6章:新しい組織

第46話 十探帝/プリメーラ

「これはあの時の貸しだ」


黒澤先生から4月からの1D寮の注文書と各クラスのプラティカル・エール訪問先パンフレットを受け取った。


「注文書だが、プライバシーなものは商品名を伏せてある。正しくわかるのは誰に届けられたかといつ届けられたくらいだ」

「ありがとうございます」




父親と黒澤先生が居なくなった後、オレはまず久遠リーダーに1本電話を入れることにした。


ツーツーツーツー。


出ない。……そう思った瞬間――


「誰に電話してるのかしら?」


廊下から顔を見せていたのは久遠、修多羅、神代の3人だった。

3人とも腕や頭に包帯を巻いてあり、見るからにボロボロになっていた。


「病院は?」

「「「必要ない」」」


「黒澤先生は大袈裟なのよ……私は弾丸を腕に少し掠っただけよ」

「そうか、大変だったな。修多羅と神代は先生から何も聞いてなかったがそのケガはどうしたんだ?」

「あ~……私はほらっ、肉体鍛えてたから」

そうだった。

神代がプラティカル・エールで訪問したのは剣打拳探偵事務所だったな。

「僕も似たような理由。まあよくあることだよ」

修多羅は最先端技術応用探偵事務所か。名前の通り、未知の技術に危険は付き物ってわけか。


いくら勝ち残りをかけた試験がいつ始まるかわからないとはいえ、こんなに急がなくてもよかったんじゃないか?と思いながらも、今は安否が確認できたことに一安心といったところか。


「でも次の試験が運動系だったらお前ら参加できないんじゃないのか?」

「そのときは本当に申し訳ないわ……」

久遠がらしくもなく謝罪する。

「なら、急いで学校に来なくても……」

「天道、まさかまだあのこと知らないの!?」

神代が久遠と修多羅と目を合わせて驚きの声を上げる。

オレは何も聞かされてないぞ……? プラティカル・エール延長中の学校でいったい何があったのだろうかと考える暇もなく、修多羅が口を開けて説明を始めた。



ですよ。名探偵育成高等学校の上層部は生徒会とは別に新たなる組織を設立した。名を十探帝プリメーラ。名探偵育成の加速、研鑽練度の底上げが理由で創られたソレは学年関係なく、学校内で唯一プラチナクラスを持つとされる最も名探偵に近い10人の生徒を集めた、」


上層部……十中八九、オレの父さんだな。


「それで、そのプリメーラってのは何を始めるんだ?」

「それはまだ分からない……。僕たちはそれが気になって強引に帰って来たんですよ」

「なるほど。プリメーラという組織が設立したが、まだその実態はわからない、か。メンバーはもうわかるのか?」

「張り出されてるよ……玄関前の廊下に」


神代に今すぐ見に行こうと手を引かれて、プリメーラの構成メンバーが張り出されているというその場所に向かった。


「ここね……」

「張り出されているというか刻印されてるな」

「ですね~……」


再新設備の建物に合わない古い10枚の大きな木の札が並べられ、そこに墨で力強く名前が書かれていた。



十探帝/プリメーラ



第一帝 天羽一希あまういつき


第二帝 間桐日夏まとうにちか


第三帝 空星澪そらほしみお


第四帝 飾城かざしろバン


第五帝 天星圭吾あまほしけいご


第六帝 霧氷水理むひょうすいり


第七帝 南野七海みなみのななみ


第八帝 剛力社ごうりきやしろ


第九帝 九十九つくもノア


第十帝 天道飾てんどうかざり



最初に思った感想は、壮観――


知らないメンバーが多いからこそ目に留まる知っている名前……第十帝とはな。

ん――? 

オレは1つの疑問を久遠にぶつけた。

「十探帝ってのはプラチナクラスが条件って修多羅がさっき言ってただろ? 第十帝の天道飾はオレ達と同じ1年生だぞ? 物理的にシルバークラスが限界のはずだ」

「それはおそらくQ.E.Dの新たなルールね。簡易的な探偵試験による一騎打ちで帝の座を奪うことでプラチナクラス、そして十探帝になることができる」

「飾はもうそこまで……」



『飾はお前と同じ、例の育成の生き残りだ』


父親の言葉が頭をよぎる。



「変なこと考えないでよ?」

久遠は腕の包帯をぎゅっと押さえながら険しい顔でオレに言った。

「何の話だ?」

「Q.E.Dで十探帝の誰かと変わろうだなんて」

「挑戦するデメリットでもあるのか?」

「敗者は退させられてしまうということ」

「1Dのみんなはなんて?」

「勿論黒牙くんたちリーダーに電話で話し合ったわ。結論として、1Dはその挑戦はよっぽどのことがない限り禁止にした」

「賢明だな」

「とりあえず、十探帝の話はこんな感じ。今のところ彼らが何をするのかは全く分からない。私たちは私たちのやるべきことをやりましょ」

「そうだな」





久遠たちは一足先に寮に帰った。

夕陽が十探帝の板に反射している。



「唯人……」


後ろから話しかけてきたのは見知らぬ女子だった。初対面の人から下の名前を呼ばれると少しびっくりする。


黒のショートカットに燃えるような緋色の眼。身長はオレの方が高いはずなのだが上から重々しく見られているような、そんな感じだった。


「君は?」


女子生徒はリボンの色から察するに同級生だ。

無言でニヤリと笑って人差し指で十探帝の第九帝を指す。


「九十九ノア」

……また今度」

「?」


――行ってしまった。



今日は、入学式以来の慌ただしい1日だったな。

何はともあれ明日からはプラティカル・エール明けの学校生活がまた始める――。

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