第7話 ショッピング★
ギルドを出た俺は宿屋に戻って来ていた。フレディ達は《装備品》を直したり新調したりするらしく途中で別れた。
苦戦しつつも鎧を脱ぎ、ストレッチをしながら自身を鑑定する。
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人間種―魔人 Lv17
個体名 リュウジ
職業
職業スキル 砲術強化 火器強化
スキル 剣術(下級)Lv1 砲術(上級)Lv1 職権濫用Lv2 双竜召喚Lv1 竜の血Lv--
称号
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今日だけで随分と《ステータス》がアップした。《レベル》など十七にまでなってしまった。普通のDランク冒険者は《レベル15》前後らしいので採取依頼を達成できたら昇格試験を受けてみよう。
《スキル》だと《職権濫用》が成長し新装備が追加された。
《称号》は《
……ふむ。
「《職権乱用》を試して見るか」
魔力が抜ける感覚と共に右手に透き通るような水色の拳銃が現れる。それの名が《魔導凍拳銃》であると直感的に理解した。
出力や射程で炎銃に劣るが一発ごとの魔力消費が少なく、また六発までは
撃鉄や安全装置の類はなく引き金を引けばすぐさま発砲できるらしい。
「《職権乱用》、《職権乱用》、《職権乱用》」
藁のベッドに炎銃と凍拳銃が散らばる。よし、同時召喚も問題なく行えるな。
オークで射撃を練習している際に検証したのだが、新しく銃を召喚すれば
魔力も多少は嵩むが《職権濫用》は燃費がいいので《竜の血》ですぐに補える。便利な裏技を見つけられた。
薄い毛布みたいな掛け布団を掛けて召喚した銃達を隠す。《スキル》は使えば使うほど成長するそうなので発動したままにしておこう。
さて、これで全ての作業は終わった。
「あ”ぁ~、疲れた~」
備え付けの机に突っ伏す。一段落ついたためか動く力が湧いてこない。借りたばかりとはいえ自分の部屋に戻ったことで、この世界に来てからずっと抱いていた焦燥感みたいなものがフッと弱まってしまった。だが弱まっただけ、このわだかまりは今も俺の中で燻っている。
「やっぱ不安、なのかねぇ」
行き着くのは至極当然の結論。普通の高校生だったのにある日いきなり単身で異世界に放り出されたのだ。危険に溢れた異世界で平然としてはいられない。
だが死んだことや人間関係をリセットされたことについてはあまり気に病んでいないように感じる。一連の出来事があまりに唐突で現実味が乏しいのか、あるいはショックが大きすぎて事態を受け止めきれていないのか。そのことに意識を向けないようにしているというのもあるかもしれない。
まあとにかく、地球での死による精神的負担は自分でも驚くほど見当たらない。
だからこの胸に燻る感情は先行き、具体的には死に対する不安や恐怖なのだろう。
転生時に力を与えられたがそれは最強には程遠いもの。ミノタウロスとの戦いでは何かが少しでも違っていれば死んでいたのは俺だったかもしれない。
前世で死んだ時の記憶は朦朧としていて死へのトラウマはないのだが、死ぬのは普通に怖い。
この不安から解放されるために必要なのは強さなんだと思う。
街の中で暮らしていても魔物が壁を越え侵入してくるかもしれないし悪人に狙われないとも限らない。それに今日のフレディ達のように目の前で困っている人がいたら助けたい。
だから強くなるのは決定事項。いつどんな敵に襲われても死なないと信じられるくらいの強さがあれば、この世界でも日本に居た頃みたいに安心して暮らせるはずだ。
組んだ腕に顎を乗せて思案する。考えるのはこれからのこと。目標はもちろん強くなることだ。そしてそのためには《レベル》を上げ《スキル》を鍛えるのが手っ取り早い。
強さの基準には冒険者等級を用いるのが分かりやすいだろう。自身の総合的な強さを客観的に判断するにはうってつけだ。加えて等級が上がれば《迷宮》にも入れるようになるので一石二鳥だ。
差し当たっては中堅であるC級冒険者を目指そう。最終目標は最高位のS級だが大きすぎる目標を立てても気が持たない。少し頑張れば実現できる目標を一つ一つ積み上げていくのが俺には性に合っている。
ギルドで列待ちをしている間に鑑定で調べたが、今の俺なら《スキル》を駆使すればC級冒険者とも互角以上にやり合えそうだった。
ただ《レベル》では負けていて、その地力の差が何か致命的な失敗に繋がるかもしれないのでC級昇格試験までにはもっと《レベル》を上げておくべきだろう。
「まあ、まずはD級試験だけどなぁ」
捕らぬ狸の皮算用とならぬようしっかり準備を整えよう。
《レベル》を上げ、《スキル》を鍛え、C級冒険者となる。当面の目標はこれだ。その後どうするかは達成した後で考えればいい。
