2章:能ある探偵は切札を隠す

第10話 チーム勧誘

Q.E.Dから1週間。やっと千藤が大量に作ってくれたカレーを食べきることができた。そしていつの間にかというわけでもないがクラス1Dではオレたち以外、チームが出来上がっていた。オレたちたちというのはオレ、天道唯人と久遠一花、神代響、そしてもう1人なのだが……。


「まあそうだな……何で、放課後お前たちを集めたかわかるか?」

「「「……………………」」」


生徒たちがとっくに帰った静かな教室。少し重苦しい空気をまとった黒澤先生はいつも以上にめんどくさそうにそう語りかけた。


「4システム。その決定期限がもうそろそろで、まだチームに所属できていない私たちは残りのメンバーで組まないといけない。それを守れない場合、私たちは退学処分となる。ですか?」

久遠は腕を組み、淡々としゃべり出した。

「退学……か。私の高校生活、まだ2週間やそこらで終了しちゃうとはねぇ……」

そう神代が諦めたように言うのもわかる。何故なら消去法、余りもので組むにももう1人が入学以来ずっと学校に来ていないためどうにも出来ないからである。

「不登校ってやつですね。それかこの学校なら既に退学処分を命じたとか」

「現時点ではまだ不登校ってだけだ天道。その生徒の名前は修多羅公太しゅたらこうた。俺も彼がどういう生徒かは分からない。ただ、確実に言えることはお前たちがまだこの学校を退学したくないのならそいつを誘うしかないってことだ」

話は終わりだと追い出すように手を振り、先生は教室を出ていこうとした。

「随分と親切ですね先生。おそらく黙ってても先生にとっては影響0というのに」

久遠は黒澤先生を何か煽るように呼び止めた。

「ま、俺はお前らの進路を心配する優しい担任の先生だからな!」

「――ん? これは?」

自信満々に振り向いた黒澤先生のポケットから落ちたクシャクシャに折り畳まれた紙を神代が拾い上げてオレたちの前で広げて見せた。

それには「誓約書」と大きく上にかしこまったフォントで印刷されており、何やら重要そうな文章が下に書かれてあったのでオレはそれを読み上げることにした。

「私は、下記の事項を厳守する事を誓います。1つ、自分の生徒たちの4システムについては深く関わらない。2つ、チーム未所属者1人につき5000円納める。3つ、退学者(4システム未登録による)が0人の場合のみ、40000円をこちらから支払う……」

「や、やめろぅーー!!!!」

黒澤先生は死んだ魚のような目をかっぴらいて勢い良く走って持っていたその誓約書を奪い取り、3人の前に丁寧に座り直した。

「説明を」

久遠は生ゴミを見るような目で小さくなっている黒澤先生に冷たくそう言い放つ。いつもよくオレに見せてる目だ。

「……1Cの白石先生と入学式前日にちょっとした賭けをしたんだ。お互いの持つクラスで退学者が出る、出ないで金を支払うって……。頼むてェ~~!!」

「頼むのはこっちですよ……しっかりしてくださいよいい大人が」


この取引、黒澤先生は1Cの退学者有無に限らず、自分のクラスから退学者を出さないだけで40000円貰えることになっている。白石先生にどんだけ不可能だと思われてんだ……この人は……。


「とりあえず私たちはその修多羅公太とかいう生徒を誘ういます、が。先生の財布のためではないのでご了承を。これは貸しですからね?」

今度は久遠が帰る支度をしてそのまま教室を後にした。

あれはまあ怒っても当然だな。だが、まだ運がついてる。偶然にも手にしたその貸しとやらは必ずどこかでアドバンテージを得るだろうな。


さらにそれから一週間が経過。その期間何も対策が浮かばなかった久遠はついに大胆な行動に出た。


「部屋に行くのか?」

「ええ、まずは部屋から出さないと」

「まじか、出すつもりなのか……」

「当たり前でしょ、蜂と一緒。巣を壊せばいいの。簡単でしょ」

「えぇ…………」

そして成り行きで久遠と修多羅公太とやらが住んでいる部屋を訪れた。

ドアの前に立ち、顔を見合わせてインターホンのボタンを押す。

「……。……。……。」

中から修多羅公太の反応がない。

「多分居留守だな。ま、当然っちゃ当然だろう」

「天道くん、そこの消火器を」

「え?」

「突入するの」

こいつ、発想が危なすぎる……。冗談だよな、流石に。昔見た刑事ドラマで確かにそのような突入をするシーンはあったがまさか本当にやろうとするやつに会うとはな。しかも刑事ではない、見た目は美少女だってのに。世の中広いもんだ。

「どうしたの?」

「まだそれは必要ないだろう、修多羅に何か令状が出てるわけじゃないしな」

「ならあなたがどうにかしなさい」

久遠は1人去ってしまった。

これは困った。こういう時はカツ丼を出前で頼めばいいのか? いや、刑事ドラマに引っ張られるなオレ……。しかもベタな刑事ドラマに。

一度階段を登って寮の屋上に行くことにした。

夕日がもう少しで沈みそうだ。屋上だからか風が強く吹き付けて思わず体が動いてしまう。

「あれは、たしか」

ふと目に入ったのは近くのスーパーから出てくる生徒会書記の柊先輩だった。

生徒会長と一緒に居ないところ、初めて見たな。

これも巡り合わせ、か。やっぱりアレしかないってことか。

オレはエレベーターで下に降りて帰りに向いていた柊先輩に後ろから話しかけた。

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