第49話 バスケットボール

その日の夜。

オレは勇気を振り絞って、彼女の携帯に電話をかけた。

そう、今回の重要人物である九十九ノアに。


……と言いたいところだが、オレは天音さんたちのようにフレンドリーではない。連絡を入れたのは、彼女のことを親しく『ノアちゃん』と言っていた天道飾にだ。


『九十九ノアについて聞きたいことがあるんだが今いいか?』

『いいよ。聞きたいことってのは彼女の身長? 体重? それとも……』

『違う、周りの友情関係や性格とか好きなこととかだ』

『そうだね、彼女については直接会った方が分かり易いよ。そうだ、今度彼女を誘ってお茶会でもしませんか?』

『それの方がハードルが下がってやりやすい。頼む』


次の休みの日に近くの喫茶店で集まることになった。メンバーは偶数の方が自然ということでもう1人男の子を誘ってくるようにと言われた。

確かに男1女2のお茶会など怪しすぎるというか気まずい。それにメンバーが十探帝の第九帝と第十帝、ただの1D男子生徒というのは少し惨めな気持ちになる。

このメンバーに入れるもう1人……男か……。


まぶたが重い。

布団に入り、目を閉じる。


……。



朝。

クラスの男子の顔を思い浮かべているうちに眠ってしまったようだ。

目をこすりながら教室に着くと朝練習を終えて来たのか、多くのチームが冬が近いというのに汗をぬぐっている。


「みんな頑張ってるのよ」

「ああ、見たらわかる」

昨日まで分厚い推理小説を朝の時間に読んでいた久遠の手にはバスケットボールの戦術がまとめられた本があった。


「天道くん、今日の放課後俺たちのチーム練習に付き合ってくれないかい? やっぱり4人だと満足した練習ができなくてね」

「ああ、分かった」

「悪いね、そっちもそっちで忙しいようだけど」

「全然いいさ」


バスケットボールは、1クオータ(Q)10分を4回、出場5人で行うゲームで、通常2点、フリースロー1点、3ポイントライン外のシュートは3点と得点方法は分かれている。ファウル以外のルール違反、バイオレーションも複雑だ。中でも基本中の基本である、ボールを持ったままドリブルをせずに3歩以上歩いてはいけないトラベリング。ドリブルを一度終えてからまたドリブルをしてはいけないダブルドリブルなどがある。

そして、今回名探偵育成高等学校で行われるゲームでは、1クオータ(Q)10分を2回、さらに4人しかコートに立つことができない。決められたルールの中で4人という少ない人数でどう戦うかを考えなければならない。


「で、黒牙チームの作戦とかは何かあるのか?」

「うちは山ちゃんがエースだからね積極的にボールを集めて攻めようと思ってるよ。もちろん、中にいる山ちゃんへの警戒はされるだろうから、他の3人は外からでも決められるようにシュート練習を多くやっている、といった感じかな」

「外ってのは3ポイントシュートか?」

「いやいや、それは流石に精度が悪いからね」

「それが最適だな」

「ありがとう」

「で、オレは何を手伝えばいいんだ?」

「シュート練習組にボールを集めてほしいんだ」

「それくらいならオレにもできそうだ」

「お願いするよ」


あれとあれよと待ちに待った放課後になった。

落ち着かないクラスの雰囲気に黒澤先生の怒りは爆発しそうだったがなんとか免れた。途中で怒るのもしんどいと気づいたのだろう。

オレは黒牙チームの後を追うように体育館を目指す。


「夏目は手、大丈夫か?」

「えっ夏目ケガしてたのか!?」

赤星が他の生徒たちに聞こえてしまうほど大きな声で肩を両手で押さえて心配する。

「実はプラティカル・エールでちょっとな……。だが参加はできるし、手先は器用な方だぞ?」

「「あ~~確かに~~」」

みんなで人形浄瑠璃のことを頭で想像をし、大丈夫なことを確信した。

「よく気づいたね天道」

「前たまたま利き手を見ていただけだ」

「夏目~~!!!! しんどいと思ったら全部私にパスしなさい、必ず決めるから」

いつも夏目(女子)に厳しい山ちゃんが少し優しく思えた。


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