第44話 不変の真理

――帰りのタクシー


オレは具体的な答えを出すことはできなかった――。


[天道くんは? どんな探偵を目指したい?]

[……分かりません。ただ選択肢は広がりました]

[そっか、なら来た甲斐があったというわけだ。お疲れ様。タクシーを呼んでおくよ]

[ありがとうございます]

[それと制服ね、なにやら面白そうなボタンがあったから少しいじっておいたよ。SOSボタンは多いに越したことはないだろ?]

[はい、お世話になりました。天音さんたちにもお世話になりましたと伝えてください]

[君は良い目を持ってる。大切なものが何なのかよく見極めてから行動するといい]

[はい]


……


弱点を補い、協力して、事件を解決するのも悪くない。今までの環境では個の技を磨く場面しかなかった。本末転倒……大切なのは事件を解決することだ。その過程はスマートな方がいいのは分かるが協力=悪手とは限らない。


『港区からの中継です……』


タクシー内のナビゲーションテレビの音声にふと気を取られた。

どうやら東京都港区付近でなにやら大きな事件があったらしい。中継では大きな火の手が上がり、パトカーや消防車、救急車が駆けつけている。


「何か事件があったんですか?」

「東京からしたらいつもの日常のようですけどね……。薬物輸送に取引。犯罪組織と警察や探偵組織が衝突したらしいですよ。プラティカル・エールで東京都を選んだ人たちは大丈夫だといいのですが……」

若いタクシー運転手は心配そうに話した。

「そうですね」


タクシーを少しだけ急いでもらうか。学校に帰ったら既にプラティカル・エールが終わってみんないるといいのだが……一応連絡を取るとするか。東京23区を選んだ久遠が心配だしな。





校門前で降りると、既に日は暮れ始めていた。

電子手帳が学園の電波を広い、フォルダを確認すると1件の不在着信があった。知らない番号だったが、折り返し電話をかける。


『こちら天道です』

『おお天道か! 俺だ』

不在着信の相手は黒澤先生だった。

『珍しいですね、今プラティカル・エールを終えて校門前にいるところです』

『そうか! 無事でよかった』

『? 何かあったんですか?』

『は?』

『詳しくはわからんが抗争に巻き込まれたらしい。重傷だが命に別状はない。今都内の病院で入院している』

『神代や修多羅はもう知ってるんですか?』

『いや……久遠チームのメンバーは天道以外誰もまだ帰ってきてないし、連絡も取れない』

『……そうですか』

『チームが揃うまでのしばらくの間、特別措置で学校のイベントは参加せずとも退学にはならない。とりあえず今教室に来い。俺もしばらくしたら行くからそれまで待っててくれ』

『了解しました』


協力すれば事件は解決できると思った矢先にこの知らせはダメージが大きすぎる。

やはり――

いや……結論を出すのは卒業の時と決めたんだ。まだ、




教室――


「結論を決めるのはいつも耐え難い現実に直面した時だ。なあ唯人?」

彼は窓の方を見ながら足を組んでオレの席に座っていた。


「お前のこの無駄な3年間は将来の損失でしかない。これが最後のチャンスだ」

忘れもしない、このシルエットに重い苦しい声、威圧的な雰囲気。



――オレのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る