第20話 穴場
「お待たせー。じゃあ行こっか」
「おう」
昼飯を食べてマロンと合流した。午後から活動するのは初めてだな、なんてことをぼんやりと考えながら《迷宮》の螺旋階段を歩く。
そうしてやって来た第九階層、古城エリア。《レベル》を上げるためにも金を稼ぐためにも気合を入れて探索しよう。
「《ジェネラルヘルム》の強化を掛けるがいいか?」
「お願い」
強化の光がマロンの体に吸い込まれる。
「おお、体が軽い」
「それは良かった」
ぴょんぴょんと跳ねて強化具合を確かめたマロンが感想を述べた。この兜は半分貰ったようなものなのでその彼女の助けになっているなら幸いだ。
この《装備効果》には特に時間制限等はないので初めに掛けておけば後はずっとオンにしておくだけでいい。
「今日はちょっと遠くの城に行こうと思うの。階層の出入口から程よく遠いから穴場になってるんだ。いいかな?」
「それでいいぞ。案内は頼んだ」
彼女の言う穴場までの道程は平穏なものだった。多少は魔物も襲ってきたが俺が〈魔術〉で牽制し《ジェネラルヘルム》で強化されたマロンが突っ込めばそれだけで蹴散らせた。
「今日は風以外の〈魔術〉も使うんだね」
「ああ、四属性を使い分けてこその魔術師だからな」
〈中級魔術〉のアロー系にも属性ごとに特色がある。風は速い、火は威力が高いなどだ。それらを状況に合わせて使うのが一人前の魔術師らしい。
《スキル》上げにもなるので今日は風でない〈魔術〉もバンバン使っていく所存だ。
それにしても強いな、と無双するマロンを見ていて思う。俺の援護射撃があるとはいえ一人で複数体の魔物を圧倒している。《スキル》や《装備効果》で《パラメータ》が伸びているのもあるが見ていて目を引くのは鮮やかな槍捌きだ。
有利な間合いを保ちつつ、囲まれないよう立ち回り、僅かな動きで守りを崩してそこを逃さず貫く手練。
危なげないと言うか武器を使い熟しているというか、とにかく軽やかながらどっしりとした安定感みたいなものが素人目にも伝わってくる。
聞けば近所に住んでいた元騎士のお爺さんに槍術を習っていたそうで。彼女の強さは武術の基礎を修めているが故のものなのだろう。
そんなマロンなら《レベル》差もはねのけてジャイルに勝てるのかもしれない。だからといって彼女だけに任せるつもりはないが。
さて、そんなこんなで歩いていると穴場の古城に辿り着いた。他の古城と比べても損傷の目立つ年季の入った外観で、有り体に言うとボロイので不気味さも割増だ。
開けっ放しの扉を抜けてロビーに入り探索を開始する。
「……お? 宝箱の気配がするぞ」
幸先の良いことに入城して早々に宝箱を感知した。流石は穴場である。《気配察知》を得て感知範囲が広がっていたのも一因だろう。
「気になってたんだけど宝箱の気配がわかる《称号》でも持ってるの?」
……あ、やべ。普通は宝箱の気配は感じ取れないんだった。前回はミミックのゴタゴタでスルーされてただけで。
「いや、話したくないなら話さなくていいんだよっ。秘密にしたい理由はわかるし私も言いふらしたりしないから」
慌てたように両手を振る彼女からはいけないことを聞いてしまったかもという焦りと謝意が見て取れた。それは彼女の善良さが現れているようでもあって、隠し事をすることに後ろめたさを感じてしまう。
これまでのことを振り返ってみる。
俺が絡まれていたのを助けてくれた。ソロで活動するのに十分な実力があるのに未熟な俺とパーティーを組み色々教えてくれた。それまで一切関わりのなかった孤児院を守ろうとしていた。
まだ出会って三日だが彼女が善人なことは疑いようがない。辺りに他の気配もないし彼女になら打ち明けてもいいだろう。
「これは《
「……教えてくれてよかったの?」
「短い付き合いだけど結構信用してんだよ。マロンはバラしたりしないだろ?」
とはいえ肝心要の《竜の血》は依然隠しているのだが。
彼女の人柄は信用している、けれども何らかの特殊な《スキル》や《称号》、あるいは巧妙な話術で聞き出される恐れはある。
フレディ達に隠したのと同じ理由だ。
「あはは、そう言ってくれると嬉しいな。それで宝箱はどっちの方にあるの? 距離とか分かる?」
恥ずかしそうに視線と話題を逸らすマロンに胸を痛めつつも大まかな方向と距離を離す。気配は上階からしていたので城の造りに詳しい彼女に案内してもらおう。
人が少ないというのは本当らしくそれまでに比べて戦闘の頻度は増えた。《経験値》がたくさん得られるのは嬉ありがたい。
幾度かの戦闘を経て宝箱の気配のする場所に到着した。
そこは通路の行き止まりだ。壁の石材が露出している。
「ここで合ってるの?」
「ああ、この壁の向こうから気配がする。〈術技〉で壊すから少し待っててくれ。《職権乱用》」
炎銃を召喚し壁に向ける。意識を集中させ〈砲術〉の準備を整えた。
「〈チャージ〉」
〈チャージ〉は溜めた時間が長いほどに威力が上がる〈下級砲術〉だ。一秒ごとに銃から感じるプレッシャーが強まっていく。おおよそ三十秒で頂点に達した感覚があった。
炎銃が火を吹くと同時、石壁が爆裂する。爆音と共に土埃が立ち込める。
……予想よりだいぶ高威力だな。
「うっひゃ~、すんごい威力だね」
「ちょっと予想外だな、〈ウィンド〉」
土煙を晴らすと大きな穴の開いた壁が見えて来た。最大まで溜めた〈チャージ〉は壁を一発で瓦解させるほどの威力があるようだ。
そうして現れた壁の奥のスペースには宝箱の置かれている。《迷宮》の宝箱は強い攻撃を受けると消えるため想定外の威力が出た時は肝が冷えたが杞憂だったようだ。
「小竜、あの宝箱を開けてくれ」
炎銃を消しつつ指示を出す。小竜が近づいて蓋を開けるが牙を剥いて襲い掛かってくる様子はない。
中身を器用に咥えて持ち帰ってくる。
「今回はアタリみたいだな」
「お~よしよし、ドラゴンちゃんありがとね」
なぜか主人の俺ではなくマロンの胸に飛び込んだ小竜が彼女に咥えていたアイテムを渡した。マロンに頭を撫でられて気持ちよさそうに目を細めている。
「やった、《エスケープクリスタル》》だ」
「たしか守護者部屋から逃げれるアイテムだったか?」
「そうだよ。これに魔力を込めれば守護者戦を強制終了させて外に出してくれるの。レア物だし使い切りだから売れば高いよ」
「買っても高いけどな」
値は張るがソロで活動するなら持っておこうと思い調べていたのだ。その後、マロンと組むことになったため購入は見送ったが。
「昇格試験も近いしこれは売らずに持ってたほうが良いと思うんだが」
「うーん、私は一度勝ってるし今回はリュウジ君もいるから大丈夫だと思うけど用心するに越したことはないよね。そうしよう」
という訳で《エスケープクリスタル》》はマロンが持っていることに決まった。
マロンが自身の鞄に仕舞う。彼女も鞄を持っているのだ。
デカめのショルダーバッグと言った感じのそれは容量的には俺の物よりも小さいが、肩に掛けるだけで持てるため背負ったり下ろしたりが素早くできる前衛向けの設計となっている。
そして宝箱の前から去った俺達は探索を続ける。
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