第21話 作戦会議
放課後。
黒牙、神宮寺、千藤、久遠チームが教室に残り、朝の大まかな方針の詳細を決めていた。
「まずは山頂を目指す1チームを決めるべきでは?」
珍しく久遠は他チームの意見を尊重しようという姿勢だ。
「そうだね、ではここにいるみんなで投票して決めようか?」
「私たちはいいですよそれで。久遠さんたちは?」
「昼休みに黒牙と神宮寺は何やら相談をしていた。おそらく罠というか大変な役の押し付けだな」
オレは久遠の肩を叩いて小声で伝えた。
「わかってるわよ。東西南北に分かれてってことは1人で知らない山を攻略しなければならない。平地でバケツリレーしていた方が安全だからねきっと」
ポイントは欲しいが危険までは冒したくない、それはオレたちもそうだ。
……
「わかったわ、ただし条件がある」
「なんだい?」
「もし久遠チームになった場合、作戦は全てこちらで決めさせてほしい。安心して、試験を放棄しようなんて一切考えてないから。あくまでも1D勝つために」
「いいよ! じゃあ票は紙で、名前は書かないで書くのは1チームのリーダー名」
久遠の条件を吞んだ黒牙は早速紙を人数分用意してその場にいる全員に配り始めた。神宮寺はもう結果が決まったかのように電子手帳をいじっている。
「私たち……どうすればいいのかわからなくて……」
千藤はオレと久遠にそう小さく伝えた。
「迷ったなら白紙で出せばいいのよ千藤さん。それでいいって黒牙くんも言ってるわ」
「……ありがとう」
投票の結果、案の定残りの1チームは久遠チームとなった。直接的な行動として4チームと久遠チームは関りが無いためオレたちは教室を出てコモンルームに行くことにした。
コモンルームとは学年ごとに1つ、共有スペースとして使える空間であり、放課後は人が少ないことが多い。
「まったく……分かりやすいのよ!」
「え、何のこと?」
「神代さん、それ本当に言ってるんですか?」
「え?」
「とりあえず! こっちも作戦考えるわよ!」
クラス対抗ではあるにもかかわらずまた4人だけの見慣れた作戦会議が始まった。
「で、天道くんは何がベストだと思う?」
「何でオレに聞くんだよ……。リーダーだろ、まずはリーダーが提案してくれ」
「どうせ文句言ってくるから最初に親切に聞いたのよ」
人を文句オヤジみたいに言うな。慎重だと言ってほしいものだ。
「そうね、東西南北に分かれるというのは賛成ね」
「え~~!?!? 何で! やだやだやだやだ、せっかく一緒にと思ってたのに!」
神代が強く駄々をこねて反対する。
「中間試験で前のオレたちが1Dの他チームを下げようとしたのと同じだ。他クラスは勝つために頑張る! じゃないんだよ。そういうクラスもあるかもしれないが、勝つためには他のクラスの足を引っ張るんだよ……」
「神代さんもし良ければ僕と一緒にどうですか? 東西南北じゃなくても3箇所からでも大丈夫でしょう」
少し怖く言い過ぎたか、神代は涙目になってしまったのを見て修多羅がフォローを入れる。
「修多羅くん神代さんをお願いするわ。もし私たちが固まってスタートした場合かつA、B、Cが協力して何人かで足止めを食らったら1Dは水汲みオンリーで頑張ってもらうしか勝ち目が無くなる。それだけは避けたいの」
「うん……わがった……。でも結局バラバラでも足止めされるんじゃ……?」
「それは無いわ」
久遠は東西南北の4つのコースをノートに記した。
「さっき黒澤先生にもらったコース種類よ。東コースからだと険しい森を進むことになる。南も森が広がっているコースだが、危険動物が出没する。西は観光コース。安全な舗装道路があるが距離は一番長く、くねくねした道のり。北コースはそもそも上陸が不可能な断崖絶壁。船をつけてそこからロッククライミングのように登っていくか、ロープやワイヤーを駆使して登るしかない。」
なるほど。久遠の言いたいことがだいたいわかったぞ。選べるコースは実質安全な東か西コースの2つのみ。そのどちらかに集中することになり、逆にそれ以外のコースを選べば他チームを気にせず自由に動けることになる。
「リーダーはどこが勝機があると思ってるんだ?」
「私は断崖絶壁の北コースかしら。こういう時のために鍛えてたから。神代さんと修多羅くんは一番集まりそうな東か西コースをお願い。足止めされてもそれは向こうにも言えることだから気にしないで」
ん? 話を聞いていたオレはまずいことに気が付いた。そう……
「余りのコースはオレか? 無理だぞ危険動物なんて。見ろこの貧弱な筋肉を。オレを殺す気か?」
「ええそうよ」
「え? まじで」
「冗談よ。よく考えたらあなたも断崖絶壁の北コースでいいわ。ここなら足止めも不可能だから」
「当たり前だ」
今度冗談いうときはその真顔をどうかやめていただきたいのだがな。
それぞれのコースは分かったがそれらの詳細はほぼわからない。作戦会議はとりあえずコースを決めた所までしか出来なかった。「あとは対策を考えといて」と言い残して久遠は荷物を持って帰ってしまった。
「作戦会議はここまで、か。」
「そうですね。これが今ある情報での限界だと思いますし」
逆に全員が断崖絶壁コースに集結したらそれはそれで面白いなと妄想しながらオレもコモンルームをあとにした。
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