第9話 薬草採取
「〈ファイア〉。〈ライト〉。〈ウォーター〉。〈ウィンド〉。〈ストーン〉。〈ファイア〉。〈ライト〉──」
〈魔術〉を習い昼食を食べた俺はメルチア南東の森に来ていた。昨日買った《
歩きながら〈下級魔術〉を順繰り使っていく。初めは一発ごとに集中しなくてはならなかった〈下級魔術〉にも慣れ、今では森の中を歩きながら発動できるまでになっていた。
練習の甲斐あって五属性全ての《魔術系スキル》を獲得し、今は《スキルレベル》上げに勤しんでいる。
こんなに〈魔術〉を使っていれば魔力がどんどん減って行くが《竜の血》ですぐに補填されるので問題ない。
警戒のため傍に小竜を一匹召喚しているというのに凄まじい回復速度だ。
「この辺りでいいか」
〈魔術〉修行を止め本来の目的に着手する。
俺がこの森にやって来たのは薬草を集めるためだ。今回採取するのは《ヒュル草》と《ポイゾダミ》。それぞれ《下級治癒ポーション》と《下級解毒ポーション》の原料である。
各二十本ずつ集めるのが目標だが視界に入った草を全部鑑定すれば簡単に達成できるだろう。
「はつど、ぐっ……!」
ぎゃあ”あ”あ”あ”っ! 熱い! 痛え! 熱い! 脳をレンチンしたみてぇだっ。
知恵熱を百倍強くしたような痛みにたまらず蹲る。
くそう……、こんなの聞いてねえぞ……っ。
目を閉じ木にもたれかかって熱を冷ます。木陰の涼しさが肌から沁み込み熱も痛みも引いていった。
……ふぅ。どうやら鑑定は一度に対象を取りすぎると頭痛がするようだ。流石に視界全ての草を一度に鑑定するのは無理があったか。これからはもう少し慎重に使って行こう。
それと境界で鑑定対策について訊ねた際に「目立たなければ街中で鑑定されることは滅多にありません」と言われた理由が分かった。
あの時は《スキルレベル》を上げるため会う人全てに鑑定を使っている者も居るのではと思っていたが、こんな痛みに襲われるなら無暗に使いはしないだろう。
鑑定で横着するのは諦めて普通に探すことにする。
《ヒュル草》と《ポイゾダミ》の特徴は聞いている。前者は黄緑の草で後者は紫の斑点がある草らしい。《ヒュル草》には手間取るかもしれないが《ポイゾダミ》なら見落とすことはなさそうだ。
もう一匹の小竜も呼び出して警戒を厳重にし、俺は薬草探しに専念する。《レベル》が上がり《魔力量》が増えたことで《竜の血》の回復量も増し、小竜を二匹召喚していても回復の方が若干速い。
「おっ、あったあった」
早速《ポイゾダミ》を発見した。数本が集まって生えている。念のため鑑定してみるが間違いはなさそうだ。
地面から指二本分くらいの位置に解体ナイフを当てて刈り取る。根は残しておいた方がいいらしい。
それからも採取は順調に進みどちらの薬草も目標数以上集まった。そこで俺は採取を切り上げ次の予定に移る。
木々が途切れ広場のようになっている場所に出る。採取の傍らに見繕っておいた練習場所である。今日森に来た理由の一つは薬草集めだがもう一つは銃の特訓のためだ。
小竜達を飛ばして近くに他の人間や魔物がいないか確認させる。そのまま一匹を巡回させてもう一匹は傍で護衛をさせる。
これで準備は万端、凍拳銃を召喚し遠くの木の枝に狙いを付けて発射する。
氷弾は狙いの枝を外れ他の枝に命中。着弾地点とその周囲を白く凍りつかせた。
気を取り直してもう一射。着弾時にどうなるかは確認できたので今度は枝と枝の隙間を照準した。氷弾はさっきよりは的に近づいた。
そんな調子で凍拳銃の弾を撃ち尽くし、撃ち尽くしては
段々と狙い通り当たるようになってきたので実戦でもそこそこは使えるはずだ。
射撃訓練が終わったら次は〈砲術〉の練習だ。
