第8話 天道唯人という男
「千藤さんのチームに入った!?」
聞いたことのない久遠の大声が教室に響く。
「どうやら、ちゃんと生徒会に許可を取れば入れるらしい。それにリーダーは千藤だった。なんとか入れて良かった。おかげでこうやってQ.E.Dに参加できる」
「……待って。チームは4人のはずでしょ?」
オレは教室の前に居た神代の方を指さした。
「昼休みに生徒会を訪ねたのはあいつと一緒にだったんだ」
「脱退……。Q.E.Dの途中……しかも重要参考人の1人じゃない! よく認められたわね……」
「ルールはルールってことだろ。それにもう神代は十分活躍してくれた」
「そう……」
久遠はオレから目をそらして寂し気な表情をした。
「久遠。最後に頼みたいことがある――」
今は何もしなくていい――
その瞬間は必ず来る。いや、オレが必ず。
これはオレが勝つために必要なことだ――
会議室に足を踏み入れた瞬間、黒澤先生や神宮寺チームメンバーは驚いたようにオレの方を見た。
「生徒会長」
「ああ、これより一度中断となったQ.E.Dを再開する」
完全に注目の的になってしまったようだ。承知の上だと肩の力を抜くことにした。
「それで、両チームに問うが、真犯人とやらは見つかったのか? 神代さんの代わりに今日チームに所属してQ.E.Dに強引に参加した天道くん」
「真犯人は残念ながら特定はできませんでしたが、その団体は分かりましたよ」
「言ってみなさい」
第三者委員会として引き続き参加している1C担任の白石が興味深そうにに肘をつく。
「結論から申し上げますと、今回の事件そのものを立案および実行したのは生徒会の皆様方でしょう」
空気の流れを変えるほどの同様の渦が会議室を満たし始めた。首を傾げる者、開いた口が塞がらない者、ノートに状況をまとめだす者。無理もない。もしそれが本当だとしたらこれまでに起きたこと、やってきたことは全て茶番だったということになるからだ。
「詳細もしくは証拠を」
こんな状況でも生徒会長ともなると汗の一つも掻かないか。
「まずは動機から考えた。神代響に罪を擦り付けて得をするのは誰か。いろいろな人に意見を求めたがその多くが、Q.E.D勝利ポイントゲットかつ千藤チームの崩壊だった。そしてさらに久遠が言うにはそれを狙っているのは神宮寺チームの誰か。しかし、ここで矛盾が生じる。いったい、あの監視カメラの映像はどうやったのか。変装は不可能という結論に至った。神宮寺チームの誰もそれは不可能……」
「なら、変装ではないトリックがあると?」
黒澤先生が早速話にツッコんできた。
「いいえ、あくまで神宮寺チームには変装不可能であってという話です。視野が狭かったんですよ。Q.E.D勝利ポイントゲットかつ千藤チームの崩壊よりも神宮寺チームか千藤チームかという点に絞り過ぎていた」
「じゃあ、犯人がいるチームはここにいる両チーム以外と言いたいのかね?」
「はい。そうなると範囲を絞りきれない。その2つの条件を満たすチームはほぼ全て。必要十分条件は難しいと改めて思いましたよ」
オレはその瞬間、神代の顔を思い出していた。
「だが、まだ手がかりは残されていた。神代はカメラショップで茜さんが盗られたカメラを借金の後に購入。さらにその後、寮に帰った時、不良生徒に襲わていたんですよ」
その時の寮周辺の監視カメラの映像をスクリーンに映し出した。
「生徒会長さん、見えますか? 彼らは神代の電子手帳を奪おうとしている」
「それが? この事件と関係ないように思えるが……」
「帽子のリボンを見てください」
「青! 青ですよ! 2年生です! 生徒会長!」
白石が驚きの声をあげたが、そうだ。教職員にはこの異常さがよく伝わるだろう。
2年生の寮はこの校舎から南。そしてオレたち1年生の寮は真反対の北側。直線距離でおよそ6km以上。こちらだけに特別な施設があるわけでもない。
「天道くん、それは考えすぎだよ? おそらく2年生は下級生なら盗れる。そう思ったんじゃないのかい?」
オレはスクリーンを映している両隣のスクリーンも書記の柊先輩に下げさせ、さらなる監視カメラの映像を見せた。
「――これは」
「神代を襲った2年生3名のその日すべての行動履歴」
その3名は1年生寮の中でもDクラス、オレたちの寮が見える茂みに隠れている映像が右スクリーンに。反対のスクリーンには神代以外の他の1年生には見向きもしない3名の追跡映像が映し出された。
「さすが最新設備を揃えた学校ですね、黒澤先生」
黒澤先生はニヤリ吹き出すように笑う。
「あぁっ。下手な犯罪は推理するまでもなく監視カメラに映し出される。便利な世の中になったのか恐ろしい世の中になったのか分からねぇぜ」
もう一度生徒会長の方に視線を向け、反応を待つ。
「ああ、認めよう。それで、それがどうつながるんだ?」
そうだ。ここからは――
「その前に、彼ら3人をここに呼んでいただきたい。事実確認はその方がいい」
――校内放送が校舎を巡り、大勢の人の耳にその3名の名前が知れ渡る。
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