第36話 シルバークラス

黒澤先生が裏から現れ、夏目の傍に寄った。


「ギリギリだったな。夏目」

「……はい」

「「!?」」

「ほら、」

黒澤先生が山下の入っている部屋のドアを開けると、後ろ姿の腕を組んで立っている山下の姿が見えた。

「山下は失格」

「何でですか? 修多羅みたいに寝ていれば失格と分かりますが……」

「……だからそれだよ」

黒澤先生は言いにくそうに頭をかいていた。


「立ったまま寝てんだよ……山下は」

「!」

暗視スコープ付きの監視カメラでずっと試験を見守っていた黒澤先生が言うには夏目がドアを開けた時間と山下が立って寝た時間だと山下が寝た時間がわずかに早かったらしい。


「よくやったな夏目!!」

遠藤が夏目の手を握りながら喜んでいた。

「お前のおかげで勝てたぞ、夏目」

左もそう言って手を取る。

「……そうか」

夏目は恥ずかしそうに毛布を頭の上まであげた。

「どうした?」

「褒められるのは慣れてないのだ……」

「「「よくやったな」」」

「……やめろ/」




『以上を持って探偵試験を終了する!! みんな試験で疲れていると思うが教室で結果発表を行う。なるべく早く集まってくれい~』




【シルバークラス授与者


遠藤拓哉、天道唯人、夏目梢、左海人。


それぞれに1D最高の8000ポイント付与】



「今回はシルバークラスチームのみが発表されるんだな」

「あとは電子手帳で発表ね」

「シルバークラスって売ることできるのか?」

「は!? あんた売るつもりなの?」

「いや、どれくらいの価値があるのかなあと思って」

「それは……」


「それはゴールドクラスの次に価値が高い」

黒澤先生が久遠の話に乗るように入ってきた。

「金額にするとどれくらいですか?」

「さあな、それは今回の希少性で決まる。この時期だと各クラスの1チームだな」

「実質各クラスの上位ランカーみたいなものですね」

「そんなもんだ。ちなみに生徒同士の取引は可能だ」

「オレが久遠に渡すことも可能ってことか」

「貰わないけど……別に」

「そう嫌な顔をするな。ただの例えだ」


黒澤先生は教卓に戻り全員にカラークラスについての補足説明をした。


「シルバー、ゴールド、プラチナと価値が上がり、その証明は胸の校章の色で判別できるようになってる。今ほとんどの生徒が入学からブロンズの銅色だが天道たちは明日からシルバーになるってわけだ。今後も探偵試験は数多く存在する! 今回とは形式は違うかもしれないがな。ブロンズの者はまずシルバーを、シルバーの者はゴールドを目指して頑張ってくれ! ひとまず今日は長い間お疲れ様と言っておく。以上、解散!」


「……どうせそのシルバークラスの校章も何かに利用できないか考えてるんでしょ? 天道くんは」

「別に、価値あるものは利用できるって思っただけだ。具体的なことはまだ思いつかん」

「それを考えてるっていうんでしょ……」

「そうか。まあとりあえず明日からまた久遠チームだ。よろしく頼むよ」

「そうね、よろしく。もう深夜ね……」

「深夜の学校もいつもと違っていいもんだ」

「この後はすぐ帰って寝るでしょ?」

「? 残念。オレはあいつらとお疲れパーティーの予約が入ってるらしい」

教室の入り口に夏目や遠藤、左が待ってくれていた。


「何してる天道! 夏目がぶっ倒れる前に店行かないと抱っこの刑らしいぞ~」

「それは困るが、まあ悪くないな。ってことだ久遠」

「ええ、また学校で」


学園内には24時間営業のファミレスも多数存在している。オレたちは一番近い店に入ってはすぐに乾杯をした。


「夏目、ホントに大丈夫か? さっきまでぐったりだったじゃねーか」

「何言ってるの遠藤、今日打ち上げしないでいつする? このチームは今日で解散なのだぞ」

「それもそうだな! ほらっ左も! もっとニコって笑えよニコ~って!」

「うるさい……もう深夜1時過ぎだぞ……静かに乾杯させてくれ」

「へいへい」

乾杯をしてしばらく感想会をしていたところで夏目は横になってスヤスヤと寝てしまった。

「シルバークラスかあ……なんかよくわかんねーな!」

「あっちを見ろ遠藤、左」

「「ん?」」

「校章を見ろ」

同じく打ち上げをしていたのは1Aのチームだった。

「もうシルバーに付け替えてやがる……!」

「あれは1Aの天道飾だ。普段は総合力学年トップチームのリーダー。天道は次元が違うと聞いているがそれは本当らしい……今回チームメンバーが違うのに……」

「待て。……天道って? リーダーは天道って苗字一緒なのか? たまたま?」

遠藤と左がオレの方を向き直して1Aの天道飾のことを聞いてきた。

「たまたまだ。オレもびっくりした。あいつは飾は昔に少し会ったことがあるが関わらないほうがいい」

「そんなに強いのか?」

「さあ……不気味なことには間違いない」

「にしても美人だな~~! あんな子が彼女だったらっ青春だよな~」

「……聞いてたか今の話、」


さすがの遠藤もダウンし、左は遠藤に腕を貸して。オレは夏目をおんぶして寮へと帰った。


「おい天道変わってくれないか? 遠藤、汗臭くて重いんだこいつ!」

「だろうな、もちろん変わらない」

夏目は普段男のようにふるまっているせいかおんぶしてみてあらためて女子なんだということがわかった。心配するくらい軽くて、腕や手も細くて、おまけに良い香りがした。

「明日休みで良かったよ……ほんと」



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