第9話 Q.E.D閉幕
「
3人のリーダー的存在の大柄な体型の大前田が静かに受け答えた。
「はい……。神代の電子手帳を奪い、電子マネーをチャージさせました」
「……ということだ天道くん。それで、この話から、」
「まず、チャージしたのは前のQ.E.Dでおそらくご存知かと思いますが、神代に完全に罪を被せること。逆を言えば、チャージしなければ完全犯罪にはならない。だからこの先輩3名はその犯人達に命令された」
「はい……」
オレがその返事を聞き、すぐに生徒会2人の顔を見ると先ほどとは打って変わって動揺が見受けられる。
――予想通り。やっと折れたか。少し危ない橋だったな。
しばらくして、生徒会長、雨宮要および書記、柊笠音は今回の事件のすべては生徒会が仕組んでいたことを認めた。すぐさま黒澤先生および白石先生がこれはこの学校の新入生歓迎イベントであり、毎年これくらい盛大に実施されるのだと説明した。さらに、このターゲットとなるクラスはくじ引きで決めたとか、いないとか。
何はともあれ、そこにいる生徒は終始納得がいかない様子だった。今回はQ.E.D勝利マネーとして特別に神宮寺チームが出したカメラ代および神代が1人で出したお金は元に戻され、さらに事件を見事にQ.E.Dさせた千藤チームには+10000がチャージされた。
「天道くん、君。生徒会に入らないか? きっと今よりもずっと高みを目指せるよ」
「いえ、そういう面倒ごとは苦手なので」
「そうは見えなかったですよ」
柊先輩、初めて笑ったところ見たな。
「確認したいことがあるのですが、あの不良生徒のミスもおそらく計画のうちですよね?」
2人ははっと驚いた。
「……あぁそうだよ。本当は神代さん辺りに解いてほしかったんだけどね。ちなみに神代さんに変装したのは柊だ」
生徒会長は後ろから取り出した白髪のウイッグを柊先輩に被せて見せた。
ほんとだ! 凄い可愛い! じゃなくて、凄いそっくり!
「チームはなかったことにするよ。君、このQ.E.Dに勝つためだけに入ったのだろう? それはダメだ。もう一度ゆっくりと考えて、それから4人でまた生徒会室に来なさい」
◇
教室に向かう廊下。腕を組んだ久遠が待ち構えていた。
これはまた怒られるのか……。まあ、しょうがない。
「全部読んでたの? 生徒会側がQ.E.Dの最中に彼ら3人を呼び出すって」
「オレが呼んだようなもんだ」
「しかも生徒会は彼等に黙秘権あるいは否定の回答を取らせようとしていた。それもあなたは予想していた……」
「Q.E.D報酬は+10000円だった。そっちは何円使った? あの3人の買収は高値だったろう?」
「全部で1000円よ」
久遠は胸の前で電子手帳の残高を見せる。
「安くないか?」
「顎を怪我してた。あれはあなたがやったのでしょう? また酷い目に遭うわよってね」
「……脅しじゃねーか」
オレは1000を久遠の電子手帳に送り、少し駆け足で教室に残っている神代のところへ戻った。
「どうだった……?」
「生徒会の新入生歓迎イベントだったのよ」
久遠が怒って神代に伝えると気が抜けたように神代は腰を椅子に落とした。
「ほら、電子手帳貸しな。+60000円だ」
「わっ! ありがとう! 全額返金!」
「そりゃ当然だろう。これで戻ってこなかったらいよいよ生徒会がやばい組織だとクラス中、学年中に知れ渡ってしまうだろ」
クラスのマネーポイントは分からない。今の時点ではカメラ分の金額+Q.E.D報酬を手に入れたオレを抜いてもまだ千藤チームがトップということになる。委員長のチームは過度な節約をしていない限りは予想可能な値。そして、カメラ金が戻ってきたがQ.E.D報酬は入らなかった神宮寺チームもまた委員長チームと同等。余っている他のクラスメイトがチームを組んでもおそらく千藤チームは超えられない。
――ただ、千藤チームとしてQ.E.D報酬を手に入れたオレとカメラ金が丸々戻った神代、買収を0円に抑えてお金の使い方が上手い久遠がチームになれば……ってとこか。
そして……気になるのは初のQ.E.D日前日……。いや、今は深く考えてもしょうがないな。
「何考えてるの?」
いつもの帰り道。日はすっかりと沈み、電灯があたりを照らし始めている。
「いや、とんだ茶番だったってな」
「そうね。でもこの学校のことを少し知れた気がするわ」
クールだな。こういう時くらい少しデレても良いのに。
「また明日からいつもの日常だな」
「何、言ってるの。きっとこれがこの学校における日常なんでしょ?」
そうだった。
また入学初日に久遠に言われたことを思い出した。
――ここは名探偵育成高等学校
ここからが本当の意味でのスタートラインなのかもしれない。
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