第43話 プラティカル・エール最終日

「見なよ、天道。事件だ――」


一本の電話が鳴り響いたと思ったら燈火さんは数秒だけ受話器を耳に当ててすぐさま車の鍵を拾った。


「何をするんですか?」

「助手席に乗りな。良いものが見れるよ」


黒い布で隠されていた燃えるように赤い、ソウルレッドロードスターに乗り込みいきなり通信機のようなものを投げ渡された。ツーツーツーと早速誰からか連絡が来ているようだ。スピーカーモードにして恐る恐る通信機を耳に当てる。


「誰からですか?」

「友達かな。出てみれば?」


この人はまるでこれから起こる全ての事象を既にわかっているような顔をしてハンドルを勢い良く切り、路地裏の小道にもかかわらずスピードを上げていた。


『もしもし、こちら燈火さんの代わりに出ました天道といいます』

『ああ天道くんでしたか、詳細を伝えます』

通信相手は潤羽さんたちの学校の先生兼天音さんの仲間と名乗った大神先生からだった。状況をすぐに把握してオレに淡々と指示を伝え始めた。

『つまり、挟み撃ちの形になります』

『もしかして今さっきテレビでやってたコンビニ強盗犯を捕まえるんですか?』

『何を今更言ってるのですか? 探偵はもう向かってますよ?』

天音さんが居ないと思ったらもう事件現場に向かっていたのか……。

『わかりました、燈火さんとどこへ行けばいいですか?』

『この通信の次に別の方から通信が入りますのでそちらの指示に従ってください。僕私は探偵と合流して最終的に3人いる犯人共を拘束しますので……』

『拘束……はい分かりました』

ただの学校の先生がそこまでするはずがない……いったい何者なんだ。


「次の通信もスピーカーでお願い、道案内よろしく頼むよ」

「わかりました」


――ツーツーツー

『こちら天道です』

『ああ、天道くん。僕です、瑞希です』

『君も天音さんに協力を?』

『はい、みなさんそれぞれに得意不得意がありますからね。みんなでやったほうが効率的です。早速道筋を指示していきます』

『次の信号を右に、そのまま道のりに走行した後は赤丸ハウスと書かれた看板を左に。住宅街に入って限界まで直進した後右に真っ直ぐ進んでください。一応このまま通信を繋いでおいて、燈火さん聞こえますか?』

「聞こえるよ、スピードは?」

『もう少し上げて大丈夫ですよ』

「了解」

車の周りを確認し、通信機を耳に当てて1つの質問をした。

『瑞希くん、どこからこの車の位置情報を?』

『その車と天音さんのバイクにGPSを付けてるんですよ。今は遠隔ですけどPCから追ってます』

『なるほど、この町に詳しいんだな。道案内のプロみたいだ』

『瞬間記憶能力と言えば分かりますかね、僕は物事や風景などを瞬時に記憶できて忘れずに頭に保存できるんですよ。だから地図は得意ですよ』

『凄いな』


指示通りに住宅街に入ると、ターゲットが乗っているであろう黒いワゴン車が前方に現れた。


「燈火さんあれです、ナンバーも間違いありません」

「予定通りに右に曲がったね、狭い道に入るから逃げられないよ」

こちらも右に曲がるとさらに奥に天音さんと大神先生の2台のバイクが見えた。

『時間もピッタリだ……瑞希くん』

『ま、燈火さんの運転スキルあってこその指示だったからね』

「天道くん、止まるよ! 犯人が降りてきてもしこっちに来たら私が相手するから車の中で待っててね」

「ちょっと待ってください! これ挟み撃ちになってないんじゃないですか?」

窓を開けて見ると黒いワゴンの逃げ道は3方向あった。天音さん、大神先生方向とオレ、燈火さんの道の他にもう1つさらに小さな道があることに気づいた。

「天道くん、カーブミラーを見てごらん?」

言われるがままにカーブミラーに目を移すと点滅を繰り返す赤いライトが複数映っていた。

「警察……!」

「そ、あれはきっと仲間の千賀警部だ。水のやつが呼んだんだね」

『もしかして瑞希くん、わざと警察の到着を少しだけ遅らせるように挟み撃ちをさせた?』

『あ~はい。逃げれたと思った道に警察が来たら諦めるでしょ?』

「抜け目ないね~瑞希。私が教えてきた成果だね~」



凄い……あっという間に逃げ出した犯人たちは包囲網内だ。

車を降りると天音さんと大神先生が千賀警部と協力して3人いた犯人を拘束していた。


「今回は間に合ったようだな千賀警部!」

「遅いって言いたいのか?」

「警察はいつも遅いですからね、あなたは特に」

「うるせえ! 大神! 純! いつもこんな感じの連携だろ?」

『警察内で連携取ってくださいってことじゃないですか? ね、大神先生』

「はい、瑞希くん。今日も素晴らしい活躍でしたよ」

『燈火さんにいつもシュミレーションしてもらって鍛えてますからね~』

「私は何もしてないよ」


これが実践……本物の探偵か。あの駄菓子屋で見た顔つきとは少し違った表情を見せあっていた彼らを見つめながらオレは今回何もできなかったという事実を実感していた。


「どうだった? プラティカル・エールは」

「潤羽さん! 来てたんですね」

「うん、千賀警部呼んでそれで乗せてもらったの」

「そうですか……オレは何もできませんでしたよ。最初はみんなだらだらした人達で心配するくらいだったのですが目の前で洗練された連携を見せられました」

「それで?」

「全員が嚙み合った、パズルのピースみたいな……探偵と名乗っていたのは天音さんだけでしたが、みんなが一流の探偵のように感じました」

「そうじゃなくて、天道くんは? どんな探偵を目指したい?」

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