第19話 《転職》★

 ジャイル打倒の意思を固めた日の明朝、俺は冒険者ギルドを訪れていた。


「あ、リュウジさん! おはようございますッ」

「おはようございますユーカさん」


 受付のユーカに挨拶を返す。


「本日はどのようなご用件で?」

「《四属性魔術》が《中級》になったので《転職》しに来ました」

「まあっ、早いですね! あれ、でも〈魔術〉講習からそんなに経っていないような……?」

「かなり集中して取り組みましたので。魔力が必要な《スキル》は《双竜召喚》だけで、これもかなり燃費がいいんで魔力は余ってたんですよね。回復する端から使ってたらいつの間にか四属性コンプリートしてました」


 《竜の血》を隠すため、事前に考えておいた嘘を並べる。この世界では才能のある者なら《下級》はすぐに抜け出せるそうなので疑われる事は無いだろう。

 立ち上がったユーカの案内に従い《クラスクリスタル》の部屋へ向かう。


「それでも数日で《中級》にするのは凄いことですよ! リュウジさんは魔術師を目指されるのですか?」

「そうですね。仲間や《双竜召喚》の小竜に接近戦は任せて自分は後ろから援護するスタイルになりそうです」


 そうしている内に目的の部屋に着いた。

 そこは理科準備室くらいの狭さだった。窓一つ無く薄暗いその部屋の中央では灰色の台座に乗った水晶が、部屋内唯一の光源として淡い光を放っている。

 台座と水晶以外は何もないすっきりした部屋に立ち入る。


「これが《クラスクリスタル》か」


 部屋の前で待機するユーカには聞こえないくらいの声で呟く。

 この水晶型《魔道具》を使うと《職業》を得られる。《職業》を得ると《職業スキル》が手に入り《パラメータ》も強化される。


「確か魔力を込めるんだったよな」


 記憶を振り返りながら《転職》作業を進める。

 右手を当てて魔力を込めた途端、頭の中に情報が流れ込んできた。鑑定を使った時と同じ感覚である。


『以下の項目からあなたの取得する《職業》を選択してください

・光魔術見習い

・魔術見習い

 取得した《職業》は取り消せません』


 この世界では複数の《職業》を持つデメリットは存在しない。一度に就ける《職業》の数にも限りはないので取れるのは全て取っていいそうだ。

 俺が両方の《職業》を選択すると《クラスクリスタル》の輝きが一瞬だけパッと強まり、光が収まったときにはもう終わっていた。

 どうでもいいことだが、《職業》を変えるわけではないのだから《転職》ではなく就職と言うべきではなかろうか。


「《転職》終わりました」


 それから他愛もない話をしながらギルドの受付まで戻る。


「──ユーカさんはジャイルさんって知ってますか? B級冒険者らしいんですけど」

「ジャイルさんですか……? いえ、存じ上げませんね。B級ということは恐らく北ギルドで活動されているのだと思いますが、その方がどうかされたのですか?」

「強いそうなので話を聞ければ勉強になるかなーって思っただけですよ、気にしないでください。それよりさっき言ってた──」


 彼女とはロビーで別れ俺は街の外までやって来た。そのまま目指すはいつもの平原だ。ちなみに今日は月曜日なのでマロンと《迷宮》に潜るのは午後からだ。

 と、その前に変化した《ステータス》を確認しておこう。


===============

人間種―魔人 Lv21

個体名 リュウジ

職業 竜騎兵ドラグーン 光魔術見習い 魔術見習い

職業スキル 砲術強化 火器強化 光魔術強化 魔術強化


スキル 剣術(下級)Lv1 体術(下級)Lv4 砲術(上級)Lv2 風魔術(中級)Lv5 土魔術(中級)Lv1 火魔術(中級)Lv3 光魔術(中級)Lv1 水魔術(中級)Lv2 気配察知Lv1 職権濫用Lv3 双竜召喚Lv2 竜の血Lv--


称号 竜の体現者ザ・ドラゴンLv4 竜骨Lv1

===============


 《レベル》も《スキル》も順当に成長しているな。昨晩は《光魔術》を猛特訓したので上がりづらかったこいつも遂に《中級》に昇格した。

 《職業》もきちんと増えている。それに付随して《パラメータ》も上昇した。

 魔術師系の《職業》は《魔力量》、《魔導力》、《抵抗力》に上方補正がかかる。《魔力量》は《竜騎兵ドラグーン》の補正の方が大きいため変わらなかったが他二つは少し上がった。

