第2話 学園内のルール

その後、スーパーに戻ると数分前のオレたちのように値札が無いことに困惑しているクラスメイト達の姿があった。

オレは立ち止まって黒澤から貰ったスーパー内すべての商品の値段が書かれたデータを久遠の端末に送信した。担任の連絡先が載っていたページにはクラスメイト全ての連絡先も書かれていたのだ。


「ちょっと。どういうこと?」

「オレは大勢との会話が苦手なんだ、だから頼む」

「それは察してたけど……」

久遠はここで待ってなさいとため息混じりにそう言って小走りでスーパーへと入っていった。そう思ったら少しして久遠が戻ってきた。

ピコン!

「はい、コレ。あなたの2千円」

「どういうことだ?」

「売ったの。クラスメイトに」

クラスメイトは全員で20名。1人100円で手に入れた情報を売ったのだと久遠は話した。

他の人なら単純に感謝の意を示すのだろう。それか少し鋭い奴ならオレを除いて19人。残りの100円は久遠が払ったのかと指摘して、さらに感謝を伝えるのだろう。だが、久遠。今度は俺から伝えたい。

「ここは名探偵育成高等学校だ」

「? それはさっき私が……」

「久遠、これはオレの判断で勝手にやったことだ。他を出し抜ければ別に少しのお金はいらないつもりだった。だからこの2千円はありがとうと思ってる。だが、お前も上位を目指してるんだろ? ならじゃあ勝ち上がれない」

「分かってるわよ! でもこれから先、クラスで協力する場面が必ずくる! ここで恩を売っておいた方が……」

「……それもそうだな」

「……」


オレはそこから今週分の食糧を調達し、探さずとも目に入る大量の監視カメラを横目にそのまま寄り道はせずに寮へと戻った。

寮は高層ビル型で学年ごと、さらにはクラスごとに、女子は上階、男子は下階と分かれていた。エントランスと自室は四桁のロックが、廊下や階段には監視カメラが付いており、セキュリティ対策も最先端と言えるだろう。

八畳半のスペースにシングルベッドや台所、冷蔵庫や勉強机、収納スペースと最低限の必要なものが全て用意されていた。


ピンポーン!


部屋のチャイム音が鳴り、オレはまた久遠のやつかと思い、ドアを開けるとそこには知らない女子が立っていた。赤い髪に低い身長が特徴的で久遠よりもはるかに短いスカートを履いている。そして久遠よりも……いや何でもない。寒気がしたので心の中でもそれは考えないことにした。


「天道唯人くん? 私は千藤翼せんどうつばさ。久遠さんから聞いたの。そのお礼をしたくて」

久遠はあの情報提供を俺の手柄としてみんなに話したのか。本当に正直で真面目な奴だな。

「お礼って、オレはみんなから2千円貰ってるし……」

「それはそれでしょ! 今日はご飯作ってあげるよ、なるべく長持ちするやつとか!」

「ありがとう」

オレは自炊ができない。お金が節約できる。それもそうだがクラスメイト、それも女子にご飯を作ってもらえるなどそうそうないぞ! しかも修学旅行のような強制イベントではなく、これはお礼。入学初日からモテ期がきたのだとオレは心のガッツポーズを連打した。

「千藤さんは、」

「翼でいいよ!」

見ろ、久遠。これが……いや、比較は良くない。女子を比較する男は最低だと昔どこかで聞いたことある。今の時代もやはり大切なのはオンリーワンってやつだ。

オレはどうにか話を繋げようと千藤に話しかけた。

「翼はどーして探偵になりたいんだ?」

「えーとね、親の影響かな。親は一流の名探偵ってわけじゃなかったんだけどね、どんなに小さな事件でも全力だったの。だから私もそんな探偵になりたくて」

「そうか、凄いんだな」

千藤は台所で鍋をかき混ぜながら照れた表情をしていた。

「天道くんは?」

「……すまない翼」

「そうだよね、まだ私達そんな仲良くないもんね」

すまない。オレにはそんなキラキラした動機はないんだ。

少しして翼は鍋いっぱいのカレーを運んできた。

「こ、これは」

「カレーだよ! 1週間分くらいあるかなぁ~」

「???」

1週間カレー生活が確定した瞬間だった。何で月1万円縛りの上、1週間カレー縛りもやらないといけないんだとツッコミたかったが久遠とのやり取りを思い出して、ここは素直にありがとうと伝えた。


翼を女子館まで登れる階段まで見送った。


……


――ん? 視線を感じたが気のせいだったか。



荷ほどきを終わらせて、明日から使う教科書や参考書をカバンにしまう。簡単にシャワーを浴びた後、オレは教室で受け取った資料を1ページ開く。学校の校歌や先生紹介、今後の大まかな行事予定などを流し読みし、学校のルール説明欄に辿り着いた。


【Self-judgment coin system 通称「セルフマネーシステム」。自己判断で使うことができる電子マネー。毎月の一日に相応の額が振り込まれる。金額は増やすことも可能であり、受け渡しも可能。3ヶ月後、金額が0以下の者は退学とする。】

なるほど。セルフマネーシステム。0以下で退学……ねえ。これはおそらく表面上のことしか書かれていない。まだ何か秘密があるはずだ。そして増やす方法が今の時点ではカジノ、ギャンブルだけしか判明していない。


【With four-heart system 通称「フォシステム」。4人1組で行動を共にする。メンバーおよびリーダーは自由に決めて良い。また一度登録したリーダーは第三者委員会に認められない限り変更不可能。4人のセルフマネーシステムの合計ポイントがチームポイントとなり、チーム合計ポイントがクラスポイントとなる。クラス順位およびチーム順位に応じて相応の報酬を渡す。卒業時のポイント数ランキング上位チームは国家級超一流名探偵として学校から推薦状が授与される。】

4人1組……トラウマ言葉ランキング3位じゃないか。ちなみに1位は2人1組で2位は3人1組だ。そして順位報酬……。これが単純にセルフマネーシステムなのかはまだわからないな。


オレはベッドに横になり、最後のページに書かれたクラス名簿を眺めた。クラスは1Aから1Dまであり、それぞれ20人つまり、最高で5チームができる。これからこの4クラスが、20チームが競争していくのか。

この名探偵育成高等学校の目的は名探偵を育成すること。それも国家級の超一流。その器が卒業の段階で少なくとも1人いれば上等。残りはその超一流を磨くためのやすりとなれ。そのような意味をオレはこの資料から読み取った。


いよいよ明日から本格的にそんな名探偵育成高等学校での生活、研鑽の日々が始まりを迎える――



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