第22話 クラス対抗試験
オレは帰り道に以前に連絡先を交換していた2年生である柊先輩に電話を掛けてみた。中間試験と同じように去年と同じカリキュラムなら詳しい島の情報などが知れると思ったからだ。
『柊先輩、少し聞きたいことがありまして』
『天道くんね。相変わらず抜け目ないわね』
『慎重だと言ってくださいよ。無人島で行われるクラス対抗試験は知ってますよね? 去年はどこの島だったんです?』
『ふっ、残念。毎年島は変わるのですよ。毎回同じ島なんてつまらないでしょ? 毎月同じコスプレ衣装を着るようにね』
『なるほど……。ちなみに今月は誰のコスプレをするんですか?』
『ブツ――』
――切れてしまった。
どうやら今回はズルはできないらしいな。だが、なんとしてでも無事に帰還しよう。また柊先輩のコスプレ姿を見なくては。これは決してフラグではない!
しばらく寮の方角に歩いていくと道中にある公園で女子生徒に声をかけられた。
「最近よく逢いますね」
「天道飾、ストーカーを疑うほどにな」
「そう怖いこと言わないでください。一応幼馴染ですよ?」
公園という場所も相まって昔のことが思い出される。
「……包帯巻くの手伝うよ」
「ありがとう」
隣りに座って両手に包帯を巻いているとその腕には注射を打った痕だらけだった。
「昔会った時はなかったはずだ。何かあったのか?」
「本当に何も聞かされてないんですね?」
「何の話をしている? 誰にだ?」
「いずれわかるでしょう。今はクラス対抗試験の無事を願ってるよ、唯人。私の1Aクラス、チームのメンバーよりもね♪」
「…………お前は? その身体じゃあ無理だろ」
「もちろん正当な理由によりリタイアです。それと次に会った時は飾と呼んで?」
――行ってしまった。
明日はもうクラス対抗試験だ。作戦をゆっくり練る時間もなかったな。
◇
クラス対抗試験当日。
前日の夜から学校所有の船に乗せられ、それぞれの個室で軽い睡眠をとった後集合の合図とともにその無人島が見えてきた。オレは酔い止め薬を昨日飾の貰っておけばよかったと後悔していた。
太平洋のとある島、バカンスならさぞかし楽しいのだろうと思いながらオレたちはこれからはじまる試験を想像し息を吞む。本当のスタートは山頂を目指すオレたちが各コースに配置されてから10分後。
「どうやら小型ボートが動いたのは私たちの1隻だけね」
断崖絶壁の北コースのスタート地点へは担任が運転する小型ボートで向かうことになっている。
「先生、運転できたんですね」
「あったりめえよ!」
サングラスを頭にかけてタバコを吸いながら黒澤先生は全速力でボートを走らせる。向かう途中、タバコの煙が全てこっちに流れてきてとてもウザイです、カッコつけても日頃の行いで全然カッコ良くないですよと言おうか何度も迷ったが、オレは久遠にツッコむのがやっとだった。
「何だ、その格好……? 暑くないのかソレ」
長袖長ズボンに軍手を装備した久遠はどう見ても暑そうな表情をしていた。
「しょうがないでしょ? 怪我したくないのよ!」
スタート地点だと言われた場所は想像よりも頂上が見えないほどの断崖絶壁。双眼鏡で登るルートを確認していくとさすがの久遠も覚悟を決めた顔になっていた。
「垂直じゃなくて良かったな久遠」
「まあそうね、高さ的に着くのは夕方くらいになるかしら?」
「だろうな、ここから少し斜めに見える木が海側に生えたところで昼頃休もう」
「ええ。命綱とかないから気は抜けないけどね」
時計は朝の9時ちょうど。試験開始までのカウントダウンが始まった。
改めてルールが確認されていく。水汲みにおける妨害は禁止、ペナルティとしてマイナスポイント。運ぶ元となるドラム缶に貯蔵されている水は20人がバケツをいっぱいにした量しかない。
「この様子だと神代と修多羅の方は大勢いるだろうな」
「なるべく足止めしてほしいわ。こっちも案外時間がかかるから」
「わかってるか? オレたちはいわば水汲みチームたちのサポート係。メインの作戦じゃない」
神永チームはおそらく何もしないで見物かリタイアで船に戻るかしてるだろうな。
「神永くんが参加しないならドラム缶の水が無くなるのは夜だから私たちはゆっくり登ればいいとか思ってるんでしょ?」
「まあそうだな」
「それは違うわ。早く供給させることでプレッシャー与えてビビらせるのよ! 焦らせれば、勝機が見えれば流石に走るでしょ」
「悪魔かよ……」
「さっ、始まるわよ」
……
『10秒前。9、8、7、6、5、4、3、2、1、試験開始!』
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