第34話 《風魔術師》★
区間守護者討伐から一夜明け。
本日は月曜日。ついでに休日でもある。ここ数日ずっと戦っていたからな。
「じゃあレン、いい子にしてるんだぞ」
「うん」
レンが首を縦に振る。
昨日来たときは俺に勧められたから渋々と言った風だったが、今日は抵抗みたいなものを感じさせないすんなりとした足取りだった。
あまり話は聞けていないが孤児院では上手くやれているようだ。
レンと別れ冒険者ギルドを訪れる。
「《クラスクリスタル》を使わせてください」
《風魔術》が昨夜、《上級》になったのだ。
受付の人に連れられて《クラスクリスタル》のある部屋へ。そのまま水晶に触れて魔力を流す。
『以下の項目からあなたの取得する《職業》を選択してください。
・
取得した《職業》は取り消せません』
《風魔銃士》を選択すると水晶が光り《転職》が完了した。ギルドを出る。
《ステータス》の変化を確認してみよう。
===============
人間種―魔人 Lv32
個体名 リュウジ
職業 風魔銃士 光魔術見習い
職業スキル 魔風の銃弾 魔術強化 儀式魔術 砲術強化 火器強化 光魔術強化
スキル 剣術(下級)Lv1 体術(下級)Lv6 砲術(上級)Lv3 風魔術(上級)Lv1 土魔術(中級)Lv4 火魔術(中級)Lv5 光魔術(中級)Lv7 水魔術(中級)Lv9 暗視Lv2 気配察知Lv5 職権濫用Lv3 双竜召喚Lv4 竜の血Lv--
称号
===============
砂漠エリアの魔物はほとんどが俺より《レベル》が高かったため《経験値》の入りが良い。《レベル》は四つも上がっていた。
そして《職業》だが……随分とすっきりした。
《風魔銃士》は《複合職》、言うなれば良いとこ取りの《職業》だ。
複合元となった《
ばかりか《職業スキル:魔風の銃弾》まで得られた。これは〈風魔術〉と〈砲術〉を組み合わせた強力な〈複合術技〉が使用可能になる《職業スキル》だ。
今使えるのは一種類だけだが手札が増えた。今度試してみよう。
ちなみに《儀式魔術》は《風魔術師》の《職業スキル》だ。〈儀式魔術〉を扱えるようになる。
〈儀式魔術〉とは複数人で協力して発動させる強大な〈魔術〉であり、威力・範囲ともに通常の〈魔術〉の域から大きく逸脱している。
まあ今のパーティーに魔術師は俺一人なので使う機会は当分訪れなさそうだが。
《スキル》はいつも通り順調に育っている。
今回目を引くのは《称号》だ。これまでさっぱり動きを見せなかったというのにいきなり両方とも《レベル》が上がっている。《竜骨》の方は単純に効果量が増しただけのようだが《
それは飛行能力。魔力を消費して空を飛べる能力だ。ちょうど人の居ない裏通りに着いたので早速試してみよう。
「よっと。お、浮いた浮いた」
意識を集中させ慎重に力を込めていくと段々体が軽くなり、ゆっくりと浮かび上がった。成功だ。
重力と釣り合うよう魔力を調節し空中で静止する。そのまま少しだけ前に傾けるよう意識すると体が微かに前進しだす。
その分浮力は減ったが込める魔力を増やして補填する。
「おっと」
壁にぶつかりかけて慌てて停止する。使い熟すにはまだまだ慣れが必要か。
だがこれはいい能力だ。魔力さえあれば空中でも自在に動けるし、その魔力も速度を出しすぎなければそこまで消費しない。
それからしばし飛行を試し、慣れてきたところで目の前の建物の屋根の上まで飛んで行く。
屋根の斜面に寝そべって隠れながらこっそり庭を見下ろした。
「盗み見なんて性格が悪いね。君がそんな奴だとは思わなかったよ」
唐突に投げかけられ声に驚き後ろに振り返る。そこにはニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべるマロンがいた。
恐らく出かけていたのだろう、私服姿で買い物袋を持っている。
