第14話 守護者★

『《ドラゴンブレス》だ』


 後衛の小竜から放たれた息吹がアルマジロの魔物を包み《ドロップアイテム》へと変えた。

 それを拾って少し歩き出入口をくぐった。


「これで四階層も終わり~。いやぁ、仲間がいるとこんなに楽なんだね」

「こっちも助かってる。索敵サンキュー」


 この見通しの悪い《迷宮》を俺と小竜達だけで攻略していたら何度奇襲を受けたことか。

 だが彼女は樹上からこちらを狙ってくる魔物も余すことなく発見していた。パーティーを組めたのはラッキーだった。


「次は守護者だよ。《レベル》は二十だけどどう? 一人でやってみる?」

「二十なら多分行けるな。今日はこれで最後だし一人でやろう。マロンには《職権濫用》も見せたいしな」


 結局これまで《職権濫用》を使っていなかったしいい機会だ。実戦でいきなり使って驚かれないようここらで一度お披露目しておこう。


「じゃあ頑張って。マズそうなら助けるから安心してね」


 そんな話をしながら二人で五階層、守護者部屋に続く扉をくぐる。

 一部屋目はただの四角い部屋だった。入口の反対側にも扉がありその先が二つ目の部屋になる。

 二部屋目も同じように通り過ぎそして三つ目の部屋に足を踏み入れたその時、空気が変わったのを肌で感じた。

 そこはこれまでの階層と同じようなジャングルだった。空気が蒸し暑くなったというのもあるがそれ以上に何か、強い威圧感のようなものを感じる。


「十二時の方向から一体、来るよ」


 マロンの言葉に遅れて枝を揺らす音が聞こえ出し、扉の周囲にある広場に人間ほどの体躯の猿が降り立った。


「キッキィーッ!」


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猿猴種―ロングテイルモンキー Lv20

職業 区間守護者

職業スキル 守護者の妙技 守護者の偉容


スキル 体術(中級)Lv2 鞭術(中級)Lv2 風魔術(中級)Lv2 土魔術(中級)Lv2 火魔術(中級)Lv2 水魔術(中級)Lv2 柿投げLv2 キャッチ・ザ・ムーンLv2 気配察知Lv2 猿の軽業Lv2 自動治癒Lv2 状態異常耐性Lv2 潜伏Lv2 尾旋打Lv2 魔力自動回復Lv2 モンキークライLv2

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 所々茶色の混じる白い体毛をしたその猿に小竜達を吶喊させる。

 守護者である猿の《パラメータ》は通常の《レベル二十》の魔物を凌駕する。小竜二匹の攻撃にも手足や非常に長い尻尾で危なげなく対処するばかりか軽やかな動きで逆に翻弄している。

 このままでは埒が明かないので凍拳銃を向ける。激しく動き回っているが大きく跳び撥ね着地した瞬間に狙いを定めて、撃つ。


「〈コントロールドバレット〉」

「クギィィィッ!?」


 魔物は咄嗟に首を捻るも軌道修正を加えられた氷弾はその赤い顔面に直撃。頭を凍り付かせるほどの威力は無かったがこの一撃に猿は激しく動揺し狂ったように暴れ出した。

 小竜達は距離を取ってブレスを放ち俺も凍拳銃で援護する。そしてダメージで動きが鈍ったところへ小竜が群がり守護者はあっという間に《ドロップアイテム》に変わった。

 呆気ないな。


「銃ってすっごいね、攻撃が全然見えなかったよ」

「そういう武器だからな。それでどうだろう、背後から援護射撃しても大丈夫か?」

「うん、狙いも正確みたいだしこれならいいよ。でも攻撃がスレスレを通るのは怖いし私が敵から距離を取った時だけでお願い」

「わかった」


 そんなやり取りをしながら《ドロップアイテム》を回収し、奥の方に宝箱が現れたに気付いた。


「これ、俺が開けていいのか?」

「うん、一人で倒したようなものだしね」


 小さな興奮と共に蓋を開くとそこには木の枝で編まれた籠手が収まっていた。


「《装備品》だね。初《迷宮》記念にプレゼントしよっか?」

「さすがにそこまでしてもらうのはな。それにお礼をしたいのはむしろ俺の方だ。今日は初心者の俺に色々教えてくれてありがとう」

「照れるなぁ。でもありがとう、これをどうするかは《鑑定》してもらってから決めようよ」

「そうだな」


 既に鑑定したことは黙っておいた。

 効果は《攻撃力》と《防御力》を少し引き上げるスタンダードなもので俺の戦法とはあまり噛み合わないように思われる。後から「やっぱりください」と申し出るようなダサい真似はせずに済みそうだ。

 枝でできた籠手を拾った俺達はさらに森を進み入って来たのとは別の扉を見つけた。そこから続くこじんまりとした部屋には《階層石》が設置されている。守護者を倒されるとこの部屋に入れるようになる仕組みだ。

 俺は《階層石》に近づいて魔力を込めた。


「お疲れ。後は帰るだけだね」

「ああ、だけどこの道引き返すのはダルいな」

「《迷宮》なんだししょうがないね」


 実は守護者を倒した広場からここまでかなりの距離を歩いてきていた。他の魔物は居ないとはいえこの蒸し暑い森をまた長時間歩かなくてはならないのは気が滅入る。


 ひいひい言いながら《迷宮》を出た俺達はギルドへ行き素材を換金した。枝の籠手も鑑定したのちに売った。報酬金は二人で山分けだ。


「それじゃあ明日も今日と同じ時間に集合で」

「そうだな、また明日」


 マロンとはギルドで別れ昼飯を食べに大通りへ向かう。まだまだ知らない店は多数あるのでいくつか覗いて良さそうなところに入った。




 そして午後。俺は《スキル》の特訓のため街から程よく離れた平原に来ていた。今の《ステータス》はこんな感じだ。


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人間種―魔人 Lv18


スキル 剣術(下級)Lv1 体術(下級)Lv4 砲術(上級)Lv2 風魔術(中級)Lv2 土魔術(下級)Lv3 火魔術(下級)Lv5 光魔術(下級)Lv4 水魔術(下級)Lv5 職権濫用Lv3 双竜召喚Lv2 竜の血Lv--

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 昇格試験で肉弾戦をしたからか《体術》の《スキルレベル》が上がっているな。新しく〈流免るめん〉という〈体術〉を覚えた。

 この〈術技〉を使えば攻撃や衝撃を受け流せる。効果は薄いが反動等のクセが少なく使いやすそうだ。


 と、そんなことはどうでもいい、早く練習を始めなくては。

 今日の目標は《魔術系スキル》を全て《中級》にすることだ。特に部屋が汚れるため宿屋では使えない《水魔術》と《土魔術》を中心に鍛えていく。

 クールタイム──〈術技〉ごとに設定されている冷却期間。期間中に同一〈術技〉を使用すると体力あるいは魔力消費が大幅に増加する──に気を付けながら〈魔術〉を連打する。

 その隣では小竜が暇そうに草を食んでいる。見晴らしの良い平原なので大丈夫だとは思うが念のための奇襲対策だ。

 《双竜召喚》の《スキルレベル》が上がったことで小竜の《パラメータ》も少し伸びたがその力を確かめるのはもう少し先になりそうだ。




 黙々と訓練を続けてどのくらいの時間が経っただろうか。日も傾き始めたしそろそろ切り上げて帰るとしよう。

 今日は目標通り水と土を《中級》まで上げられた。火と光は届かなかったもののあともう一息だ。今夜中にでも《中級》に上げられるだろう。

 ぐぅ〜っと一つ伸びをして俺は帰途に就いた。

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