第21話 偵察
・前書き
本日から朝と夕方の二話投稿になります。
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「それじゃあ今日の活動はここまで。お疲れ様でしたー」
「お疲れ様」
夕日に照らされるギルド前でそう答えた。
「再三になるけど明日は休みだからね。しっかり体を休めてね」
「ああ」
大抵の冒険者は疲労を取るためこまめに休みを挟む。普通は一日おきか二日おきに、三日も連続で活動する者は珍しいそうで。
昇格試験を三日後に控えた今、無用の怪我は避けたいというのもあり明日は休もうと提案されたのだ。
実のところ後衛の俺はそんなに疲れている感じはなかったが、しかし精神的な疲労が無意識のうちに溜まっているかもしれないし、パーティーリーダーの心配を無碍にしたくなかったし、なにより時間を取ってやっておきたいことがあったので俺も休日案に賛成した。
よって明日は一日休みだ。
宿屋に戻り、着替えてからランニングに出かけ、銭湯で体を洗い、ストレッチをして、夕飯を食べ、歯を磨き、就寝前の〈魔術〉練習をこなし、その日は何事もなく眠りについた。
窓から差し込む朝の光で目を覚ます。
転生して以来、就寝時間が早まったため寝起きでも意識はスッキリしている。軽く身支度を整えて階下に降り朝食を取った。
「ごちそうさまでした。あ、そうだ女将さん、宿泊期間をあと二日延長します」
追加料金を払ってから一旦自室に戻り、準備をし、外出する。鎧を着てリュックを背負った冒険者スタイルだ。
「まずは北ギルドだな」
地図を片手に大通りを歩く。
この街、メルチアには冒険者ギルドが三つある。
南部にあり俺がいつも通っている南ギルド、西部にある西ギルド、北東部の北ギルドだ。
これから向かうのは北ギルドである。高位の冒険者は《中型迷宮》の近くにある北ギルドをよく利用しているのだ。
八時の鐘が鳴る前に出発したが北ギルドに着く頃には日も随分高くなっていた。体感で一時間以上。これだけ時間がかかるなら《中型迷宮》に挑めるようになったら引越しも視野に入れるべきかもな。
見慣れた南ギルドよりも一回り大きな北ギルドに入る。何食わぬ顔で館内を歩きながら併設された酒場、
探すのは一人で居てガラが悪そうでついでに厄介そうな《スキル》や《称号》を持っていない奴だ。北ギルドは広いので条件を満たす者は三人ほど見つかった。
その三人の内、酒場で野菜を食っている青年に狙いを定める。最も年齢が近かったからだ。
笑顔を浮かべ馴れ馴れしく話しかける。
「よおヴィッセ! 久しぶりだな、最近調子はどうだ?」
「うぉっ、おう、久しぶりだな……?」
突然話しかけられた男、ヴィッセは混乱した様子だ。
見覚えはないが名前を呼んできたのだから知り合いに違いない。はてどこで会っただろうか。
そんなことを考えているのだろう。俺はそんな彼の困惑などお構いなしに話を振る。
「野暮用でメルチアの近くに来たから立ち寄ったんだわ。ジャイルさんに挨拶しときてぇんだがどこに居るか分かるか?」
「あ、あぁ、ジャイルさんなら昨日は早めに寝てたからな。今は
運が良い、一人目でアタリを引けた。
怪しまれないようとっとと離れるとしよう。
「そっか。じゃあ昼飯食ってから行くわ。元気でな」
そう言って堂々とした足取りでギルドを去る。ある程度離れたところで地図を広げ《中型迷宮》への道順を調べ再度歩き出す。
北ギルドから《中型迷宮》にはすぐに着いた。
そこはマロンと攻略している《小型迷宮》と同じく《迷宮》の入口を中心にした広場となっていた。外周部にはさまざまな店舗が立ち並ぶ。
俺はその中の食堂に入り窓際の席に座る。広場中が見渡せるので《迷宮》から出て来た者を鑑定するにはうってつけの場所だ。
注文をする際、長居する旨を伝え定食五人前相当の金を握らせておいたのでしばらくは目を瞑ってもらえるだろう。どうかお昼のピーク時より早く出て来てくれと祈りながら張り込みを始める。
微妙な時間なので人の出入りは疎らだ。
定食をつまみながらときたま出てくる冒険者達を鑑定する。
なお大勢を鑑定しても頭が熱くならないよう名前の情報だけを取得するようにしている。先日気付いたのだが鑑定する項目は限定することもできるようなのだ。
それから定食を完食するくらいの時間が流れた。張り込みは何の波乱もなく進んでいるが飽きて来た、もとい慣れて来たので《スキル》の訓練も一緒に行っている。
とはいえ使える《スキル》はそう多くない。店内で〈魔術〉をぶっ放すわけには行かないし、小竜達を呼ぶのも良くない。《武術系スキル》も同じくアウト。
なので《気配察知》を鍛えている。耳を澄ますように集中し、周囲の気配を感じ取る。
通常時は大丈夫なのだが鑑定を使うと集中が途切れ《気配察知》が止まりがちだ。
熟練者は《気配察知》をどんな時でも発動していられるそうなのでそれを目指して使い続ける。
十時を知らせる鐘が鳴ってからしばらく経った。昼前なのもあり《迷宮》からはかなりの頻度で冒険者が出てくる。
俺は三品目のデザートの果実ゼリーみたいなものを食べていた。そんな時だった。
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個体名 ジャイル
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「ん!? ごほっ、げほ」
小さくむせながらもゼリーを一気に掻きこみ会計を済ませて店を出る。
その間も絶えずジャイルの気配は補足できている。《気配察知》の練習の成果だ。
一定の距離を開けて尾けて行く。人通りが多いので目視でバレることはないだろうが一瞬だけ鑑定できた《ステータス》には《気配察知Lv7》があった。ピッタリ後ろを付いて行くのは危険だ。
それからジャイルはギルドに立ち寄った。換金を済ませたであろうジャイルの気配が酒場の位置に移動する。動く様子はないので昼食にするのだろう。
俺はギルドの前を通り過ぎ、《気配察知》の効果範囲を抜けたと確信できるだけ離れてから再びギルドに戻る。
ギルドに入った俺はまず真っ直ぐに併設された
ガタイが良いからというのもあるが昼間から酒盛りをして大声で騒いでいる集団は非常に目立つ。
……ここまで警戒する必要はなかったかもしれないな。いや、これも他者を油断させるための演技の可能性もある。気を緩めてはならない。
掲示板の前に立つ。視線は掲示板に固定しつつも意識はジャイル達に向いている。そして鑑定を発動した。
鑑定するのに対象を視認する必要はない。方向と距離さえ分かっていればいい。《気配察知》と併用で
すれば視界外にも発動できる。
道端で突っ立った不審者になるという難点を許容できればギルドの外からでも可能だ。
ジャイルの《ステータス》をじっくり覗き見る。
《レベル》、《スキル》、《装備品》、《パラメータ》。全てを詳らかにする。
「マ、ジか……」
思わず声が漏れた。体が強張る。ジャイルに感じる威圧感が増す。
酒を飲んでいることなんて関係ない。そんな状態でもガムシャラに暴れられたら手が付けられない。
グスタフなんかとは比較にならない、《職権濫用》無しでは勝てないと確信できてしまうほどの《ステータス》だった。
──だが俺には情報のアドバンテージがある。
そんな強がりを浮かべて恐れを払う。気持ちで負けては本当に勝てなくなってしまう。
緊張を呑みこんで、対策を講じるべく《ステータス》情報と再び向き合った。
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