「何だマロンか。脅かすなよ」
「『脅かすなよ』、じゃないよ。何してんのさこんなとこで」
「レンの様子を見に来ただけだ。預けて知らんぷりってわけにもいかねぇだろ? それに明日からはあれがあるしな」
下手な声真似を披露したマロンへと正直にそう返した。
レンからは問題が起きているような雰囲気は感じなかったが俺の観察眼はそこまで信頼のおけるものではない。
そんな素振り一切なくとも虐めとかの問題が起きたり起こしたりしていることも考えられる。
預かってもらうようお願いしたのは俺なのだしそこは責任を持って確認しておくべきだろう。
「ふぅん? 優しいねぇ」
マロンはまだ疑っているのかそれともからかっているのか、怪訝そうに答える。
心外だ。
「でもその心配はいらないよ。孤児の子達は仲良くしてるって言ってたし」
「みたいだな」
眼下の庭では子供達に混じって鬼ごっこをするレンの姿があった。レンや他の子達の表情に暗いところは見えない。
少なくとも目立った問題はなさそうである。
これなら明日からも大丈夫だろう。
「マロンはこの後予定はあるか?」
「特にないかな。買い物はもう終わったしねー」
彼女は買い物袋を揺らして見せた。
「そうか。ならちょっとばかし頼みごとがあるんだが」
「うん? なになに」
「俺に《闇魔術》を教えてくれ」
かつて〈魔術〉講習で習得することができなかった《闇魔術》。講習以来、時間を見つけては自主練に励んでいたものの一向に成功する気配がない。
なのでいずれ、覚えている人に教授してもらおうと考えていたのだ。
「いいけど、どうして? 今でもきちんと魔術師やれてるのに。四属性はコンプしてるんだし闇を覚えるより今ある属性を伸ばした方が良いんじゃない」
「そりゃそうだけどよ。でも使える属性が増えれば使える〈魔術〉にも幅が出るだろ。それにやってみたら意外に速く成長するかもしれないしさ」
嘘である。講習で覚えられなかった以上、恐らく俺に《闇魔術》の適性はない。覚えてもあまり強くはならない。
だがしかし。やれることがある内から諦めるのは癪だし、せめて自分で納得できるくらいの努力はしておきたいから粘っている、というのが本音だ。
意地を張っている自覚はある。
けれどここで断念したらこの先ずっとそのことが胸につかえるだろう。
心の不調は体の不調に繋がる。なのであながち無駄な行いではない。はずだ。
「まあ、物は試しだよね。先輩冒険者として教えて進ぜよう。でもその前に」
言葉を区切ったマロンが屋根から飛び降りる。孤児院の庭だと万が一があるかもしれないからか後ろの路地にだ。
「よっと。いつまでもそんなとこ居たら危ないよ。練習は下でやろう」
「そうだな」
飛行能力があるから心配無用だ、なんて言う訳にも行かずそろりそろりと屋根から飛び降りた。
「まずどこまでできるのかやって見せて」
「おう」
「あー、ここ、ちょっと偏りがあるね。もう少し均して」
「こうか?」
「そうそう。そんな感じ──」
マロン先生のご指導のもと試行錯誤すること数分。
「〈ダーク〉」
「おおーっ! やったぁ!」
〈下級闇魔術:ダーク〉は案外あっさり成功した。《ステータス》にも《闇魔術》が追加されている。
マンツーマンなので逐一アドバイスを貰えることと、俺が〈魔術〉講習の頃より魔力操作に習熟していてアドバイスをすぐに反映させられたことが合わさった結果だろう。
「結構すぐだったね」
「教え方が上手だったおかげだ。ありがとう」
「いやいや、こんなに早いのはリュウジ君の才能だよ。これからの戦いでも期待してるよ」
じゃあねー、と孤児院の方に去っていくマロンと別れ路地をあてどなく歩く。
本格的にやることがなくなってしまった。帰って〈魔術〉の練習でもしようか。
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