第29話 熱砂★

 焼肉パーティーから一夜明け、俺とマロンはいつものように《迷宮》に来ていた。


 ジャイルの件は衝撃的だったがよくよく考えるとあいつは他人で、しかも敵だ。恨みもたくさん買っていただろうし殺されたのも恐らくそれが原因だ。

 俺達が衛兵に突き出さなければ殺されなかったかもしれない、けれど別に冤罪で捕まえたわけではない。

 犯罪者なら殺されても仕方ないと思うほど荒んしゃいないが気にしすぎるのもよくないだろう。


 わざわざかたき討ちをするような仲でもないので、犯人捜しは衛兵に任せていつも通りの生活を続けようとの結論に至った。

 そういう訳で第六階層、砂漠エリアに足を踏み入れる。天井からの強い日差し(?)が出迎えた。


「あっつ~いッ」

「これはダルいな。しかも砂に足を取られて歩きづれえ」


 砂漠エリアはその名の通り砂漠の環境ステージだ。照り付ける天井光の下、なだらかな砂の丘陵が《迷宮》の端まで続いている。


「私は砂は大丈夫かな。《防御力》が高いからね」


 この世界の《防御力》は多機能で、体が頑丈になる以外にも滑るのを防いだり病気にかかりづらくなったりする効果がある。さらには熱気や冷気への耐性も備わる。

 砂漠エリアにも《防御力》の恩恵がなくては立ち入れなかっただろう。

 かく言う俺も《防御力》はそこそこ高い──少なくとも素の状態ではマロンより上だ──のだが、《スキル》補正込みだと彼女には及ばないようだ。


「二時から四体」


 などと考え事をしている内に敵が接近して来たようだ。マロンが俺達を守るように前に出る。

 俺も右前方に意識を向ける。砂の丘を越えて現れたのは体表の赤い蛇の群れだった。


「シャアアァァァ!」

「《フレイムスネイク》だ。《レベル》は普通に三十弱」

「おっけー、じゃあ普通に行こう」

「ああ、〈フリーズブリーズ〉」


 先手必勝とばかりに〈魔術〉で先制攻撃を仕掛ける。

 風と水を主軸に構成された〈中級魔術〉の寒風が、蛇達に吹きつけその身を凍えさせる、だけに留まらず体の表面には薄っすらと霜が降りている。

 この日射ではじきに溶けるだろうが戦闘の間だけ残れば十分だ。


「しゃ、シャアぁぁ……」


 蛇の動きが目に見えて悪くなる。

 砂漠地帯の魔物には冷気が良く効き、取り分けこのフレイムスネイクには効果覿面なのだと資料にあった。

 攻撃範囲が広い分威力が控えめな〈フリーズブリーズ〉でもこれだけ弱るのだからさもありなんといぅたところか。


「よっ、ほっ、はっ」


 震えながらも牙に炎を纏い威嚇していた蛇達。しかしマロンが踊るように槍を一振りすると頭が一つ地に落ちる。

 ぽとりぽとりと都度四回、振るった槍と同じ数だけ砂上に首が転がった。

 蛇の死体が《ドロップアイテム》に変わる。

 マロンが回収してくれているので俺も向かおう、と坂を上り始めた時だった。


「! 後ろから一匹来てるっ、結構速い!」


 言われて振り返る。背後の坂を見渡すが敵影は見つからない。

 どこに居るのかと疑問が浮かんだ直後、《気配察知》に反応を確認。


「上か!」


 気配を頼りに視線を上げる。そこには……燃え盛る鳥が居た。


「ヴャァァァア!」


 《バーニングバルチャー Lv32》。炎に包まれたハゲワシの魔物が高速で飛行している。


「〈ストーンアロー〉、〈ライトアロ^〉、〈ウォーターアロー〉っ」


 連続で繰り出した〈魔術〉も易々と躱される。

 焦っていたのもあるがそれ以上に、空中の敵に点での攻撃であるアロー系は当てづらい。

 小竜を一匹差し向けながら次の〈魔術〉の準備をする。

 小竜は《ドラゴンブレス》で迎え撃つがハゲワシはそれに猛スピードで突っ込み突破した。


「〈ウィンドシールド〉」

