第84話 王都来訪★

 次の街で盗賊達を引き渡した俺達は、その後もいくつかの街を経由し、そして王都に到着した。


「ここまでありがとうございました」

「何言うてんねん、お礼言うんはこっちや。おおきにな、また機会があったら今度も護衛頼むわ」

「その時はよろしくお願いします」


 王都の広場で隊商の面々に別れを告げた。

 各々の商店なり取引先なりへと散って行く彼らに見送り、王都の街並みに目を向ける。


「何て言うか、都会、って感じだな」

「だよね。壁の色も真っ白」


 盗賊の処遇に不服そうだったマロンだが、引き渡しの報奨金でお菓子を奢ったら機嫌を直してくれた。

 ピカピカとした王都の建築物の感想を言い合う。


「しかもあそこ、お城が見えるよ」

「聞いてた通りは街のどこからでも見えるんだな。デカすぎて距離感が掴めねぇ」


 初めて首都を訪れた修学旅行生のように興奮しながら歩いて行く。

 道一つ取っても綺麗に舗装されており会話の種は尽きない。

 その内に宿屋に着いた。護衛の報酬を半分ほど費やして当面の宿を取り、それから昼食を食べる。


「じゃあ早速」

「行くか、《迷宮》」


 ギルドで資料に目を通した俺達は、《大型迷宮》へと足を踏み入れた。




 そうしてやって来たのは《大型迷宮》第九階層。《迷宮攻略者Lv4》の効果で第八階層までを無視して直行した。

 環境は夜の森。天井からの光が弱く、《暗視》無しでは視界が利かない。狼やフクロウの魔物が《潜伏》しつつ襲い掛かって来るエリアである。


「えーと、あそこに炎樹があるから、こっちだね」


 地図の案内に従って進む。目印になる特徴的な植物や地形がそこそこあるため、暗い森でも迷う心配は少ない。


「む、四時方向から三体」

「みたいだな。俺から仕掛けよう」


 このエリアの魔物は《夜闇紛れ》という上位の《潜伏系スキル》を持つが、俺達の《気配察知》も《スキル》なり《称号》なりで強化されている。見逃すことはない。

 〈魔術〉を用意しつつ出現を待つ。

 程なくして、魔物は現れた。

 木々の間を駆けるのは三匹の四足獣。鑑定によって得た種族名は《ドローコヨーテ》。狐と狼の中間みたいな見た目の獣である。


「〈ブロウアローズ〉」


 爆風が幾本もの矢となり、コヨーテ達に殺到する。

 矢の群れはコヨーテ二匹を蜂の巣にしたが、もう一匹には躱された。けれどそちらも問題はない。


「ハッ」


 疾風はやての速度で距離を詰めたマロンが鋭く一刺し。憐れコヨーテは串刺しにされてしまった。


「こんなもんか」

「岩山エリアよりは一段落ちるからね」


 この階層に出て来る魔物は《レベル39~48》。メルチアの《中型迷宮》で言うところの巨大樹エリアくらいだ。今更苦戦などしない。

 それからつつがなく《階層石》を発見し、第九階層入口まで戻った。

 そして区間守護者の待つ守護者部屋へ。

 さて、部屋に入ってから守護者がやって来るまで少しあるので、今の内に《ステータス》を確認しておこう。


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人間種―魔人 Lv64

個体名 リュウジ

職業 風魔銃士 風魔導師 土魔銃士 火魔銃士 光魔銃士 水魔銃士 闇魔術見習い

職業スキル 魔風の銃弾 魔術強化 儀式魔術 風術巧者 砲術強化 火器強化 魔土の銃弾 魔火の銃弾 光魔術強化 魔光の銃弾 魔水の銃弾 闇魔術強化


スキル 剣術(下級)Lv1 体術(下級)Lv10 砲術(上級)Lv5 棒術(下級)Lv9 風魔術(特奥級)Lv1 土魔術(上級)Lv4 火魔術(上級)Lv2 光魔術(上級)Lv6 水魔術(上級)Lv7 闇魔術(中級)Lv7 暗視Lv9 気配察知Lv9 職権濫用Lv4 双竜召喚Lv7 竜の血Lv--


称号 竜の体現者ザ・ドラゴンLv7 迷宮攻略者Lv4 竜骨Lv3


装備 巌魔の首飾り

   シークレットリング

   ジェネラルヘルム

   スパークラークエンブレム

   遁走の蹄靴

   濡羽の王笏

   風魔導師の指輪

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 《スキル》は全体的に伸びているが、一番に着目すべきは《風魔術》だろう。遂に《特奥級》に到達したのだ。