 《魔導力》が上がれば〈魔術〉の効果が増し、《抵抗力》が上がれば《状態異常》への耐性が強まる。特に俺は《抵抗力》が低めなので僅かとはいえ補強できたのは嬉しい。


 一通り《ステータス》を確認し終わったところで接近してくる敵を見つけた。《レベル》が十台のオーク四体である。


「ちょうどいい、《ジェネラルヘルム》の試運転だ」


 《双竜召喚》で小竜を一匹呼び出しオーク達に差し向ける。《ジェネラルヘルム》の強化バフは既に掛かっている。小竜のような召喚生物は初めから強化された状態で召喚できるのだ。

 小竜は一度大きく飛び上がり、急降下しながら襲い掛かった。


 初めに最も前に立つオークに向かって行く。

 手にした棍棒を構えるオーク。そいつの間合いに入る寸前で軌道修正し油断していた最後尾のオークに突撃、一撃で首を折った。


「プギョっ!?」


 振り返り、仲間がやられたことに気付いたオーク達は怒り狂い棍棒を攻撃態勢に入るが、その時には小竜はもう空の上だ。そして攻撃の届かない空中から《ドラゴンブレス》を浴びせて行く。

 これには堪らず散り散りに逃げ出すオーク達。しかしすぐに一体が《ドラゴンブレス》で屠られ、小竜のターゲットが他の者に移される。

 それから一分もかからずに奴らは全滅したのだった。


「お疲れ。《双竜召喚》。俺は討伐証明部位を集めるからお前は肉を食ってていいぞ」


 そう指示を出し耳を切り取る心苦しい作業に入る。小竜はどうも肉が好きなようなので供養がてら食べさせることにした。

 それにしても一対四だったのにあっという間に決着が付いてしまったな。敵が弱すぎて《ジェネラルヘルム》の恩恵はあまり感じられなかったが。あの程度なら《ジェネラルヘルム》抜きどころか《双竜召喚》が《レベル1》でも楽勝だっただろう。

 まあ《パラメータ》が上がれば飛行速度や《ドラゴンブレス》の威力も高まるので無駄ではなかったはずだ。


 オークの討伐証明部位を集め終わり歩みを再開する。


「……この辺でいいか。小竜達は辺りを警戒しててくれ」


 再開から少しして、俺は平原に点在する林の一つに分け入った。〈魔術〉の練習のためだ。

 外から見えない林の中なら〈中級魔術〉をずっと使っていても怪しまれないだろう。《竜の血》は切り札なのでなるたけ隠しておきたいからな。

 片腕を突き出し魔力を練り上げ矢にして放つ。


「〈ライトアロー〉」


 光の矢は狙い通り枝と枝の間を抜けて空に消えて行った。魔力の性質もあり〈ウィンドアロー〉よりも練るのに時間はかかるがコントロール自体はそう変わらないみたいだ。

 続けて火と風の矢を枝の間に通し、土と水の矢を木の根元の手前に放った。土と水の矢は消滅せず重力に引かれて落ちるため上に放つと流れ弾が怖い。


「やっぱ〈ウィンドアロー〉が一番だな」


 練りやすさ、狙いの付けやすさ、そして〈魔術〉自体の性能。どれも〈ウィンドアロー〉が一番だ。

 それは《風魔術》の《スキルレベル》が最も高いからというのもだろうが理由の大部分を占めるのは《称号:竜骨》の効果だろう。

 この《称号》は《魔術系スキル》に関する諸々を強化するが、中でも《風魔術》への補正は格別だ。成長速度が異様に速いのもこれの影響である。


 その後はまた五属性のアロー〈魔術〉を練習する。

 アロー〈魔術〉以外だと幾つかの風主体の〈中級魔術〉が使えるがそれらの練習は宿屋でもできる。今は風以外の《魔術系スキル》も鍛えよう。

 目標は全《魔術》の《レベル4》到達。太陽はまだまだ昇り始めたばかり。気合を入れて行くとしよう。

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