第3話 1Dクラスメイト
「偶然。よく会うわね、それとも――」
「ストーカーじゃない」
6階にある自分の部屋から下に降りようと、上階から来るエレベーターを待っていたらたまたまそこに久遠が乗っていたのだ。
「ヤッホー!」
そして何故か千藤も一緒に。
「昨日はありがとう。美味しかった」
「美味しかった?」
いつもより低めなトーンで久遠がこちらを睨む。
「いえいえ~!」
寮から教室まで徒歩でだいたい10分間。オレたちは会話が弾むこともなく教室に着いた。千藤だけが気まずい顔を浮かべていた。
教室には既に昨日の資料に示されていた「4システム」を進めるための、グループ決めが行なわれていた。
「あっ! 翼、おはよ~! 私達のチームに来ない?」
千藤は机に座ると同時に大勢の生徒に囲まれてチームの勧誘を受けていた。
「人気だな」
「そうね」
そして、オレたちの席には誰も来ない。おかしいぞ、昨日恩を売ったのではないのか久遠。オレの予想建てでは昨日の恩義を受けたクラスメイト達がオレの机の周りに集まって体が引きちぎれるほどの取り合いになるとふんでいたのに。
「何故自分には誘いの1つも来ないのかって?」
「ああそうだ。昨日の記憶を学校側は消したのか。その可能性が考えられる」
「あなたの死んだ魚のような目……。気味が悪くて近づけないのよきっと」
「じゃあ、久遠は?」
「そうね。考えられるのは私が高嶺すぎる、」
「いやもういい。惨めなだけだ」
オレは強制的に会話を終了させて大きなため息をついた。
少ししてホームルームが終わり、そのまま1限目の数学が始まった。黒澤先生はどうやら数学の先生でもあったらしい。と、思ったら2限目の現代文、またしても教壇に立ったのは黒澤先生。
「ん? ああ言ってなかったな。クラス担任ってのは全科目担当ってことだ。専門科目は数学だが……。安心しろ、高校レベルなら全科目教えられる」
あくびをしながら黒澤は2限目もめんどくさそうにチョークを走らせた。
あれよあれよと昼食の時間となり、またクラスは勧誘の声に包まれた。千藤は相変わらず……。久遠はその場の空気に耐えられなかったのかすぐさま食堂に行ってしまった。
「天道くん、昨日はありがとう。僕たちのチームはもう4人になってしまったのだけれど、その……順調かい?」
後ろの席でボッチ飯(大盛りのカレー)をきめていたオレに話しかけてきたのは先ほどホームルームで決まった委員長の
「そうだな、まあ余り物には福があるって言うしな」
オレは自分から声をかける勇気が無いことを誤魔化してなんとか悪目立ちせぬように心掛けた。
「そう。もし何かあったらいつでも話してくれ。チーム分けで競争とはいえ同じクラスメイトなんだから」
「ああ、ありがとう」
これは中身もイケメンだ。こんなクラスの端のオレにもこんな笑顔を見せてくれる。こんなときあの久遠ならきっと「裏があるんじゃない」とか言うのだろうがオレは成長したんだ。ここは素直に受け止めよう。
そして1日が終わった――
絶望というわけではない。委員長である黒牙と話せたのはかなり大きな収穫だ。まだ時間はある。
「まだ、時間はあるって思ってる? どこぞのサッカー解説者みたいね」
「まだ時間があるのは事実だろう。それにサッカーもホイッスルが鳴り終わるまで何が起こるか分からないぞ」
「もう3チームが完成しているのよ。まだクラスメイトの全員の実力がわからないとはいえ、このまま余り物でチームを作っても消極的な人物しか集まらない」
「そうだな、今後何かしらの支障が出るかもな」
「天道くん、あなたはそれで良いの?」
「残る確定メンバーはおそらくオレと久遠、残りの2人がどうなるか……」
「ちょっと待って」
帰路、久遠はまた怒り交じりにオレを立ち止まらせた。
「いったいいつから私がまだ残り物だと錯覚していた?」
怖い、怖い。オレを催眠にかけて後ろから刺すんじゃないだろうな……。
「どこのチームだ?」
「ごめん、冗談。まだ1人よ」
真面目にクールな久遠がいきなり真顔で冗談を言ったことに少し驚いた。
「でも、必ず上位になる。将来の、私自身のために。あなたも上位を目指してるのでしょう? なら私に協力しなさい?」
「……何でだよ」
「独りのあなたに話しかけてあげたのは誰? それが無ければ今頃ボッチだったのよあなた。感謝しなさい」
「へいへい」
それはお前にも言えることだけどな久遠。まあ4システムが大事なのは間違いないだろう。
夕焼けが寮のビルに大きな影を作る。スーパーに寄るといって久遠と別れたオレは1人寮に帰ってきた。
「ん? あれは……うちのクラスの人……絡まれてる?」
鋭い目をした白髪ショートカットの女の子が他クラスと思われる3人の男子生徒に詰められていた。
「何……」
「その電子手帳ちょっと見せてくれねーか? 電子マネーの受け渡しは可ってよぉ、資料に書いてあったよなぁ! わりいんだけどもう俺ら最新のゲーム機買っちまって金がねーんだよ。少し貸してくれねーか?」
「バカが。お金は無い……。学校に報告させてもらう、」
見ていると担任の黒澤先生に電話をしようと電子手帳を取り出した彼女から3人はそれを奪い取った。
流石に平和的ではないと思ったオレはその電子手帳を横から奪い返して、彼女に背を向けるように遮った。
「何だよてめえコイツと同じチームか? 邪魔すんなよ!」
「違います。ただ一応同じクラスなので……。これは明らかに理不尽な行為では?」
「うるせえ!」
オレは持っていた彼女の電子手帳を高く上空に飛ばした隙に顎が外れるほどの打撃を与えた。
「アこぉかァ!」
上空に投げた電子手帳をキャッチして彼女を連れて寮のエントランスを通過して中に逃げ込んだ。
「気を付けろよ。探偵を目指す者にあんな乱暴なやつもいるんだな。大丈夫か?
そこで初めて彼女が人質を取られた警察官のような怖い目をオレにずっと向けていたことに気づいた。
「……何が目的?」
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