第23話 レッツクライミング
試験開始から30分、久遠と並列に並ぶようにゆっくりではあるものの着実に上に上ってきていた。クライミングはバランス感覚と適切なルート選択が必要になってくる。時には掴みやすい石を選ぶためにあえて下に下がることもある。久遠とはこまめに石の状態などを共有しながらペースを合わせるようにしている。
「想像以上に慎重になってしまうわね」
「このあと体力は落ちていくばかりだから尚更時間がかかりそうだ」
「にしては余裕そうね。初心者じゃないでしょ?」
オレが軽装にもかかわらずついてくる様子を思ったのか不思議そうな顔をして聞いてきた。
「体力を使わないように丁寧に体を動かしているからだ」
……
「なあ久遠、これ雨が降ったらどーなる?」
「滑って海に落下。多分途中の岩で頭を打って死んでからだと思うけど」
「縁起が悪いことを言うな」
……
「なあ久遠、A、B、Cに友達は?」
「いないけど何」
「知ってた」
「殴るわよ」
……
「なあ久遠、好きな人いるか?」
「さっきから何なの? あなたこの試験を楽しい修学旅行だと思ってる?」
「たわいもない会話だろ? 1学年参加の大型イベントなのに試験終了までオレら2人なもんで少しな。いいだろ会話くらい」
「まあそうね、だんだん疲れて口数が減ってくるんでしょうけどね」
予定通りに小休憩を挟みつつ昼をまわったころにチェックポイントにしていた飛び木にたどり着き、少し大きな休憩をとることにした。
ここでしっかり休み、午後は一気に山頂へ行くことにした。アクシデントさえ無ければだいたい15時には登り切りそうだ。
「この試験、通信は許可されてるんだろ? 神代たちに電話でもかけよう」
「そうね、きっとこれまであちらはクライミングの邪魔にならないようになんて思って連絡してこなかったのね」
電子手帳から久遠は修多羅に連絡を入れる。
『今大丈夫? こっちはまあまあ順調。そちらの状況を教えて』
『久遠さん! こっちは西の観光コースです! どうやら観光用の無人島かもしれませんね~他チームの人たちと一緒に話しながら山頂を目指してます!』
『他の人……? 他のチームと一緒なの?』
『はい! 自分も始まるまでは妨害というか足止めされるんじゃないかと思ってましたけどみんな平和志向で大人しい人たちというか優しい人たちばかりですよ!』
『そう、なら気を付けて。こっちは大丈夫だから』
他のチームの残りの1チームの決め方は雑用を押し付けるような感じで決めたのか。久遠も予想が外れて困惑していた。
「聞いた感じ、クラスカーストの底辺チームがしかたなく……というような雰囲気だったけど」
「そうだな、A、B、Cクラスは水汲みの方で大きな作戦を立てているのかもしれないな……」
「でも水汲みは妨害禁止でしょ。そんなに体力バカが多いのかしら」
体力バカはここまで汗一つかかないお前だと思いながら久遠からペットボトルの水を受け取った。
「さあな、黒牙にも連絡しとくか?」
「そうね……今度はあなたがして」
久遠は何か気まずいことでもあるのか自分は連絡しないと言い、登ってきた景色を眺めていた。
黒牙の連絡先を登録してなかったのでスクショしておいたクラス全員の連絡先が載ったとこから番号を探してなんとか電話をつないだ。
『黒牙か? こちらは今目的の中間って感じだ。そっちの状況を知りたい』
『前に話した通り、チームでバケツリレーをしているよ! ただ……やはり神永くんのチームは参加してくれなかったみたいだ。今頃乗ってきた船の上だろう』
『そうか、まあ水の量はまだまだ多いんだろ? 水分補給をガンガンしてそっちも頑張ってくれ(久遠が怒らない程度に)』
『それなんだが……水じゃなくて……海水なんだ』
『それは飲まないほうがいいかもな』
『ああ、みんなに伝えたよ、ペースは落ちるが妨害はないからね。がんばってみるよ』
ちょうど黒牙がバケツで水を運んでいたのか大変そうな雰囲気だった。
「3チームだけど士気が落ちてない様だったわね」
「妨害を受けていないからな」
「妨害ね……何か見落としている気がするわ」
「とりあえず、オレたちはオレたちの目的を目指そう」
「ええ」
一通りの連絡を取り終え、また山頂を目指す。後半戦は前よりも急な斜面になっており、さらなる慎重さが要求されることとなった。
他チームの脅威がわからないことが脅威、そんな状況の中で久遠はペースを上げてオレの前を直列に進むスタイルに自然と切り替わっていた。
「あんまり張り切りすぎると落ちるぞ~。そしてそのままオレも落ちちゃうんだからな~? わかってるよな~」
「慣れてきたから大丈夫。それとあんまり上見ないでよ!」
「スカートじゃないだろ……別に」
本心を言うとさっきの休憩の時に午後はさらに暑くなるからスカートにしとけと助言しておくべきだったと少し後悔している。
――にしても暑いな……。
「14時を目標に変更するわ!」
「……そうですかよリーダーさん」
少しだけ、ほんのミリレベルでスピードを上げて久遠の背中を追っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます