第23話 ジャイルとの戦い
「待て待てーッ」
「うわーぁははっ」
孤児院に来てから数時間。既に前準備は終わっており後はジャイル達が来るのを待つだけだ。
そして俺は今、残っている子供達と庭で鬼ごっこをしていた。〈魔術〉を教えたり遊んだりしたことで子供達は大分懐いてくれている。
鬼役の俺(《ジェネラルヘルム》に鬼みたいな
庭は畑の面積を差し引いても子供達が遊ぶには十分な広さがあるのだ。
そうしていると孤児院の扉が開きマロンが出て来た。
「来たよ、皆。孤児院の中に隠れててね」
彼女の一声で辺りは一斉に静まり返った。
子供達はそそくさと孤児院に退避し代わりにフレディとルークが出てくる。武器は無しだが防具はきっちり着込んでいる。
建物内にはまだノールと彼の同僚一名が残っているが彼らの出番はまだ先だ。
「やっと来たか」
「何人くらい居るんだ?」
「四人だね。多分このダントツで強い気配がジャイルって人で残り三人はC級くらいかな」
そんな話をしていると俺の《気配察知》範囲にも強い気配が現れた。気配を頼りに鑑定してみたがどうやら間違いないようだ。
そして一つ、思いがけない事実が判明した。彼らは《装備品》を着けていない。
街で得物を振り回すほど非常識ではないということか、いや、武器以外の《装備品》も外しているので慢心か。運がいいな。
鑑定で新たに得た情報をマロン達に伝え終えた頃、気配が孤児院の前までやって来る。
「ここが例の孤児院かぁ?」
「そうですジャイル様。ささっ、どうぞやっちまってください!」
門の前にはマロンの言葉通りにジャイルと取り巻き三人が現れた。取り巻きにはグスタフも含まれている。
マロンが俺達を代表して話しかける。
「えーっと、何しに来たの? この孤児院は警備頼んでないよね」
「フン、お主らが必要かどうかなど関係ないわい。ワシらは勝手に警備する、対価を払わぬなら勝手に取り立てるまでじゃ」
「それは困るなぁ。それじゃぁ抵抗させてもらうね」
ジャイルが一人で門を通り孤児院に入って来た。好都合である。
威圧するようにずんずんと大股で歩き、
「大人しくみかじめ料を差し出しておれば痛い目を見ずに済んだものをのぅ。たかだか四人でワシを──」
──ボチャンッ。
落とし穴にハマった。
「ぬあっ!? 冷たっ!!?」
ジャイルが叫ぶのとマロンが駆け出すのは同時だった。咄嗟に両腕を上げガードするジャイルだったが狙いは彼ではない。
「ぐひぇっ?」
「なっ!?」
「ぐわあぁぁぁ!!」
マロンが狙ったのは後ろに居た取り巻きの三人。
《ジェネラルヘルム》の強化も受けた彼女は荒野の肉食獣を思わせる獰猛さで飛び掛かり、彼らを仔馬でも狩るように瞬く間に打ち倒してしまった。
「なんと!?」
ジャイルは驚愕しているが次は彼の番だ。
男三人組で落とし穴の周りに集まり蹴りまくる。
穴は子供一人がすっぽり収まってしまうくらいに深いので今のジャイルは肩から上しか出ていない。中は冷水で満たされているのもありジャイルは防御で手一杯だ。
この落とし穴、当然ながら昨日までは無かった。今朝来てから掘ったものだ。
昨日購入したスコップで冒険者四人に衛兵二人が交代しながら掘った結果、二時間足らずで完成した。落とし穴を俺と子供達が〈水魔術〉の水で満たし、凍拳銃で氷の薄膜を張らせ、その上に土を被せて偽装していた。
移動を封じ、低温の水に体を冷やし、ついでに服の着心地も悪くさせる。ジャイルは不用心にも布の服で来ていたので水を吸い込み重りにするという副次効果もあった。
「のわっ、ちょっ、やめんか!」
ガードの下でジャイルはたまらず悲鳴を上げた。が、手を緩めればやられるのはこちらなので容赦なく蹴り続ける。
しかしこの古き悪しきオヤジ狩りのような状況はそう長くは続かなかった。
ジャイルが行動に出る。
「鬱陶しいわッ、《リディストリビューション》!」
《ユニークスキル》を発動するや落とし穴の水面を叩きつけた。
大きな水柱が立ち俺達の攻撃が止んだ隙に跳び上がり穴から脱出してしまう。
「お主らよくもやってくれたのぉォ! この借りは高くつくぞ、覚悟せいッ!」
俺達と孤児院の間に着地しそう吠える。包囲を脱し状況を立て直せたと思っているのだろうがそこはまだ包囲の内だ。
「覚悟するのはあなたの方ですよ。孤児院から金銭を脅し取ろうとする姿、しかと確認させていただきました」
孤児院の扉が開き衛兵二人が出てくる。
衛兵が居ると知れば逃走する可能性もあったので中で待機していてもらったがその必要もなくなった。フル装備の彼らが居れば勝利は確実だろう。
「ここからは我々がお相手しましょう」
「ガハハッ、その装備、ただの衛兵だな? 貴様ら如きにワシの相手なぞ務まらんわ!」
「それはやってみなければ分からないでしょう!」
ノールとその同僚が剣を構えジリジリと近づいて行く。
そこへジャイルが猛然と駆けて行き両者の距離が三メートル程になったところでノール達が動いた。
「〈大切斬〉!」
斬撃を拡張する〈剣術〉で間合いの外に居たジャイルを攻撃する二人。だが奴はこれに冷静に対処する。
「甘いわっ、〈
斜め前に踏み込み斬撃の一つを避けもう一つを〈
無手でありながら斬撃二つを無傷で捌くとは見事である。B級冒険者なだけはある。だが敵は衛兵二人だけではない。
「ハァッ」
「ぬぅ!?]
落とし穴の向こうに居たのにも関わらず一瞬で間合いを詰めたマロンが無防備な背中に蹴りを放つ。《気配察知》で反応したジャイルはなんとか防御して見せるもたたらを踏んだ。
《リディストリビューション》使用中の彼の《防御力》はかなりのもののはずだがそれを下がらせるとは。《ビーストボースト》の補正は俺が思っていたよりもずっと大きいようだ。
「今だっ、掛かれぇ!」
そこへ男組が殺到する。一人につき四肢一本を担当し捕まえる。衛兵二人も剣を地面に突き刺して参戦してくれた。余ったノールは首を締め上げている。
右腕担当としては
「ぐぐぐ……っ!」
「《双竜召喚》」
顔を紅潮させ振り解こうとするジャイルにそうはさせじと小竜を召喚する。小竜は爪で裂かないよう気を付けながら四肢を抑えつけるのに加勢した。
いくら馬鹿力でも五人と二匹のパワーには勝てない。
「ハァッ!」
「げぼぉっ…………」
そして拘束され身動きの取れないジャイルの
腹の底から絞り出すような苦悶と胃の内容物を吐き出したジャイルが白目を剥く。
「鑑定……本当に気絶してるみたいだな。拘束解いていいぞ」
最後の一撃がよっぽど効いたらしい。
「ふぅ、何とか勝てたな」
ジャイルを縄で縛り上げて一息つく。
不確定要素の多い急ごしらえの作戦だったが案外上手く行って句れた。正直、寄ってたかってボコボコにされた彼には少し同情するが。
とはいえ勝利は勝利だ。取り巻き三人も転がしたままだしさっさと縛って衛兵に引き取ってもらおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます