第90話 事件の結末
連行された青年、及び倒れていた男達に取り調べが行われた。
部外者の俺はそこには同席できなかったが、そのときの様子はクッカから聞いた。
情報の取り扱いに問題がある気もするが、騎士団の一員である彼女が良いと言っているのなら良いのだろう。
その話をまとめるとこうだ。
まず、青年が《封魔玉》を手に入れたのは数日前。家の前で待ち伏せていた人物にもらったたとのことだった。その人物は全身を灰色のローブで覆っており顔は見えなかったが、声から恐らく男性であったそうだ。
そいつが半ば押し付けるようにして《封魔玉》を渡し、逃げるように去って行った後。青年は一度はそれを衛兵に届けようとしたとらしい。
しかし好奇心に負け、少しくらいなら大丈夫だろうと使ってみたが最後、あれよあれよと契約にこぎ付けられてしまったという。
「どこまでが本当かはわかりませんが、少なくとも灰色ローブの男に関してはかなりの確度であると思われます。他の契約者の証言とも一致していますから」
最近増えているという契約者。そのほとんどが灰色ローブの男から貰ったと言っているそうだ。
不思議なことに、捕まる契約者の数に対して、《封魔玉》を渡されたと騎士団に届け出る者の数が極端に少ないらしいが、原因はまだ掴めていない。
《ユニークスキル》の存在を考慮すると、可能性を絞り切るのは難しいそうだ。
それから、青年と男達が争っていた原因だが、男達が大声で騒いでいたのを咎めたら突っかかって来たため、仕方なくやり返したとのことだった。
青年は少し前にも似たようなことをやっていたようで、クッカの調べていた暴行事件も自分の犯行だと認めているらしかった。
まあ、この事件にはそれほど深く関わっているわけではないので、このくらいで良いだろう。彼らの処遇についても、騎士団の人達に任せておけば間違いはないはずだ。
最後に、絶対に黒幕を捕まえて見せます、と意気込んでいたクッカに別れを告げて、俺はその場を後にした。
それから一日が経った。
休日が終わり、俺とマロンは今日も今日とて《大型迷宮》に潜る。
「ひゃ~、真っ暗だね」
「洞窟エリアだからな」
ここ、第十六階層は洞窟の階層だ。固い岩盤の中にアリの巣状に道が張り巡らされている。
天井光は無く視界は《暗視》頼り。そして現れる魔物は──。
「うへぇ」
「ソッコーで倒すぞ」
──巨大虫である。
虫は特別苦手ではないが、このデカさだとさすがに気持ち悪さが勝る。
今回出て来たのはカマキリの群れだ。真っ赤なカマキリが四体、群れを成して現れた。道が狭く巨大カマキリは三体までしか横に並べず、一体だけ後ろを歩いているが。
「〈ブラストブレイク〉」
容赦なく初手から〈特奥級魔術〉を使用。通路一杯の暴風塊が、全てを破壊せんと駆ける。
カマキリ達も〈剣術〉や〈爪牙術〉で抵抗するも、相殺し切ることは出来なかった。抜けて来た暴風に押されて体勢を崩す。
「《成竜化》」
「グラァッ」
そこへチョコを突撃させる。成竜となったチョコは瞬く間にカマキリ達に肉薄し、《ドラゴンブレス》を吐き出した。
闇の奔流に呑まれ、前列にいたカマキリ達がドロップに変わる。
「〈ブロウアローズ〉、召喚解除」
気配を頼りに〈特奥級魔術〉で追撃。消えたチョコの向こう側、生き残っていたカマキリを蜂の巣にして倒した。
「よし」
この階層の魔物は最も強い個体でも《レベル62》。
《ドロップアイテム》を回収し進行を再開する。洞窟エリアの曲がりくねった道を足早に進んで行く。
上下左右に蛇行する道は見通しが悪い。けれど、《気配察知》の高い俺達にとってはさしたる障害でもない。
むしろ相手から発見されるのを遅らせられるという利点にもなっている。
このことは、虫魔物を避けたい俺達には好都合だった。
洞窟エリアでは道の分岐・合流が多いことも幸いし、最短ルートに魔物がいる場合は遠回りしてやり過ごすことができる。
このようにして、俺達はほとんど戦闘をせず《迷宮》を進んで行った。
「このまま進むと二つの集団にぶつかりそうだけど、どっちか冒険者だったりしない?」
「どっちも魔物だな」
「そっか……」
鑑定結果を告げると、マロンは露骨にしょんぼりとした。
「まあ、本当に繋がってるかは分からないけどな」
地図に道の『高さ』は載っていない。道同士が重なる点を見ればどちらが上かはわかるが、坂が至る所にあるこの洞窟では、それも大して参考にはならない。
よって、同じ高さに気配があっても、この道がその気配の主の元に続いているかは分からないのだ。
「うん、遠回りした先にもまた魔物がいるかもしれないしね。ここは直進で良いかな」
「そうだな。もしもの時はさっきみたいに倒せばいい」
「じゃあそういうことで」
そう結論付け直進したところ、接敵までに一つ、大きな下り坂があり、群れの気配の下をくぐり抜けられた。
一筋縄では行かない洞窟エリアだが、俺達は順調に攻略していく。
初突入から二日が経った。
虫への厭悪を原動力とし、破竹の勢いで攻略を進め、ついに二十階層、区間守護者の待つ階層にたどり着いた。
若竜達を先行させて敵を排除するカナリア作戦を思いついてからは、戦闘に参加することもほとんどなくなっていたが、さすがに守護者まで若竜達に任せるわけにはいかない。
鬱々とした気持ちで守護者部屋まで歩いて行く。
「ヤバそうだったら早目に言えよ。《エスケープクリスタル》には余裕あるからな」
「大丈夫だよ、心配しないで」
彼女を気遣うのには理由がある。というのも、《レベル》があまり上がっていないのだ。
先述したように、洞窟エリアでは魔物は避けるか若竜に任せるかだった。
俺は若竜の《経験値》をもらえるが、マロンはそうではない。
とはいえ、一つ前の区間守護者相手に有利に立ち回って見せた彼女のこと。杞憂に終わる可能性も充分にある。
さて、そんなことを考えていると今回戦う守護者の元に着いた。戦闘に集中するとしよう。
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蜘蛛種―
職業 区間守護者
職業スキル 守護者の妙技 守護者の偉容
スキル 爪牙術(特奥級)Lv7 風魔術(上級)Lv7 土魔術(中級)Lv7 火魔術(上級)Lv7 水魔術(上級)Lv7 闇魔術(特奥級)Lv7 暗視Lv7 糸強化Lv7 糸繰Lv7 インセインコールLv-- 狂毒爪牙Lv7 蜘蛛の脚Lv7 蜘蛛の糸Lv7 蜘蛛の牙Lv7 蜘蛛の爪Lv7
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