第26話 一時の水着バカンス

「これとかどーかな??」

「派手過ぎでしょ、神代さんはこっちの方が似合ってるんじゃない?」

「はぁ!? そんな小学生みたいなの有り得ないから! 私がそれなら久遠はそっちでしょ?」

「っな! 競泳水着じゃない」

オレは来るのが遅い久遠たちの様子を見にきたのだが、何やらどうでもいい争いをしていた。

「お前ら早く決めろよー」

「「うるさい!」」


結局は修多羅に似合ってますよと言われた競泳水着に2人とも着替えてプールに向かった。

何故、オレはうるさくて修多羅の言葉には納得するんのだろうか。


「に、似合ってる? 他のクラスの人たちに恥ずかしくかしら?」

「、ん。似合ってるぞ」

「今どこ見て言った?」

「早く行こうぜ。何かやっぱりこの季節ちょっと寒くて、温水プールもあるみたいだからな」


プールに行くと黒牙チームも神宮寺チームと千藤チームと一緒にプールで楽しそうにバレーをしていた。久遠たちの水着とは真逆でキラキラした水着が目に入る。プールサイドでは神永チームが日光浴を満喫していた。

陽キャ集団め……。


「あれ、修多羅。黒澤先生は?」

「あそこ」

指を差した方に目を向けるとプールの真ん中でイルカの浮き輪に必死にしがみつく先生がいた。

「もしかして泳げないのか?」

「……うん。なんかカッコつけてあの飛び込み台から飛び込んだんだけど……」

「まじか……仮にも探偵だろ? しかも誰にも相手されてないじゃねーか」

「まあ大丈夫でしょう。……イルカいるし」

「てか、修多羅。その水着……」

「へ、変ですか?」

「男用じゃないか……?」

「男だからね!」

しばらくプールの端で修多羅と温水に癒されていたと思ったら、向こうで久遠と神代がまた何やら争いをしていた。


「クロールは私の勝ちね」

「100mなら勝ってたし! 今度は背泳ぎで勝負だから!」

どういった経緯かはよくわからないしどうせくだらないことだとは思うが、50mプールをどちらが早く泳ぎ切るのか競っているらしい。


「あいつら何やってんだ?」

「まあまあ、楽しみ方は人それぞれですよ!」



遊び疲れたDクラスは豪華なバイキングの食事をとって満足して個室に戻っていった。

静まり返った夜。学校に着く次の朝までまたこの船上で睡眠をとらなけらばならない。オレは来る時同様に少しずつ揺れ続ける船で寝ることができずに風を浴びに一人外に出た。


「誰だ」


デッキには先客がいたようだ。同じDクラスの黒牙チームの1人、夏目梢なつめこずえ。あまり楽しくしゃべっているところを見ないクールで古風な雰囲気の女子だ。オレの中で古風ってのは着物が似合いそうなという意味だ。


「久遠チーム……」

「天道唯人だ。黒牙はあの後大丈夫か?」

「チームにもクラスにもずっと明るく振舞ってる。きっと瘦せ我慢だ。うちのリーダーが世話になったらしいな、すまぬ」

「オレは何もしてない、久遠に言ってくれ。黒牙……器用に見えて意外と不器用な人間なんだな」

「夏目家は江戸時代からお人形の劇を魅せる家計でな。その跡取りには必ず男が選ばれるのだが、引き継ぎの儀前日にお兄様は殺害されてしまった」

「探偵を目指すのは犯人探しか?」

「そう家族に伝えたのは建前のようなものだ。はそれから兄の代わりとして育てられた。それが嫌で逃げたようなものだ」

そうか、一度だけ夏目の一人称を聞いて聞き間違いかと思ったりそういったキャラ付けかと思ったりしたが「俺」というのはそうゆう理由だったのか。

「意外と何でも教えてくれるんだな」

「黒牙が相手のことを知るにはまず自分のことを話すのだと教えてくれた」

「かなり黒牙に懐いているようだな」

「……チームでは自分を演じずに居ろと言ってくれたから、それが嬉しくて」

「で、そこまで教えてもらってオレから何が知りたい?」


御守として持ってきたのか、手に持っていたボロボロの遊び用の小さな人形を制服の胸部分から出して見せた。


「裏切り者を探してくれ、久遠チーム」


「何で久遠チームなんだ?」

「今後のクラスでこの件を大きな問題にしたくないと黒牙が。水汲みチームに参加してなかった久遠チームが最も信頼があるとも言っていた」

「めんどうな役回りだな」

「頼む。裏切り者はこの操り人形のようなものにすぎない。……そして操る人間を見つけなければDクラスは終わる」

「一応4システムがあるからな。リーダーが何て言うかわからないぞ夏目」


……



――夜が明けると同時に船での短い生活は終わり、それぞれが寮へと帰った。

また明日からいつもの学園生活が再開する。

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