第22話 ジャイルに備える
対策を立てると言ってもできることは限られる。
ジャイルのシンプルな《ステータス》
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人間種―獣人 Lv52
個体名 ジャイル
職業 拳士 粉砕士
職業スキル 体術強化 槌術強化 槌強化
スキル 剣術(下級)Lv3 体術(中級)Lv5 槌術(上級)Lv8 火魔術(下級)Lv10 水魔術(下級)Lv10 暗視Lv10 気配察知Lv7 潜伏Lv5 リディストリビューションLv6
称号 スタルワートウォーリアーLv4 迷宮攻略者Lv2
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《リディストリビューション Lv6》ランク3:《攻撃力》、《防御力》、《魔導力》、《抵抗力》から一つを選択する。選択した《パラメータ》は低減する。減少量に応じて残りの三《パラメータ》を引き上げる。この効果は自身の意思で解除することは出来ず、二十分経過すると自動で解除される。三十六分に一度だけ使える。
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《スタルワートウォーリアー》 ランク3:敵対者を腕力で捻じ伏せる怪力の称号。
Lv1~4 レベルアップで生命力と攻撃力と防御力が成長しやすくなる。常に生命力と攻撃力と防御力を引き上げる。
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ジャイルの強みは高水準の身体能力だ。《レベル》、《職業》、《称号》の補助を受けた肉体《パラメータ》はB級冒険者の中でも飛び抜けている。
《レベル》だけならD級昇格試験で戦った試験官も同じくらいだったがジャイルの《生命力》、《攻撃力》、《防御力》はその上を行く。
そこに《ユニークスキル:リディストリビューション》も加わるといよいよ手か付けられなくなる。
削ってくるとすればきっと《魔導力》だろう。《攻撃力》と《防御力》はもちろん《抵抗力》が増すのも痛い。
ただでさえ《レベル52》で《抵抗力》が高いのに《状態異常》がさらに通りづらくなる。
また《装備品》も厄介だ。
《パラメータ》を強化するものを中心に治癒効果や《状態異常》解除効果のあるものも揃えていて隙が無い。
搦め手耐性を高め真っ向勝負に持ち込み《パラメータ》の暴力で叩き潰す。改めて、本当にシンプルなビルドである。
シンプルなだけに付け入る隙が見つからない。《気配察知Lv7》なら銃による狙撃も察知できるだろうし困った困った。
そんなことを考えているとつい先日にも聞いた声が耳に届いた。
「探しましたよジャイル様! こちら、ジャイル様の好物の骨肉まんじゅうでございやす」
「気が利くなぁグスタフ。今日はどうしたんだぁ?」
「それがですね。集金の件でちょっくら問題が起きやして……」
新たにジャイル達の酒宴に現れた気配を鑑定する。
やって来たのは前に絡んできたグスタフで間違いないようだ。こいつとは謎に縁があるな。
顔を見られないよう気を付けながら少しだけ近づき耳をそばだてる。
会話の内容は断片的にしか拾えないがどうも孤児院にマロンが居て金を巻き上げられなかったことを伝えているようだ。
土産の骨肉まんじゅうとやらが功を奏したのか酔っ払い共に多少小突かれる程度で別段責められている様子はない。
どうせならそのまま諦めてくれればいいのだがそこでグスタフが余計なことを口にした。
「そこでちょ~っとジャイル様のお力をお借りできればな、なんて」
「任せとけぇ、『
赤ら顔で宣言するジャイル。明らかに酔いが回ってきている。
なおジャイルは一人称が『ワシ』だが普通に三十路過ぎ──鑑定すれば年齢も知れる──の男性で老人ではない。
「じゃがそいつぁ明日じゃ。今日はもう休むからのぉ。グスタフ、お前も飲めっ!」
「いっ、いいんスか!? あざっす!」
……明日か、急だな。もっと間を開けてくれた方が嬉しいのだが。まあ予定日が分かっただけでも良しとするか。
それからジャイル達は夕方まで飲み続けていた。
俺も買い物をしながらもちょくちょく覗いていたが、全く衰えを見せない盛り上がりようにまさか夜まで居座るつもりじゃないだろうなと危惧したりもした。
けれど結局、日が落ち切る前には宴会は終了。