 一属性に特化している魔術師でも辿り着けない者の方が多い《ランク5》の《スキル》であり、実際特奥級術技系スキルを持つ者はメルチアではあまり見かけなかった。

 それに合わせて《風魔導師》に《転職》しており、《魔力量》、《魔導力》、《抵抗力》が上がったのに加え、《職業スキル:風術巧者》も得られた。


《風術巧者》風魔導師専用職業スキル:自身の使用する風系統の〈魔術〉に対し、消費魔力軽減、クールタイム短縮、発動補助の恩恵を与える。


 消費魔力軽減は俺にはありがたみが薄いが、他の効果はどれも有用だ。順当に〈魔術〉を強化された。

 それから、《付加》を行った《濡羽の王笏》についても紹介しておこう。


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《濡羽の王笏》ランク5:装備者の魔導力を大きく引き上げる。装備者の風の魔術を強化する。装備者の闇の魔術を強化する。

 損傷を自動修復する。耐久力上昇。

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 デシレアの《付加》により二つの効果が追加された。自動修復と耐久アップだ。

 攻撃を杖で受けたり、〈棒術〉で応戦したりしても折れ難くなった。


「来るよ」

「おう」


 入ってすぐの広場で待機していると、区間守護者の接近を察知した。

 そいつはこのエリアの魔物には珍しく、気配を全く隠していなかった。

 強力な気配と移動音が近付いて来る。


 ──ッ、ザッ、ザッ! ドンッ!!


 数十メートル先にある広場の外縁部。そこの木を高々と跳び越え、区間守護者は現れた。


===============

人狼種―ネフェリアスウェアウルフ Lv50

職業 区間守護者

職業スキル 守護者の妙技 守護者の偉容


スキル 爪牙術(上級)Lv5 体術(中級)Lv5 風魔術(上級)Lv5 土魔術(中級)Lv5 火魔術(上級)Lv5 水魔術(上級)Lv5 闇魔術(上級)Lv5 暗視Lv5 ウルフファングLv5 疫病の爪牙Lv5 狼の狩りLv5 気配察知Lv5 斜影狼召喚Lv5 人狼走法Lv5 スカーロアLv5 潜伏Lv5 爪牙強化Lv5 バッドブラッドLv5 人化Lv-- 夜闇紛れLv5

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 そいつは二足歩行の狼だった。いわゆる人狼である。

 体毛は黒で、アクセント程度に深紅のラインが走っている。

 武器は持っていないが、奴の手から生える大振りの爪を見て油断できる者はいないだろう。

 凶暴そうな人狼が着地し、まず最初に行ったのは、咆哮だ。


「アオオォォォーンッ!!」


 大音量の叫声きょうせいが叩きつけられる。他者を恐怖させる《スキル:スカーロア》が乗っており、《抵抗力》の低い者はこれを聞いただけで身動きが封じられる。


「〈ゲイルジャベリン〉」


 無論、俺達には無縁のことだが。

 吠えている隙を狙って〈魔術〉を放つ。


「グルルゥッ」


 それなりに距離があったため呆気なく躱された。

 こちらを睨んだ人狼は、《斜影狼召喚》によって配下の狼達を呼び出していく。


「〈ストームブルーム〉」


 そこへ投じるは風のたま。風属性特有の優れたスピードで宙を翔け、瞬く間に人狼達の元へ到達。

 俺が起動を念じると、風の珠、否、嵐のつぼみは開花する。


「ギャインっ!」


 球状に凝縮されていた嵐が解き放たれ、周囲を蹂躙した。

 暴風が、豪雨が、迅雷が。濁流の如き苛烈さで拡散し、狼達は斬られ、撃たれ、焼き尽くされた。

 守護者の人狼は配下より高い《敏捷性》と《気配察知》を活かし、一足先に逃げていたものの、かなりの深手を負っている。

 それでも闘志を燃やす人狼へ、空から刺客が迫る。


「グラァッ!」


 成竜状態のチョコだ。戦闘開始以前から上空で待機していたがチョコが急降下攻撃を敢行したのだ。

 気配を捉えた人狼が回避行動に入る、そのタイミングで俺も〈魔術〉を放つ。


「〈ブロウアローズ〉」


 大挙する爆風の矢群。それらは右側に偏っており、自然、人狼の選択肢は左方への回避に限定される。

 そんな明け透けな誘導に、しかし、窮地の人狼は従わざるを得ない。素直に左に跳躍するも、そこには気配を殺したマロンが。

 戦闘の始め、《スカ―ロア》が使われた時から隠密行動を開始していたのだ。


「〈大鋒槊〉」


 自然な動作で突き出された槍が人狼を貫く。

 こうして区間守護者は《ドロップアイテム》に変わったのだった。

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