第11話 修多羅公太の懸念

「柊先輩。どうもひさしぶりです」

「天道唯人くん、もしかして生徒会に入る気になったのですか?」

「いえ、別にちょっと相談したいことがあって」

「相談ですか? 大丈夫ですよ、私が良いアドバイスを伝えられるかわかりませんけど」

これが清楚な女性というやつなのだろうか。生徒会長が羨ましいまであるな。

「そういえば1年寮の近くに何か用でもあったんですか?」

「……それは内緒です」

柊先輩は何やら大きな紙袋を背中に回して焦ったような表情を見せていた。

「それ、たしかコスセンの紙袋ですよね。久遠が前に学園の敷地内の調査とかでそこも行ったとか。恥ずかしくてすぐ出たとか言ってたけど、たしかその店はここの1店舗しかなかった……」

「……これはまたあのQ.E.Dと一緒。そういうことをするんです!」

コスセンとはコスプレ専門店であり、様々なコスプレ衣装を販売している希少店舗だ。Q.E.Dの時、柊先輩は神代に変装するために白のウイッグを被っていたが、今度はまた何かに変装するのか。生徒会は仮装集団だったのか。入らなくて正解だったな。

「で、それは何の衣装何ですか?」

「それは秘密です」

「いいじゃないですか、おそらく1Dとは関係ないのですよね?」

「秘密です!」

「じゃあ生徒会長か1Aの鳳条にでも聞いてみようかなー」

「そ、それだけはやめてください! いいですか? 秘密ですよ」

いつも厳格な雰囲気をまとっている柊先輩は涙目を浮かべて上目遣いでうったえてくる。清楚は撤回しよう。彼女は萌えキャラだ。

「……その趣味です。すみません」

可愛すぎんだろ。しかもこれは二人だけの秘密。つまり言い換えるとこれは禁断の関係。そう、今この瞬間にオレと柊先輩は特別な関係となり、ラブコメの主人公とヒロインへと昇格したのだ。さらば名探偵育成高等学校。ようこそLOVE育成高等学校!

「いやいや趣味は人それぞれですから、良いと思います。簡単に言いふらしたりもしませんよ。相談に乗ってくれる先輩ですから」

こんな面白い先輩の真実を他のやつらには言わないさ。

「それで、天道くんの相談ってのこと?」

「え?」

「ほら、これ。どうせ明日くらいに発表されるだろうけどね。そのルール」

柊先輩は電子手帳から中間試験ルールと書かれた画像を見せてくれた。

「なるほど……。興味深いですね……これは」

オレはしばらくそのルールとやらを目に焼き付けて頭に入れた。

「相談は変えてもいいですか?」

「?」

「先輩だからこそ知ってると思って……聞いてもいいですか?」

オレは柊先輩との会話を終え、コスセンに寄った後に再度修多羅の部屋を訪ねた。


「宅配便です」

ドアが開き、現れたのは神代と同じくらいの身長で中性的な顔をした弱弱しい男子生徒? の修多羅公太と思わしき人物が出てきた。

「君はさっきも女の人と一緒に来た人だよね。何その格好……?」

「宅配便のコスプレ。分からなかっただろう?」

「とりあえず中に入ってください」

なんとなくゴミ屋敷を想像していたが修多羅に通された部屋は綺麗に片付いていた。コスプレを脱いでオレは床に座った。

「……その何だ。すまんな急に押しかけて」

「いいよ、僕がいけないんだ。ここには聞きたいことがあってきたんでしょ? 僕も入学式の日は学校に行ったから資料は貰ってあるよ。4システムってやつだろう」 

「ああ、修多羅公太。お前の性別は?」

「そんなことじゃないだろ!! 聞きたいことは!! 男だよ! 名前見ろよ男の中の男だよ!」

思わぬ鋭いツッコミを受けて少し驚いた。らしくもなくいきなりボケから入ってしまったことを少し後悔している。

「そうそう、4システム。今の1Dの状況はその、察せるだろ? オレたち残りの3人はもうお前しかいないんだ」

「ごめん、その残りのメンバーって?」

オレはそばにあった修多羅のクラス写真が載っている資料を広げて指差した。

「この久遠一花ってやつと、こっちの神代響。そしてオレだ」

「そうか。分かった」

「入ってくれるのか?」

「うん。ただ……」

修多羅はその場に立って何やらタンスの方へ向かった。

ガチャガチャと大きい音を立ててソレを目の前に出した。

「これは……盗聴器か。それに20個。クラスの人数分」

工作が得意なのか。外部との接続を取り除いてあって好きなように使えるように成り立ってるなこれ。

「入学式の後、僕は図書館の帰りに教室に忘れ物をしちゃって戻ったんだ。そしたらたまたま机の裏の金属棒のスキマにこれが全ての生徒の机に。他のクラスは見てないから分からない。あの後すぐに黒澤先生の声が聞こえたから……」

「あっ……!」

「え?」

オレはあの入学式の日のことを思い出した。たしか放課後、久遠と黒澤先生を教室に呼んで……。まあしょうがない。運命ってやつだ。

「いや、すまん。それでこの見たことない小型の盗聴器が誰のものかこの部屋で調べてたってわけか」

「そうじゃない。怖かったんだ。盗聴器が仕掛けられていたあの教室に行くのが」

――声が震えている、体育座りで顔をうずめている修多羅。あの不安しか無かった入学式から今日の今までずっと1人で抱え込んでいたのだろう。

「修多羅。ここからはオレも協力する」

「え?」

「それがチームってやつらしいからな」

久遠と神代のことを思い浮かべ手を差し伸べた。

「オレのチームはめんどくさいやつが多い。何やら上位を目指してるらしいしな」

「それは楽しみだよ。よろしく天道」

そう言って握手を交わした。兎にも角にもこれで一応残り物集めは成功。晴れてチーム結成ということになった。他の二人にはまだ言っていないがどちらにせよ消去法だったのだ。盗聴器のことは頭に残る問題だがオレは清々しく自部屋へと帰った。

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