第12話 中間試験

5月。クラス全員の電子手帳に+10000が振り込まれた。Q.E.Dから当分は動きそうになかったセルフマネーシステム。そして今日、ポイントがまた動き出すかもしれないイベントの発表が黒澤先生からあった。イベントといっても何も珍しくない中間テストだ。普通の高等学校と同じ5科目試験、国語、数学、化学・物理、社会、英語。


【中間試験ルール:5科目試験。順位はチーム合計点数ではなくチームメンバーの科目最高点の合計で決まる。なお、これは学年全体で行われるためチームのクラス内順位だけでなくクラスの学年順位も競う。授与されるのは科目順位1位該当チーム、クラス1位順位クラス、クラス内順位1位チーム。賞金はそれぞれ5000円。またチームにはその合計点数分×10が入金される。※複数該当可

チームの中で満点が居た場合、+40000円ということになる。

不正が第三者委員会に発覚した場合は獲得した合計から-50000円とする。

また、赤点は10点未満。追試験申請金額は1科目2000円とする。】


「読んだか? 久遠」

「ええ」

「科目を考えなくても学年1位チームは確定で10000円ってことになるな。かなり差がつきそうだ」

「にしてもこの学校はやっぱりお金の使い方が贅沢というか荒いというか、思い切ったことをするな。これじゃあ順位は付けられるとはいえお金を配ってるだけだ」

久遠はため息をこぼして貼り紙の下を指して語った。

「だから下の2行なんでしょ。ま、そんなバカはそうそういないでしょうけどね。赤点が10点って……普通は30点とかでしょう」

「……そうだな」


ホームルームが始まった。

「もう全員これを見たようだが今から1週間先に中間試験がある。勉強して良い得点を取ればそれでOK、それで果たして上位になれるかどうか……よくチームで考えるんだな。この学校は別にお前らに良い点を取ってほしいわけじゃない。探偵になりたいなら目的を果たせよ……。その目的は他の生徒、チーム、クラスに勝つことだ」


中間試験が近づいている、それだけの理由じゃこんな真剣な空気の教室を作り出すことはできない。あのルールがよほど応えてるな。

重い空気のままクラスは昼休みを迎えた。いつもなら購買や学食にそれぞれがバラバラになるところ、チーム行動が徹底されているように感じた。他に倣ってオレたちのチームも固まって昼食を取ることにした。


「申請しといたわ。私で本当に良かったの?」

リーダーは久遠。これは多数決で決まったことだ。

お前が話せという視線を神代と久遠から感じ取ったオレは横にいる修多羅を紹介した。修多羅とアイコンタクトを取ってとりあえずここでは盗聴器のことは言わないことにした。

「修多羅公太です。その、よろしくお願いします」

「よろしくー! 私は響ね、神代響。でこっちはクールな久遠一花ちゃん」

「はい、よろしく」

久遠が何やら気に食わないような顔をして腕を組んでるが早速中間試験の話を進めた。

「それでみんなの得意科目は?」

当然の質問だな。得意科目を把握して予め分担すれば1人が全科目勉強する必要がなくなる。

「私は国語ー。はいこれ、入学試験の点数ね」

入学試験の点数開示は入学式後のホームルームで配布された。神代が手にしているその開示表の国語の欄には90と書かれていた。

「90点……。ウソ……私より高い……。じゃあ神代さんは国語以外やらなくていいわ……」

「ヤッター! 他全部50点だったから良かったぁ~」

久遠はこんなやつに1科目だが学力で負けたと思ってるだろうか。オレは絶対国語力というかコミュニケーション能力に問題がある久遠は負けて当然だと思ってるぞっ。

「それで、修多羅くんは? 何か得意科目はあるのかしら」

「僕はできれば化学・物理か数学がいいです……。昔から物を分解して、それが好きな友達にその中身や部品を見せるのが趣味だったんですよね……。そこから理系に興味が出てそれで」

「そう。私と気が合いそうね。じゃあ化学・物理をお願い」

うまい具合に分かれそうで安心した反面。何やら修多羅の闇を見てしまったような気もした。その中性的な顔が逆に怖い。そしてもう久遠には何も言うことが無い……。

「そういう久遠は何が得意なんだ?」

「私は全科目いけるわ。科目を絞れるなら尚更。ほらこれ」

出てきた開示表は合計点数485点。どれも高得点だった。

「じゃあオレは分かれるように社会を頑張るよ。残りの2科目はリーダーにお願いします」

「わかったわ。あなた社会が得意だったのね、少し意外だわ。保険として私は全科目やるわ、もちろん数学と英語は全力でやるから安心して」

「いいだろ、社会性があるんだオレは」

「あと、わかってると思うし、ありえないけど10、追試にもお金がかかるからやらない科目も一応10点は目指しなさい」

昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り響き、それぞれが自分の席に戻った。


「おそらく他のチームも同じようにやるのよね」

「そうだな。うまく得意科目が分かれたチームもしくは全科目得意なやつがいればそこがまず1つ抜け出るな」

「でも決定的なものが無い限り1位にはなれない……」

「485点は高得点だ。お前より頭がいい奴はいないかもしれないぞ」

「本気で言ってるの? こんな学校なのよ。おそらくこれで10位が良いところね。委員長や千藤さん、神宮寺さん、茜さん。この1Dだけでも1位は簡単じゃない」

「じゃあどーする? お前が1科目に絞ってもらって科目1位を目指すルートに切り替えるか」

「少し考えさせて」

各々のチームが作戦会議を挟んだ午後のクラスの空気は午前の比にならないほど重苦しくなっていたように感じた。


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