そのまま真っ直ぐ──と言っても千鳥足だったが──帰ってくれたのでジャイルの住処もバッチリ抑えられた。敵わなかったときの保険くらいにはなるだろう。
あとすべきことは──。
「夜分遅くに悪い、ノール」
「お構いなく、リュウジさんでしたらいつでも大歓迎ですよ。今日はどうされたのですか?」
訪れたのはかつて貧民街で助けた衛兵の青年、ノールの自宅だ。昼過ぎに一度来たのだがその時は留守にしておりこんな時間になってしまった。
「それがな、話すと長くなるんだが──」
「そんなことが……」
孤児院が巻き込まれている事のあらましを説明すると青年の表情が分かりやすく曇った。
「衛兵は貧民街の住民には関与しないのか?」
「そんなことは……っ!」
一瞬、大きな声を出し、すぐに萎んでいった。
バツの悪そうな顔で彼は続ける。
「……失礼しました、衛兵は住む場所に関わらず全ての民を平等に守ります。それが衛兵の使命です。貧民街の
ノールは心底悔やんでいるようだった。
問題に気づいていながら行動しなかったのは確かに良くないことかもしれないが新米にどうこうできるとも思わない。責
任者でもない彼が気にしすぎずともいいだろう。
「いやまあそれはいいんだ。幸い、孤児院の子供達に被害も出てないみたいだしな。それでジャイル達のやってることが違法だってんなら任せていいんだな?」
「もちろんです、と言いたいのですが……」
言い淀む彼に続きを促すとポツリポツリと語り出した。
「──そうか、信憑性が無いか」
「はい、一冒険者の証言だけで騎士様や大勢の衛兵を動員するのは難しいでしょう……」
もちろん私は協力させていただきますが、と付け加えるノール。
当然だがたかが一冒険者の言葉でそんな
「まあそういうことなら大丈夫だ。俺と仲間達でジャイルのことはどうにかする。ノールも加勢してくれるならどうにかなるだろ」
「すみません、微力を尽くさせていただききます」
それからノールと明日の打ち合わせをしてその日は別れた。
そして次の日、早朝。
「おはようマロン、一昨日ぶりだな」
「うん、おはよう。で、どうしたの? こんな時間に」
俺は孤児院に出向いていた。まだ六時の鐘が鳴ったばかりの空気のひんやりとした時間帯。
そんな人を訪ねるには非常識な時間なのでマロンもいつもの革鎧ではなく寝間着姿だ。
「こんな朝早くから本当に申し訳ない。だが急ぎの用なんだ」
「大丈夫、そこは信用してる。それで何があったの?」
頭を下げる俺にマロンが再度問うた。
「それがだな──」
俺は昨日のことを話した。偵察しに行ったことからジャイル達が今日、孤児院を攻める話をしていたことまで全てを。
「だから今日は孤児院に残って守りを固めないか。俺達も協力する」
「襲撃があることを教えてくれただけで十分だよ。察してきてくれたことには感謝してるけど本当に危ないの。これ以上関わって──」
「──大丈夫だ、心配いらない。仲間が困ってるのに見て見ぬふりなんてできねぇよ」
我ながら根拠のない発言だと思う。だが《レベル》の低い俺にはこんな強引な説得しかできない。
マロンの目を真っ直ぐに見つめる。
「……なんでそんなに協力してくれるの? 仲間が困ってるからってだけでそこまでする?」
「それは……」
思えば何故か、俺はこの件に関わることに少しも悩まなかった。決定事項であるかのように意識すらしなかった。
少し考えて、その理由はすぐに見つかった。
「…………」
けれど言い淀む。
仲間を助けたいだとか孤児達を守りたいだとかそんな綺麗なモノではなかったからだ。
誤魔化してしまおうか、なんて考えが頭を過る。
「…………」
しかし。ジッとこちらを見つめる淡い青の瞳。それを前にするとどうしても嘘は言えなかった。
逡巡し、目を瞑り、決意を固めて口を開く。
「……昔、俺の家族も似たような奴らに脅されてたんだ。そん時は友達が助けてくれたが、そうじゃなかったら死んでたんじゃないかってくらい追い詰められてた。だからああいうことしてる奴を見ると無性にイラつく。ぶん殴りたくなる。それが理由だ」
「私怨ってこと?」
「まあそうだな」
「……君は、結構無鉄砲なんだね」
呆れたような苦笑いを浮かべていたマロンが「それでもせめて私から頼ませて」と言い頭を下げてきた。
「お願い、力を貸して」
「ああ。もちろんだ」
こうして俺達の対ジャイル作戦が始まった。
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