現在の俺が使える〈砲術〉は九つ。
普通より少し威力が高い〈シュート〉。
力を溜めるのに時間をかけるほど威力が高まる〈チャージ〉。
常時発動していて射撃の精度を高める〈キーンエイミング〉。
当たった相手を弱体化させる〈フィーブルバレット〉。
弾速と貫通力に秀でた〈クレーンスナイプ〉。
一度にいくつもの弾を撒き散らす〈スプレッドショット〉。
弾道を操れる〈コントロールドバレット〉。
透明で威力にも優れる〈トランスパレント〉。
総合力が高く《銀浄》を付与する〈シルバーバレット〉。
〈シュート〉から〈フィーブルバレット〉までが《下級》、〈クレーンスナイプ〉から〈トランスパレント〉までが《中級》、そして〈シルバーバレット〉が《上級》の〈術技〉だ。
等級が高いほど強くなるがその分デメリットも重くなる傾向にある。
まずは〈下級砲術〉から試していこう。意識を集中させ気合を込めて発砲。枝を打ち抜いた〈シュート〉は通常弾よりも広範囲を凍らせた。
続けて他の〈術技〉も使っていく。発動の難易度や疲労の重さ、硬直時間の長さはそれぞれで微妙に異なる。一つ一つ特徴を確かめながら試していく。
そうして《下級》も《中級》も《上級》も一通りの〈術技〉を使い終わった。なかなかの疲労感だ。もうワンセットくらいなら頑張ればいけそうだが街の外で限界近くまで体力を消費するのはリスクが高い。
あと少し普通の射撃訓練をしたら今日のところは帰ってしまおう。
そう思った時だった。巡回に出していた小竜から魔物を見つけたと思念で通達された。
魔物のいる方角に凍拳銃を向けながら後ずさり広場の中心に陣取る。魔力は満タンだし体力にもまだ余裕がある。
最悪、昨日のフロストミノタウロスみたいな変異種が出て来ても逃げ切れるはずだ。
「ガルルルッ」
出てきたのは狼達だった。毛皮は暗がりのようにぼんやりとした黒色。
鑑定したところ《種族》は《シェイドウルフ》、《レベル》は十五付近。パッと見危険そうな《スキル》は無し。よしいける。
三手に分かれながら接近してくる三匹の狼。俺は真っ直ぐ向かって来る一匹を凍拳銃で狙う。一発目、二発目は外れ三発目で右脚を凍らせた。当然なんだが動いてると当てにくいなッ。
転がり倒れた正面の狼の次は右から回り込んできた狼に銃を向ける。距離は最初の半分ほどまで縮まってしまったがそれは射撃も当てやすくなったということ。
一発目で仕留めてやる。
「ぎゃんっ」
氷弾は決意通りに一発で狼の足を撃ち抜いた。
本当に命中した驚きや興奮を
もうあと数秒足らずで接触するというくらいに近づいていた左側の狼の鼻面を正確に射貫く。バランスを崩しながらも慣性で突っ込んできたので小竜に止めを刺させた。
その間に〈砲術〉の準備を済ませうずくまる正面と右側の狼を攻撃。
「〈スプレッドショット〉」
氷弾が散らばり狼達に深い手傷を負わせた。どうやら立ち上がれなさそうだ。
鑑定で確実に殺せたことを確かめると全身から力が抜けて行く。
はぁ、緊張した。最初に二連続で外した時はどうなることかと思ったがその後はスムーズに戦えた。動いている相手とはいえ《レベル》では勝っているし《
結果的にもう一匹の小竜を再召喚することもなく倒せたので快勝と言えるだろう。
《ステータス》を確認する。狼三匹を倒したが《レベル》に変化はない。
《レベル》が下の相手からだと《経験値》の取得効率がガクンと落ちるのは聞いていたため特に落ち込みはしない。
それと《砲術》が上がっている。新たな〈砲術〉は覚えなかったが練習の成果が出てる感じがして嬉しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます