第13話 偵察

中間試験が発表された日の夜。オレは修多羅の部屋にまたおじゃました。

「今回の試験。修多羅はどう思う?」

「久遠さんが昼に話してた内容、僕は賛成ですよ。というかそれ以外の方法が思いつかないだけだけどね。カンニングとかしてもリスクがでかすぎる」

カンニング。つまり、不正行為だ。現代の日本も何かと不正というものが絶えないでいる。大学受験の不正行為から政治家の不正まで、いろいろだ。当然ズルが発覚した際には重い罰が不正者を待っている。そしてこの学校では不正が教師に発覚した場合は-50000円。外の世界では軽い罰だが、ここでは決して軽くない、暮らして勝ち抜くにはかなりキツイ罰だ。

「第三者委員会。つまり教職員にバレたらいけないということだな」

「そうですね。もし黒澤先生と取引できるようなものをこちらが手にしていれば買収という言い方はあれですが1つの勝ち筋……」

取引できるもの、既にというものはこのチームにはある。ギャンブル依存症のおかげでな……。今使うべきだろうがこれは流石にリーダーに相談してからだな。

「あとは不正だとばれることなく不正を行う、だ」

「でもそれはかなり難しい……。最新技術を存分に導入している学校だからね」

「そう。その盗聴器のようにな」

「!?」

修多羅は盗聴器の方を向く。

「まさかこれを使うの?」

お前の気持ちもわかる。これは女子更衣室とかに設置してこっそりと好きな人などを聴けるなどの無限の可能性を秘めたひみつ道具。もしここでそれがばれて没収されたらひとたまりもないからな。

「しかたない。決断の時だ」

「えらく重大そうに言うね……。まあそうなんだけど」

「重要なことだ」

「でも今回のルールをさっきもう一度確認したけど、それは意味ないよ? これを久遠さんに渡してそれを僕たちが聴いても結局最高得点は久遠さんなんだから……」

「そうだな。通信機として使うならそうなるだろうな」


しばらくしてオレは部屋に戻ると修多羅に伝えてから帰ったものの何か落ち着かずにエントランスを出て散歩をしていた。

風が気持ちよく吹いていたためせっかくだと思って屋上に行くことにした。エレベーターは最上階で降りた。最上階は女子エリアで深夜ということもあり少し罪悪感がある。音をなるべく出さないように鉄階段まで小走りで向かう。あれは神宮寺ともう1人。危ない危ない、気づかれたらいろいろとマズイ。


屋上に足を降ろすと奥の手すりに人が立っていたためその場で立ち止まった。

――誰だ? 暗くてよく見えないが……。

オレは少しだけ近づこうとした瞬間に風で後ろの扉が閉まってしまい、大きな音を発してしまった。

「誰?」

当然振り返り、存在がばれてしまった。

諦めて手すりに近づくとそこには千藤が居た。誰かと電話をしていたのか、手には電子手帳を持っていた。短いスカートが風に吹かれている。

「眠れないのか?」

「なんだ天道くんか。うん……中間試験。もっとクラスで協力していくのかと思ってたからちょっとショックで……」

「そうだな。千藤のチームはあれからどうなったんだ?」

第一回Q.E.Dで神代が抜けてその代わりのオレが抜けたから千藤のチームは3人となっていたはず。

「余ってた子が入ってくれたの。真田くんっていうんだけど知ってる?」

「すまん、把握してない……」

「……そうだよね! みんな自分のチームで精一杯だもんね」

…………優しい。100オレが駄目なところを傷つかないようにフォローしてくれた。

「そういえばカレーありがとう。おかげでかなり節約できたよ」

「でしょう? どういたしまして! そっちのチームどんな感じ?」

ギブアンドテイクか。それも悪くない。

「オレたちは今のところだと得意科目を分担していくつもりだ」

「じゃあ私たちと一緒だね」

「そうか、お互い頑張ろう」

「うん!」

「それじゃあオレは戻るよ。風も強くなってきたからな」

まだ戻らないのか、オレが扉を最後まで閉じるまで千藤は俺の方を口を開けた笑顔でじっと見つめていた。気のせいか目は笑ってないように見えた。

オレは一足先に最上階の廊下へと戻り、そのままエレベーターに乗った。


「奇遇だね」

最上階から乗ったエレベーターが下に向かうとそのすぐ下の階で止まり、そこで入ってきたのは委員長だった。

「女子エリアに何か用があったのか? 密会というやつですか」

「はは。違うよ唯人くん。チームメイトと作戦会議。後の世間話に少し時間がかかっちゃてもうこんな時間。やっと解放されたとこだよ。そんな君も女子エリアから来たじゃないか」

「オレは屋上で風にあたってただけだ」

「屋上は賑やかだったんじゃない?」

「何の話だ?」

「少し行くのが遅かったのかな、さっきまではきっと賑やかだったと思うよ」

いつも以上に長く感じるエレベーター。今度からは階段にしよう。

「僕は負けないよって久遠さんに伝えといてね」

3階。委員長は降りて行った。


今日はやけに不気味な雰囲気のクラスメイトたちに会うな。全員が中間試験でピリピリしているのは分かるがな。普段優しさの権化みたいな人たちがそのような雰囲気をまとうのはかなり精神にくるな。

そのままベットに入ったオレは今一度中間試験ルールを頭の中で確認し、そのまま寝ることにした。

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