第78話 帰路★
「ろくな見送りも出来ずに悪いな」
「いえいえ、俺達は一日手伝っただけですし、皆さんがお忙しいのは分かりますし。ロイさんも大変でしたでしょうにわざわざすいません」
「命の恩人が帰るってのに何もせずいられるわけねえだろうがよ。本来なら船員総出で来るところなんだが、今回は色々重なっちまって……」
町の門の前にて。俺とマロンは船長のロイさんと会っていた。
ロイさんは自分一人しか来れなかったことを悔やんでいるが、感謝の言葉は昨日飽きるほど浴びせられたし、お礼として《潮風鉱》も譲ってもらった。
久々の採掘や
「大丈夫だよー、私達はホントに全然気にしてないから。それにそんな大勢に見送られても恥ずかしいしね」
「それではそろそろ……」
「ああ、気を付けてな。旅の無事を祈ってるぜ」
そうして俺達はペティを後にした。二泊三日の滞在だったが色々あった。いいことも、そして悪いことも。
森の中を歩く間はすることも無かったので、何とは無しに切り出した。
「にしても、驚いたな。ヘンリエッタさんが亡くなったなんて」
「まあ、もうお婆ちゃんだったからね。いつ逝ってもおかしくはなかったんだと思うよ」
そう、ヘンリエッタさんは今朝、死んでいるのが発見された。
正確な死亡日時が昨夜なのか、本日未明なのか、今朝なのかは分からないが、今日の朝に自宅兼治療屋を訪れた
この町に大きく貢献した人物であり、しかし身内の居ない彼女を弔うために、ペティの住人達は朝から慌ただしく活動していた。
「いやー、あんなに歳を取ってたのに治療屋として最期まで尽力してたのは立派だよね」
……その言葉はなんだか空々しく感じられたが、それは俺の捉え方が歪んでいるだけだろう。
一晩眠ってある程度は落ち着いたが、未だに頭の整理は付かない。ああするしかなかったと分かっているはずなのに、他の方法があったのではないかとついつい考えてしまう。
だからこそ俺は、ヘンリエッタさんの話題をフラットに受け止めることができないのだろう。
「でも、安らかに逝けたみたいだしそこは良かったよね」
「そう言ってたな、宿の人は」
俺達の泊まっていた宿の主人はヘンリエッタさんとはそこそこの付き合いがあったそうで、今朝、訃報を聞いて治療屋まで飛んで行ったそうだ。
主人の話によると、ヘンリエッタさんは眠っているかのような穏やかな死に顔であり、突発性の病のような辛苦の最期ではなかったようである。
沢山の人を癒して来た大人物の最期が苦しみに満ちたものではあまりに報われない。
「さて、この辺りで良いんじゃない? 周りに他の人は居ないよ」
「そうだな、《双竜召喚》」
空の旅を始めるために小竜を呼び出す。
「《成竜化》」
そして《スキル》効果を発動。莫大な魔力が消費され、小竜の体がメキメキと成長していく。乗用車くらいのサイズになったところで巨大化は止まった。
この《成竜化》は《双竜召喚Lv7》で新たに使えるようになった能力だ。《若竜化》の強化版である。
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人間種―魔人 Lv63
個体名 リュウジ
スキル 剣術(下級)Lv1 体術(下級)Lv9 砲術(上級)Lv4 棒術(下級)Lv7 風魔術(上級)Lv9 土魔術(上級)Lv4 火魔術(上級)Lv1 光魔術(上級)Lv4 水魔術(上級)Lv4 闇魔術(中級)Lv5 暗視Lv8 気配察知Lv9 職権濫用Lv4 双竜召喚Lv7 竜の血Lv--
称号
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旅の間は鍛えられていないため他の《スキル》はあまり成長していないが、《双竜召喚》が育ってくれただけありがたい。
《
「よーし、じゃあ行こー!」
「グラァ!」
背に乗ったマロンの掛け声でチョコが翼を広げる。
主人である俺を置き去りにして飛び立ちやがった。
「おいおい……」
《
「ちょっと待てっ、俺も乗せてくれ」
「えー、自分で飛べるんだからいいじゃん」
「この速度だと魔力が持たねぇんだよ」
《成竜化》の魔力消費は《若竜化》の約二倍である。維持にかかるのもそれくらいだ。
そんな大量に魔力を吸われる状態で成竜の飛行速度に合わせると、消費が回復を大きく上回ってしまう。
というわけで相乗りさせてもらいつつの空旅となった。
それから休憩を挟みつつ空を翔けること数時間、もうクレン山が見えて来た。
今回は前回よりも南寄りに進路を取っている。少々遠回りになるが、この辺りの方が標高が低いからだ。山の手前で一休みし、そして山越えを開始する。
山は簡単に越えられた。標高の低いところを通ったこともあって所要時間を短縮でき、結果的に魔物に襲われることもなかった。
まあ、これは成竜が警戒されていたというのも大きいだろうが。
そうして山を過ぎてからもしばらく成竜に乗って飛び、頃合いを見て降りる。
時刻は夕暮れ、そろそろ野宿の準備を始めるべき時間帯だが、今日はそれは必要ない。
「おやまあ、いつかの冒険者さん達じゃないの。久しぶりだねえっ、元気してたかい?」
「おかげさまで大きな怪我もなくやれてます。女将さんも元気そうで何よりです」
成竜から降りてしばし歩き、辿り着いたのはタセリ村。
以前、《クラッシュライノ》という犀の魔物を倒すために滞在した村た。今はそこの宿屋を訪れている。
「部屋は相部屋かい? 別々かい?」
「《潮風鉱》の代金が浮いたし、別々でいいか?」
「水臭いなー。仲間なんだし遠慮しないでよ。おばちゃん、相部屋で」
「あいよっ」
そんなわけで宿泊手続きを終え、夕食入浴諸々を終えて就寝時間。
布団で横になりながら、ふと思い立ち、部屋の反対側で眠るマロンを鑑定してみた。
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人間種―獣人 Lv63
個体名 マロン
職業 拳士 槍戦士
職業スキル 体術強化 槍術強化
スキル 槍術(上級)Lv7 体術(中級)Lv9 風魔術(下級)Lv7 土魔術(下級)Lv4 火魔術(下級)Lv10 光魔術(下級)Lv7 水魔術(下級)Lv9 闇魔術(下級)Lv6 暗視Lv8 凶神に捧ぐ舞踊Lv7 気配察知Lv10 潜伏Lv10 ビーストボーストLv8
称号 迷宮攻略者Lv4
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いつの間にやら《気配察知》が《レベル10》になっている。九から十にするにはとても時間がかかると聞いていたが、やはり彼女の成長速度には目を瞠るものがある。
負けてられないなと思っている内に、瞼は段々と重たくなって行った。
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