第4話 3つ目のルール

「……何が目的?」

「目的も何もない。ただ危険な雰囲気だったから助けただけだ」

「……昨日。私聞いちゃったの。スーパーで久遠さんとの会話を。天道くんって自分にメリットが無い限り動かない系の人でしょ?」

「そんなことはない。人は時には感情で動く生き物だ」

「……そう。じゃあ」


――行ってしまった。


さっきの電子手帳に表示されていた所持マネー……-50320。マイナスなんて概念があったことにも驚いたが、そんな額を何に使ったんだ。

オレは今のグループ状況を知るために千藤の部屋を訪れた。何気に初めて入る女子の部屋に少しだけテンションが上がった。


「委員長、黒牙くんがリーダーのチームと女子のカースト上位にいる神宮寺姫じんぐうじひめがリーダーのチーム。そして私のグループは碧衣さんと美樹さんと、あと響さんだよ。リーダーはまだ決まってないけどね」

「神代響、彼女は自分から進んでそのグループに入ったのか?」

「私はリーダーじゃないから分かんない。最後に入ったのが私だから。でもなんか変わった子っていうか少し怖い雰囲気があるんだよねぇ」

「金遣いが荒いとかか?」

「え? 前部屋に行った時に教えてもらったんだけど響さんってミニマリストらしいよ」

「そうか」

「何か気になってるの?」

「いや、ただ俺も変わった雰囲気だなと思ってな。今日はもう帰るよ」


オレはまた明日神代響本人から何かを聞き出そうと思い、千藤の部屋を後にした。



【 Q.E.D。揉め事など、真実を解き明かさなければならない時に生徒会および第三者委員会の管理のもと行われる。……。至った結論から生徒会が両チームにそれぞれマネーを分配する。】

これが3つ目のルール。つまり、裁判のようなものか。黒澤先生が言っていたマネーが増える機会の1つはこれか。ただ、まだチームに所属していないオレには開催権が無い。


次の日。教室は何やらいつも以上に騒がしかった。

何やら神宮寺チームと千藤のチームで揉めているらしい。珍しく席を離れてその2つのチームの言い合いを見ている久遠に状況を聞いた。


「神宮寺さんのチームメンバーの茜さんののカメラが盗まれたらしいのよ、それでその犯人が千藤さんのチームの神代さんだって……」

「神代はそれを認めたのか?」

「認めるわけないでしょ。今日は神代さんは学校休みだし……。しかも茜さんも休み……。もしこのまま神代さんが犯人ってなってしまえばもうこの学校では……」

「名探偵どころか犯罪者の一員ってわけだな」

オレは少し2チームのやり取りを聞くことにした。


「その神宮寺さん。証拠とかってあるんですか?」

千藤が必死に神代をかばっていた。それに対して神宮寺はクラス全員に聞こえるように神代を追い詰めようとしていた。

「あるわよ、あるからそう言ってるんでしょ? 仮にもこの学校に入学して名探偵を目指しているのにも関わらず、窃盗犯を庇うだなんて恥ずかしくなくて?」

「……でも」


オレはまた久遠の肩を叩いて状況の確認を取った。


「証拠って何だ?」

「カメラショップの店員の証言」

「ん? 店員がいるのか?」

「店員が居ないのはスーパーとか一部の飲食店だけよ。カメラショップのような高級なものも扱う店は店員がいるのよ」

「なるほど、それで証言っていうのは?」

「昨日の15:30頃、神代さんらしき人物が茜さんのカメラを返金しに来たらしいの。角度と距離的に判りづらいけど白い髪の神代さんくらいの身長の女子生徒が監視カメラで確認できたらしいの。この2つがさっきから神宮寺さんが大声で言っている証拠よ」

「なるほど」

昨日の15:30、か。オレが他クラスの生徒に絡まれていた神代に会ったのは夕日がかかる時刻つまり、少なくともその時間以降だろう。

そしてオレがたまたま確認できた神代響の電子手帳。久遠の話を聞いてオレは疑問点が生まれた。


「なあ、久遠」

「今度は何? もう解説することは無いはずよ」

「セルフマネーシステム。返金は現金で渡されるのか?」

「さあね、私はやったことないから分からないから真実じゃないことは断言できないわ。けど昨日あなたと分かれた後、全ての店に行ったの。今後の生活のためにね。全ての店、娯楽施設、カジノ、どこも現金なんて使わない設計になってたわ」

「じゃあ、返金は電子マネー、電子手帳にチャージされるってことか。例えば1万円所持状態でその新品のカメラをそのまま返品したら、電子手帳には7万と表示されるってことか」

「今頃犯人はお金持ちってわけね」

「久遠は誰が犯人だと思ってる?」

「証拠があるのだから神代響さんでしょうね。あの3つ目のルールが適用されれば簡単に学校側に窃盗がバレる。彼女はどうなるのかしら、ね」

「あの資料からするに……退学。軽くても謹慎処分だろうな。じゃあ質問を変える。もしその証拠で神代響が犯人だと言うには不十分だとしたら?」

オレは両チームの言い合いから目をそらさずに久遠にそう投げかける。

「……?」

何を言っているの? と言わんばかりの表情を久遠がこちらに見せてきたが、オレは千藤の後ろで小さくなって怯えている神代の姿から目を離さなかった。


ホームルームが始まる直前。両チームが出した結論は「Q.E.D」。これがオレたちのクラス初のQ.E.Dであり、初めての事件となった。



生徒会室。


「生徒会長、1DからQ.E.Dの開催要請が来ております」

「早速第三者委員会の選出を」

「はい、準備を進めます」





【Q.E.D。揉め事など、真実を解き明かさなければならない時に生徒会および第三者委員会の管理のもと行われる。生徒会の中から2名。第三者委員会とは教職員のことを指し、1名が選ばれる。その1名に問題としてクラスの担任は参加できないが出席は認められる。至った結論から生徒会が両チームにそれぞれマネーを分配する。】

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