第6話 入学してから初めての休日
深夜。神代、茜、久遠はオレの部屋に集まった。神代だけは警戒心を前面に出していた。
「……まあそう怖い顔をするなよ。オレと久遠はただ真犯人を知りたいだけだ」
「……まあいいや。茜、説明」
「はいはい」
茜は神代に言われるがままに今日の放課後に開催され、一時解散となったQ.E.Dの内容を丁寧に説明してくれた。
「最初にカメラを買った時、神宮寺チームのみんなが出してくれたんだな」
「ええ。半分私たちで出すって神宮寺さんが言ってくれたの……」
「3万……ってことは1人1万出したってこと!?」
久遠の言いたいことも分かる。普通じゃありえないことだ。入学してまだ1週間も経っていない中いくらチームとはいえ、借金覚悟で生活費の1万を出すってのはほぼ自殺行為だ。
「みんな本当に優しい人たちなの……」
「言いだしっぺは神宮寺のやつだろ。きっと他の男子はそれを嫌々引き受けたんだよ。あいつは女王だからな」
オレは神代の言葉に納得した。が、その皿の大盛りカレーは何だ。それは千藤が作ってくれたオレだけのためのカレーだぞ。まあ別にいいが……。
「神代はその男子のどちらかだと思ってるのか?」
「当たり前でしょ。それ以外誰がいるの」
「お前……すごい奴だな」
神宮寺のやつらも凄いと思ったが、さらに全額出した神代にオレは昨日からずっと驚いていた。-6万円。こいつは後悔もしてないように見える。
ん? そういえばこいつ、どこぞのヤンキーに絡まれていたがあれはたまたまなのか。
「なあ、神代。あのヤンキーには何かお前に恨みでもあったのか?」
「たまたまよ。本当にバカね。こっちは-6万円だってのに。あげれる金なんて無いっつーの!」
その通りだ。タイミングが悪いヤンキー。でもそれは手掛かりになるかもしれない。オレは今一度ヤンキーの言動を思い出した。
「たまたまね。お金が目的だったと感じたが、見方を変えれば電子手帳を奪おうとしていたようにも……」
「奪ってどうするのよ」
「入金するため。もし神代の電子手帳に6万プラスされてたら?」
オレは茜と神代に問いかけた。
「今日のQ.E.Dは……」
「負けていただろうな。そして報酬は被害額6万とQ.E.D勝利の+αで損失は無くなるどころか千藤チーム崩壊と順位アップ」
「あの男子ども~~!!!!」
神代はカレーを頬張りながら武藤と遠藤に怒りを露わにした。
「とりあえず、今日はもう自室に帰れ」
オレは深夜1時をまわった時計を指差して久遠と茜を帰らせた。
一緒に帰ろうとしていた神代の服をつまんで引き戻した。
「えっ」
お前はまだダメだ。皿を洗ってから帰れ。そして感謝の言葉を忘れるな。
次の日。入学して初めての休日を迎えた。
オレは慣れない寮生活と新生活のためか8:00に設定した目覚ましよりも早く目が覚めてしまった。
散歩でもするか。久遠はいち早く学園内を歩き回っていたらしいがオレはまだ寮の周りと学校、近くのスーパーやカフェくらいしか把握していない。
動きやすい服装でエントランスに降りるとそこで久遠が入念な準備運動をしていた。
「お前も眠れなかったのか?」
目をこすりながらストレッチ中の久遠に話しかける。
「あなたと一緒にしないで。これは日課なの」
「それはすまなかった。意外と運動が好きなんだな」
「探偵は知力だけじゃ務まらない。知力、体力、洞察力、精神力、想像力、コミュニケーション能力、この学校で上にあがるには不可欠なものでしょ」
久遠はそう言いながら人差し指を上に向けた。
「そうだな、けどそれら全部の力をマックスにすることはできない。4人1組の4システムがあるんだろうな」
「おかしな話ね、卒業して探偵になったら1人だってのにね。1人で完璧な方が良いに決まってるわ」
「……そうだな」
久遠の言う通り、1人で全ての分野で満点が取れるならそれに越したことは無い。学校もそのための教育をするべきだとオレも思ってる。ただ、自分だけの武器を磨けるときに磨いておいた方が良い。4システムの価値はきっとそこにあるのだろう。
準備運動を終えてランニングへ出掛けていった久遠と同じ方向にオレは歩き出したが、たった数秒でその姿は見えなくなってしまった。……努力家だな。他人に厳しい性格は自分への厳しさからきているのだろうと思った。
さて、オレは……。
敷地を歩いていくうちに分かったことがある。というか、今初めて知ったことがある。それは外部と連絡が取れないどころか敷地外に行く方法が全くの0ということだ。連絡は自立の精神で何とか納得できるが、外に出れないというのはどのような理由があるのか……。
そして寮と校舎の位置関係。全敷地中央に全学年の校舎が佇み、その北に1年生の寮群、南に2年生の寮群、東に3年生の寮群が配置されている。
先輩たちとは校舎以外ではあまり関わりがなさそうだな……。
「天道唯人。1D所属。チームはまだ未所属」
「誰だ?」
オレは休憩がてら自動販売機で水を購入していたところ、横のベンチに座っている見ず知らずの女子生徒に声をかけられた。小学生と言われても納得できるほどの身長に短い銀髪。休日だというのに制服に身にまとっている。神代に少し似ているな。そして可愛い。
「失礼。私は1Aの
「ああ、よろしく頼むよ」
いつか敵対するクラス。いや、今日は休日。普通の同級生でもいいじゃないか。オレは彼女の隣に座った。
「何で制服を?」
「生徒会に誘われまして、この後少し校舎の方に行く予定があるんですよ」
生徒会。この学校を生徒でありながら管理する立場、権限がある組織。それに入学してもう誘われるなんて、優秀なのだろう。これは下手な探りは意味ないな。
「この制服可愛いですよね。クリーム色のチェックのスカートに袖の広い上着は動きやすさとスマートさが兼ね備えられている。そしてこの探偵帽、学年でリボンの色が違うようですが既に1年生の赤はお気に入りです。これを身に着けると探偵としての自覚が芽生えます」
制服が可愛いのは間違いないが、もっと可愛いのは鳳条さん、あなたです。
――ん? リボンの色。そうか制服で学年が分かるようになっているのか。
「2年生と3年生は何色か知ってるか?」
「生徒会メンバーは全員先輩ですからね。2年生は青、3年生は緑ですよ」
青……か。
「ありがとう、それじゃあオレはこれで」
「そうですか……気をつけてください」
水を一口含み、オレはまたウォーキングに戻った。
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