第24話 到着

「なあドラム缶に入ってる水って、あの張り紙にちゃんとって書いてあったよな?」

「そうね、この規模の試験だし学校側のミスは考えられない。そしておそらく水以外のものが入っていたら不正行為は明らか。最下位になるわ」

「そうだな」

「可能性の話はここまで。ほら、着いたわよ」

久遠の手を取り、実質初めての上陸をした。

目の前には4つの銀色のハンドルが集中して設置されていた。ハンドルの中央にはそれぞれA、B、C、Dと書かれてあり、これを回すことにより地下水が管を通って運び元のドラム缶に行き届くらしい。

「Dを回した。回しきったらもう戻せなくなったわ」

「後から来た者にハンドルを逆に回されて水の供給をストップされるのはきついからな」

その場に座って神代と修多羅の到着を待つことにした。

ハンドルを回したものの、水が届くのは時間がかかる。今の時間は14:10。水が完全に届くのは菅の細さからするに夕方になるかもしれない。

「24時間ある。チームが合流したらまた黒牙たちを手伝いに行くのか?」

「その前に、このA、B、Cの管をDと合流させるように組み替えられない?」

久遠が管を追うように少し歩きだしたのをさらに追う。

「配管工事か? そんな技術は無いぞ、道具もない」

「あなたじゃない。修多羅くんの方よ。それに道具はここにある」

リュックを重そうに背から降ろして、工具やら様々な重そうな機具が顔を出していた。

「おい、何の冗談だこれ?」

「何って、背負ってきたに決まってるでしょ」

毎朝ランニングしたり筋トレをしていたが本当に何でもこなせるやつだな。

「道具さえあれば修多羅に頼めるがハンドルの近くでの作業はまずいな」

「そうね1kmは離れた場所で合流しましょ」


『修多羅か? 今どこにいる?』

『あー今度は天道、あと少しで山頂だよ』

『悪いが神代と一緒に急いで山頂から東方向に1㎞下ったところに来てくれないか? オレたちは頂上でDクラスのハンドルを回して水を流すことに成功した。水の流れは緩やかだった。他クラスの水管をDに合流するようにしてほしいんだ。道具は久遠が全部揃えていたからその心配は大丈夫だ』

『分かった。ひとまず山頂に着いたらこっそりそちらに合流するよ』


「これでいいか?」

「ええ、あなたは先に運び先のドラム缶に行って」

「解決はできないぞ?」

「そっちじゃない、頼むわよ」


背中を押されたオレはその勢いで休みもないまま歩を進めた。

体力的にはまだ少し残っており、山道を下るだけだが到着は夜になるな。


……


夜。たどり着いた砂浜には焚き火が先生によってつけられていた。1Dドラム缶には既に多くの水が入っていた。きっと黒牙たちが頑張ってくれたのだろう。

焚き火に新聞を入れていた黒澤先生に違反についてのルールを尋ねた。


「おう、天道。ボロボロだな」

「先生、このドラム缶に入った水の量で順位をつけるとありましたが、それは海水じゃダメなんですか?」

「当たり前だろ、近くに海があるんだ。正規のルートじゃなきゃ体力試験にならないだろ?」

「ですよね。なら……」

オレは目の前のドラム缶から両手で水をすくって口に運ぶと少しだけしょっぱい海水の味がした。

この濃度……誰か一回だけがズルしたって味じゃない。ほぼ海水ってレベルだ。黒牙との電話ではみんな頑張っていると聞いた。他クラスの妨害は禁止されていたはず……。


『久遠、オレだ』

『こっちはとっくに成功したわ。お金をここに使って正解だった』

『全部自分で運んだのは誰も信用してなかったってことだろ? オレたちにも黙ってて』

『誰も信用してなかったのじゃなくて自分を一番信じてたの』

『そうか、こっちは結構まずいかもしれない』

『やっぱり海水は間違いじゃなかったのね……いったい誰がズルを……』

『分からない、これからオレたちは犯人探しなんていうめんどくさいことをしなければならないかもしれない』

電子手帳の向こうでそれを聞いた久遠が笑っている声が聞こえた。

。私たちの得意分野じゃない?』

『まだ名探偵でも探偵でもないけどな』

『私たちも今そっちに向かってるから……それまでそこにいて』

よかった。また山を登って来いなんて言われたら泣いちゃうところだったよ。


「そうだな、特別に見せてやるよ」

黒澤先生が自分の電子手帳を開いてこちらに渡してきた。

その画面にはAからDの暫定順位のようなものが描かれていた。

「これは……各クラスの水量ですか?」

「ああ、本当に水かどうかは分からないがとりあえずドラム缶に入ってる量が表示されている。お前たち1Dクラスは2位だ、1位はAだな」

久遠の策略の結果か黒牙たちの神永チームリタイアの危機感から来る必死さの結果か分からないが理想の結果と言えるだろう。

神永はもしかしたらそれを狙ってたのか、まあ想像は無限だな。

「今の時間帯、AからCは全員仮眠を取ってる中で活動してるのはDだけ。必死さがしっかり結果に出ている」

「先生はこのドラム缶に入ってるのが海水だって知ってるんですよね?」

「ああ、だがオレはここでずっと監視してた。海にバケツを持って行った生徒たちは誰も居なかったぞ。他クラスも合わせてな」



誰も海に近づいていない。1Dのドラム缶には海水が入ってる。

とりあえず久遠を待つか――。

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