第7話 のんきな勉強会

日曜日。何故かオレの部屋で勉強会をすることになった。勉強会と言ってもテスト勉強などではなく、ただ授業で出された課題をやるだけだ。メンバーは久遠、茜、神代。例の事件もあり、オレは少し気まずいと思って久遠を呼んだ。


「問、次の空欄を埋めよ。X>YはX^2>Y^2は□。XとYは実数とする。これ分からん、天道」

始まって1分もしないうちに神代は静寂を破って分からないと手を挙げた。

「何で俺なんだよ……」

「じゃあ久遠」

「何でそうなるのよ、最初に私を頼らなかったのは私がこの男よりもバカに見えたってわけ? それにちゃんと自分で少しは考えたの? まだ1問目じゃない」

怖っ。お母さん? お母さんかな? いや、鬼かな。

「はいぃ」

ほらぁ、怖がってるじゃないか。神宮寺の時よりも怖がってるよ! 仕方ない、オレが説明するか。

「神代、こういうのはXとかYに具体的な数字を入れて考えるんだ。ほら、X=1、Y=-2を入れてみろよ。X^2>Y^2はどうなる?」

「1<4。X^2>Y^2にはならないよ?」

丁寧にゆっくりと神代のノートで説明していく中、前に座っていた久遠はこちらを見向きもしないが聞いてはいる様子だった。

「じゃあ、必要条件?」

教科書に書かれた語を指差し、オレに正解かどうかを目でうったえてくる。愛らしい。まるで妹みたいだ。何? 妹はそんな幻想的な生き物じゃないって? うるさい、男の夢を壊すな。前から冷たい視線を捉えつつもオレはさらに説明を重ねる。

「いや、結論を慌てるな。必要条件かどうかはさっきやった逆の確認を取らないといけない。X^2>Y^2を満たす、X=-2、Y=1とかどうだ?」

「X>Yにならない!」

「だから答えは十分条件でも、必要条件でもない。だ。」

「ありがとう!」

久遠が鼻で笑う。こいつ……。そんな簡単なものも分からないってか。

確かにこれから学年が進むにつれて数学もだんだん難しくなり、この分野が相対的に簡単に思えてしまう時がくるかもしれない。ただ、この必要十分条件の分野は社会にでてから大切な内容だとオレは思ってる。

そしてオレは神代のおかげで足踏みしていた状態から前に進めるかもしれない――。

そんなこんなで午後になり、課題もだいたい終わりが見えたことから勉強会はお開きとなった。


――さて、予約の時間だな。




月曜日。Q.E.D当日。クラスは朝からソワソワしていて授業も身に入らなかった。昼休みになり、オレは1人生徒会室に向かった。


「あれは、鳳条か」

生徒会室前にいた1Aの鳳条に声を掛けた。

「あら、1Dの天道くん。生徒会に?」

「誘われたわけじゃない。もし誘われたとしても入らないがな。面倒ごとは嫌いだ」

「では今日の1DのQ.E.Dのこと?」

「詳しいな。ま、そんなとこだ。そういえば鳳条は生徒会の誘いにのったのか?」

「はい、と言ったら?」

周りに誰もいないことを確認して鳳条はオレの顎に手をあてる。いつものオレなら可愛いと思うが今のこの空気で流石に素直にそうは思えなかった。

「生徒会の目的は本当に学園の秩序の維持、か?」

もちろん秩序の維持や学校運営も仕事の1つだろうが、少なくともあと1つ……。

「さあ。そこまでは。でも、天道くんは気づいたのね。入学初日に配られた資料に書かれた年間スケジュール。それには書かれていないイベントがあるのよ」

「――やはりな。毎年批判が殺到するんじゃないのか?」

このことを久遠が知ったらどうするだろうな。

「不平等だって言いたいのかしら。ねえ、1Aから1Dまでのクラス。ここに平等はあると思う?」

何を急に言い出すんだ。ここへの入学には確かに試験があった。それは他の普通高校と同様の5科目試験だった。

「最初のホームルームで黒澤先生が言っていたんだ。その試験でクラスは分けていないってな。ランダムだろう」

「……いずれ分かるでしょう。とりあえず今はおめでとうの言葉を1Dに」

これ以上話しても無駄だと思ったオレは生徒会のドアを引いて、ここで待ち合わせていた人物が来たことを確認して、鳳条と別れるように入室した――。


生徒会室。どこの学校もそうだと思うがここだけ造りが王様がいる城のようだった。堅苦しく、重たい空気から意図せず背筋が伸びる。


「生徒会長、3年の雨宮先輩……。その書記の2年、柊先輩」

「1D天道唯人くん。天の道に、唯一の人と書く。そして……隣の彼女は……」

「生徒会長」

柊先輩が早く本題に入れと言わんばかりに話の路線を引き戻す。

「ああ、そうだったな。君たちの要件は?」

大切そうに柊先輩が手にしていた緑のリボンの探偵帽を深々と被る。

「要件は――」





放課後。神宮寺チームおよび千藤のチームメンバーは重い足を進めてQ.E.Dが再度行われる会議室へ向かった。

茜は心配そうにオレたちがいる教室の方を何度も振り返っていた。オレは安心しろと手で送り、自分も椅子から立ち上がった。


「ちょっと、どこへ行くの?」

久遠は両チームに付いていこうとしたオレを呼び止める。

「Q.E.Dだ」

「はい? どうしてあなたが参加できるのかしら。昼休みに何やら勝手に1人で動いていたみたいだけど……」

まじか、よく見てたな。学食に向かったように見せてたのに。




――簡単な話だ

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