第37話 サマーバケーション!

次の日に目覚めたのは夕方だった。

昨日夏目を部屋に送り届けてから自分の部屋に戻ったのは深夜3時過ぎだったのでしかたないと言えばそれまでだが、少し損をした気分だ。

……久しぶりに散歩でもしに行くか。


「天道! 昨日はあの後記憶がないのだが……その、多分迷惑をかけた。すまなかった……」

寮を出ると私服姿の夏目と偶然会った。

「いいさ、それで疲れは取れたか? 精神的にもしんどかったろ」

「寝れば全て回復するからな。もう大丈夫だ」

「それは良かった」

「俺はあの耐久部屋にずっといたから分からなかったが何か違和感はあったか?」

「違和感?」

「まさか、忘れたのか! 裏切り者の話だ」

「覚えてるさ。裏切り者……うまく潜んでいたって感じだった」

「そうか……またこれからも頭に入れておいてくれ」

「ああ」

――行ってしまった。


探偵試験休みが明け、学校が始まったと思えばすぐに夏休みに入ってしまった。なんというかせっかくのシルバークラスの校章をもう少し見せびらかしたい気持ちがあったがこればかりはしょうがない。


「夏休みの宿題は普通高校のまあざっと2倍はあるかもな。まあ、バカな名探偵なんて聞いたことないからなこれくらいは頭に詰めて天才になってくれお前たち」

黒澤先生の顔が隠れるほどに積み上げられた宿題の多さに1D生徒の全員がドン引きしていた。

「まあ俺からの愛のムチだ。2学期の成長したお前たちの姿が楽しみだよ」


「「(絶句)」」



「なんだこれ……探偵自由研究って?」

「日本で過去に起きた凶悪犯罪から1つ選んで考察する課題ね、レポート用紙20枚分ってあるけど……。他にも探偵っぽい課題があるわ。推理小説20冊読破せよという課題や推理ドラマ20作品見ろという課題、推理漫画を20作品読破せよ……推理アニメを……」

「もういい……久遠。頭痛がしてきた気がする」

「重要な課題も結構あるわ。ほらっ、夏休み期間中、必ずチームで1回は遊ぶこととか」

「なんだそれ……」

「チームワーク押しね黒澤先生は」

「なら、せっかくだし各自やれる課題が全部終わったら海にでも行くか?」

「なんで海なのよ!」

「夏だから」

「安直ね」

「今度は久遠チームのちゃんとした水着が見たいから」

「本音ね」






――約1ヶ月が経過


気づけば夏休みは残り1日となっていた。


「今からって本気で言ってるの!?」

「しょーがないだろ! 神代がなかなかワーク課題終わらせないから。各自やれる課題が全部終わったらって約束だったろ? それにこのままじゃ全ての課題をクリアできないだろ」

「………………そうね」

「最後の課題はこれでチームで遊ぶってやつだけだ。実は準備してあるだろ? クラス対抗試験の時はいきなりだったが今回は1ヶ月前から予定してたからな」

「うるさいわね! 行くなら早く修多羅くんと神代さんを叩き起こして」


オレは2人に同じことを話して急いで学園所有の海水浴場を目指した。

課題のワークの最後に海水浴場までのバス代無料券を付けていたことに黒澤先生に全て考えを読まれているみたいで悔しかったがここはありがたく使うことにした。

修多羅と神代は麦わら帽子を被り、既にゴーグルを首に垂らしている。


「ほら、もうバス停が浜辺だ」

「私ちょっとまだ神代さんと気まずいのだけれど……」

久遠が小声でそっとオレに伝えてきた。

「だから遊ぶんだろ、これから。ほら神代と修多羅のキラキラしたあの目を見ろ」

2人は窓に両手をつけながら輝く砂浜と海の方を眺めていた。

「……もう探偵試験のことは忘れてるようね」

「夏休みの宿題できっと頭が狂ったんだろ」


「「海だ~~!!」」


バスを降りると神代と修多羅は上に着ていた普段服を脱ぎ捨て一直線に海に飛び込んだ。

修多羅は上に空色のパーカーを羽織っていて遠くから見ると元気で無邪気な女の子にしか見えなかった。

神代は髪色と同じ水着を上下で揃えていて修多羅に負けないくらい似合っていた。

オレも水着になってなにやらもたもたしていた久遠に声を掛けた。


「久遠、先行くぞ?」

「ちょっと! 待ってよ!」

「何やってるんだ?」

「は……恥ずかしいの!」

「前のクラス対抗試験の時の再放送ですか……? 2回目なんですけども」

「うるさいわね!」


恥ずかしそうに手で隠している間から水色の水着が見えた。


「4人で遊ぶんだ。2人を追いかけるぞ」

「わ、わかってるわよ!」


2人に海に入るギリギリで追いつくと海には他の1Dクラスのチームがそれぞれ遊んでいた。


「黒牙チームに神宮寺チーム、千藤チーム、神永チームまでいますよ!! 久遠さん!」

「……みんな宿題がギリギリだったのね」

「な~んかホントにクラス対抗試験の時みたい」

「ま、こっちも遊ぼうぜ」

「ほら、一花ちゃん。ボール取れる??」

神代が久遠を少し煽るようにビーチボールをスパイクする。

「今度は私が勝つわ!」

「ふ~ん? いいね! そういうの待ってたんだよ!」


見たか黒牙、神宮寺、千藤、神永チーム! 久遠チームの女子勢の本気を! そしてこの4人で楽しく遊んでる感を! と大声で叫びたかったほどにオレたちは最終日を楽しく充実したものにできた。



明日からまた名探偵育成高等学校での2学期が始まる――

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