「ヴャァッ?」


 用意していた〈魔術〉を発動する。

 アロー系に比べて範囲の広い〈ウィンドシールド〉なら軌道上に設置するのは簡単だった。

 突如現れた風の盾に頭からぶつかったハゲワシは、墜落こそしなかったものの大幅な減速を強いられる。

 大きく羽ばたき高度を保とうとするハゲワシ。


「ていッ」


 そこへ俺の頭上を飛び越えたマロンが乱入、弱ったハゲワシをグサリと刺し貫いた。

 マロンが坂の上に華麗な着地を決めると同時、ハゲワシの命の灯火が纏っていた炎と共に消え入った。


「ふぅ、少し肝が冷えたぜ」

「危なかったねぇ。戦闘中はもう少し距離詰める?」

「いや、それには及ばねぇ。今回だってもう一匹の小竜が守りに入れる位置に居たしな。それにマロンならヤバい時はすぐに駆け付けてくれるだろ」


 《スキル》で強化されたマロンの《敏捷性》は驚異の一言だ。

 先程〈ウィンドシールド〉を使わなかったとしても、ハゲワシの攻撃よりマロンの到着の方が僅かに早かっただろう。

 加えて小竜を盾にすれば大抵の攻撃は防げるというのもある。


「たはは、そんなに信用されると照れちゃうよ。まあ期待に沿えるよう頑張るけど本当に危ない時はさっきみたいに自衛してね」

「もちろんだ」


 そんなやり取りも挟みつつ。俺達は新しい環境でも順調に攻略を進めていった。




「うぅ~、今日の活動はこれで終わりっ」

「お疲れ様ー」

「うん、リュウジ君もお疲れ」


 灼熱の砂漠から脱出した俺達は互いに労を労った。

 今日は第七階層までの攻略だったが初めての環境なのもあり予想以上に疲労した。温度差からか随分と涼しく感じられる踊り場を抜けて《迷宮》の外に向かう。


「うへぇ、砂が入って気持ち悪い……」

「早く銭湯行って落としてぇな」


 この世界では銭湯はかなりポピュラーな施設として普及している。今は昼だが〈魔術〉や《魔道具》があるためか朝から晩までやっているので今から行っても問題ない。

 余談だが、俺が《小型迷宮》を攻略していた頃に利用していた銭湯、そこの店主は《上級》のさらに上、《特奥級》の《水魔術》を所持していた。

 その時は継続は力なりという格言を思い出し感心したものだが、今通っている銭湯の従業員はそんなことは無いためその店主が特別だったのだろう。


「じゃ、また明日」

「うん、また明日ね」


 ギルドでマロンと別れ銭湯に向かう。番頭さんに入浴料を渡し暖簾をくぐる。変なところで和風だ。

 体を洗って湯船に浸かりながら《ステータス》を確認する。


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人間種―魔人 Lv28

個体名 リュウジ


スキル 剣術(下級)Lv1 体術(下級)Lv6 砲術(上級)Lv3 風魔術(中級)Lv10 土魔術(中級)Lv3 火魔術(中級)Lv4 光魔術(中級)Lv5 水魔術(中級)Lv7 暗視Lv2 気配察知Lv5 職権濫用Lv3 双竜召喚Lv3 竜の血Lv--


称号 竜の体現者ザ・ドラゴンLv4 迷宮攻略者Lv1 竜骨Lv1

===============


 特に目立った変化はない。

 《レベル》も《スキル》も順調に伸びている。《風魔術》はそろそろ《上級》になりそうだ。

 《上級》になったら新しい《職業》も得られるので忘れず《転職》することにしよう。


 しっかり温まった俺は銭湯を出て腹ごしらえをした。そして俺の次なる目的のためとある店に向かう。


「いらっしゃいませ、ランディ不動産です」


 俺の次なる目的、それは家を買うことだ。

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