それと〈魔術〉も覚えたいな。火の玉を飛ばしたりするのには憧れるし戦力向上にもなる。明日ギルドで〈魔術〉講座があるらしいし行ってみようか。
あとは
取り留めもなくそんなことを考えているとふとお腹が空いたことに気付く。
お金も沢山あることだし昼食も兼ねて街を散策してみるか。
◆ ◆ ◆
「──というわけでこの《エンジェリックポーション》さえあればどんな《状態異常》でも治せるのさ」
「へー、凄いんすねぇ」
パンとシチューのようなもので腹を満たした俺は《
今は二十歳くらいの店員に各《
それにずらりと陳列された《
「冒険者稼業なんてのはいつどんな敵と戦うことになるか分からないからね、一流の冒険者は《エンジェリックポーション》を常に一本、懐に忍ばせているものだよ」
「じゃあこれも一本、いや三本くらい買っておきます」
「まいどありだね」
まんまとセールストークに乗せられた気がしなくもないが有用だと思ったのだから買うべきだろう。予期せぬ戦闘に巻き込まれるかもしれない、というのは今日身をもって体感したばかりだ。もしフロストミノタウロスが特殊な《状態異常》を付加するような魔物だったなら、俺達は更に不利となっていたはずだ。
普段はあんなことは滅多にないらしいが命が懸かっている以上万全の備えをしておきたい。
「君にお勧めの《
「いいえ、欲しいものは揃ってますね」
「それじゃあ《下級治癒ポーション》が五点、《中級治癒ポーション》が二点、《上級治癒ポーション》が一点、《中級魔力回復ポーション》が一点、《中級解毒ポーション》が三点、《エンジェリックポーション》が三点で合わせて、えーと……六万五千九百二十ティルだね」
やはり《エンジェリックポーション》三本は多すぎたかもしれない。半分くらいはこいつの値段だ。とはいえ今の所持金なら余裕をもって支払えるのでそのまま買うのだが。値段に見合った活躍を祈ろう。
試験管に似たガラスの容器を受け取る。しめて十五本、種類の間違いもない。
《
《錬金術》で強化されているため落としたくらいでは罅も入らないのは聞いていたがそれでも見た目はただのガラスなので少々緊張した。
全ての《
「またのお越しをお待ちしてるよ」
片手を振りながら扉を閉める。ドアベルの音を背に聞きながら次に向かうべきところを考える。
バッグの中には既に服も下着も生活用品も携帯食料も入っている。今しがた《
《装備品》でも探そうかと考えていると客引きの声が聞こえて来た。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 《迷宮》産のレアもの《魔道具》だよ!」
見るとバンダナを巻いた赤毛の女性が《魔道具》の露店を開いていた。この辺りには露店や屋台が道沿いに並んでいるのだがその内の一つだ。
気になったので見て行こう。
《魔道具》とは魔力を用いて様々な機能を発揮するアイテムだと聞いている。電灯代わりになったり時計代わりになったり、通信機能を持つ物もあるとか。こう書くとスマホみたいだが障壁を張ったり〈魔術〉を放ったりと戦闘用の《魔道具》もあるらしい。
「おにーさん旅人? だったらこのテントの《魔道具》がおススメだよ」
「俺は冒険者なんすけど……」
「おっとこれは失礼、でもこの《魔道具》は冒険者にも有用だよ。この支柱を地面に差して魔力を流すと先端から魔力の幕が伸びて簡単にテントを張れるんだ。一つどう?」
今は冒険者証を下げていないので間違えるのも無理はない。
ぐいぐいくる店主のマーケティングを聞きながら《魔道具》達を鑑定していく。便利そうな物から用途の分からない物までさまざまだ。なので店主が使い方も教えてくれるのはありがたい。
次に店主が紹介を始めたのは急須を引き延ばしたような、擦ると魔人が出て来そうなアラビアンなランプだった。
「じゃあこのランプはどうだい? 魔力を込めて灯りを点ければ近くにいるだけで傷が治るんだ。即効性は薄いけど移動中に傷も疲れも癒せる優れモノだよ」
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《養橙のランプ》ランク2:魔力を込めると生物を癒す光を灯す。
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「便利そうっすね。じゃあこれをいただきましょうか」
「まいどありっ」
そこそこ値は張ったが許容できる範囲だ。まだ一週間の生活費くらいは残っている。
ランプを受け取り露天商と別れる。資金も心許なくなってきたことだしそろそろ宿に帰るとしよう。
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