまち特別製の手枷と足枷で拘束した。聴取もせずにその対応はどうかと思ったものの、やはり高位の冒険者は危険なのと衛兵が事件現場を目撃していたのが大きいようだ。
一緒に来ていたアマグ院長の聴取も終わり俺達はその場で解散となった。家が同じ方向にあるノールと共に帰り道を歩く。
ふと気になったことがあったので聞いてみることにした。
「ジャイル達はどんな刑になるんだ?」
「そうですね。聞いた限りだとかなり手広くやっていたようですし取り巻きでも最低十年は鉱山で強制労働、ジャイルはそれ以上になるでしょうね」
「それなら孤児院はこれでひとまず安心ってことだな」
『ジャイルファミリー』の残党を警戒してマロン達はもうしばらく孤児院の警備を続けるそうだが、ジャイルが即日出所してくる心配はなさそうだ。
「では私はこちらですので」
「ああ、今日はめっちゃ助かった。今度また何か礼をする」
「いえ、私は衛兵として当然の仕事をしたまでです。それに以前助けていただいた恩もありますしお礼をするのはこちらの方ですよ」
そんなやり取りをしてノールと別れた。
それから一時間くらい経っただろうか。俺は《小型迷宮》の第九階層に来ていた。二匹の小竜を連れ立って荒廃した城を探索する。
カシャン、カシャンと金属音が聞こえてくる。その音量から、これはリビングアーマーの足音だ、と推測できるくらいには俺もここでの活動に慣れていた。
足音の数は二つ。《気配察知》も使ったので間違いはない。
炎銃を召喚して〈術技〉の準備をする。通路の先から鎧の魔物が現れた瞬間、引き金を引く。
「〈シュート〉」
放たれた弾丸は《魔核》の埋まる胸に炸裂した。〈下級術技〉だが威力は十二分にある。リビングアーマーの胸部は弾け、兜と両腕、そして下半身が散乱した。
「《職権濫用》」
すぐさま炎銃を再召喚し走り寄ってくるもう一体のリビングアーマーに向け、発砲。
大盾を構えているソイツを通常射撃で葬ることは難しい。二度、三度と撃ち込んでみても大盾を手放す様子はない。
しかし炎弾のぶつかる衝撃に耐えながら走るのはキツかったのだろう、走りは止まった。一歩一歩踏みしめて堅実に近づいてくるソイツに俺は他の武器を持ち出すことにした。
「《職権濫用》」
生み出したのは緑の狙撃中、嵐銃だ。大盾アーマーとの距離は十メートル前後なので嵐銃の本領発揮とは行きづらいがこの距離でも威力は炎銃を超える。
風の弾丸を放った。
何かの凹むような音が響き大盾アーマーの体勢が崩れる。横から強く押されたように片膝を突き盾を傾かせてしまっている。
そこへ新たな炎銃を召喚、炎弾を撃ち込みトドメを刺した。
「もっとスマートに勝ちたいな」
《ドロップアイテム》を回収しながら先の戦いを反省する。銃の威力確認の意味もあったとはいえゴリ押しの感は否めない。
走っている敵の足を狙えるだけの技量があれば嵐銃を使わずとも勝てたのだが……。要練習だな。
回収終了と同時に反省を打ち切り探索を再開する。
しばらく歩いているとまた魔物の気配を捉えた。鑑定して戦闘態勢に入る。
「《職権濫用》」
《スキル》で凍拳銃を出す。今日は一人なので遠慮なく銃を使っていくつもりだ。屋内なら壁に遮られるので流れ弾の被害も出づらいし、誰かに見られる可能性も低い。
通路の奥にある階段から気配の主が降りて来て、その風貌が明らかになる。
カツンカツンと靴音を鳴らす靴、身を覆う鎧、右手に持った湾曲した剣と左手の小さな盾。それら全てが一様に謎の黒い金属で出来ていたが最も目を引いたのはそこではない。
その魔物には
首のあるはずの部分には《魔核》が半ば埋もれる形で存在している。
異様な出で立ちをしたその魔物の名はデュラハン、首無し騎士の怪物である。
「顔を脇に抱えてるのがポピュラーだと思うんだがな」
少なくとも俺が地球でやってたゲームのデュラハンは片腕に自身の顔を抱えていた。この世界のデュラハンはそうではないようだがゲームの魔物と異世界の魔物が一致しなくとも何ら不思議ではない。
顔を持っていないのにどうやって景色を認識しているのかという疑問はリビングアーマーやスケルトンにも言えることだ。今更気にすることでもない。
「〈シュート〉」
階段を下り切られる前に〈術技〉を放つ。〈シュート〉は溜めも消耗も硬直も軽く済むので使い勝手が良い。
通常より強化された氷の弾丸は五部屋分の間合いを瞬きの間に駆け抜けデュラハンの左肩に直撃した。鎧の肩当が白く凍てつき見るからに動かしづらそうである。
廊下に降り立ったデュラハンはお返しとばかりに右手の剣を水平に薙ぐ。振るわれた剣の軌道に沿って半透明の斬撃が飛んでくる。
「危ねっ」
慌ててしゃがみ、飛ぶ斬撃を躱した。
これは確か〈下級剣術:飛断〉だったか。前にルークも使っていた。この程度なら避けるまでもなく小竜の攻撃で相殺できるだろう。
気を取り直して射撃を再開する。走ってくるデュラハンに連射して着実にダメージを与えて行く。
距離が三部屋分ほどに縮まったところで氷弾がデュラハンの右足にヒット。移動速度が格段に落ちた。
デュラハンは左手に盾を持っているが肩が凍っている影響であまり器用には動かせない。首の前に掲げて《魔核》を守るのがせいぜいだ。
時たま反撃に飛んでくる〈飛断〉も小竜達が相殺する。
徐々に鎧の凍った部分が増えて行き彼我の距離が一部屋分になる頃には正に満身創痍の凍り具合だった。
だがそこでデュラハンが動く。ぎこちない動きで踏み込みであったが、それまで辛うじて守り抜いた右腕で剣を真っ直ぐ俺に向け、猛然と突き出した。
腕の長さをプラスしても刃は俺に届かない、しかしこの世界には条理を覆す〈術技〉がある。刀身の延長線上に半透明の刃が勢いよく伸び俺に迫る。
「よっ、と」
右前方に跳び難なく回避。突きのモーションを見た時点で突きを伸長する〈中級剣術:
デュラハンの事前情報は得ていたし、何より鑑定してもいた。出来ること、してくることは大体想像がついていたのだ。
わざわざ動かず攻撃を続けたのも射程の長い〈中級術技〉を誘発させるためだ。
〈
「結局ゴリ押しになっちまったな」
スマートな勝利には程遠いゴリ押し具合だった。
まあデュラハンはリビングアーマージェネラルと双璧をなす強力な魔物なので賭けをするには分が悪い。
斬撃を掻い潜り《魔核》を撃てば勝てるがそれはリスクが高い。
スマートな勝利は次の戦闘で頑張るとしよう。
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