第41話 探偵のお仕事
「今日の依頼はまだきていないので
土曜日。
朝食を終えるとあくびをしながら天音さんは店主が裏でやるような雑用を簡単に指示した。
「依頼が来たら私たちも手伝うんですか?」
「もちろん手伝ってもらうぜ! その為に来たんだろ? プラスチック・ソースだっけか?」
昨日からのボケの連続でもう天音さんにツッコミを入れる気力もそがれていた。プラスチックソース……って。
「じゃあ午前中のお仕事開始! オレは外に出る用事があるから分からないことがあったら燈火にでも聞いてくれ」
天音さんはヘルメットを被って玄関に置いていた黒いバイクにまたがりどこかに出発してしまった。
「燈火さん、天音さんはどこに行ったんですか? 依頼はまだ来ていないって言ってたんですけど……オレたちに言えない重大な事件とかですか?」
「あ~見回りだよこの町の。依頼が無い日や予定がない日はああやってバイクで町を走るんだ」
「依頼を自ら探しに行くのか……本当に何もかもが変わった探偵ですね」
「授業通りじゃないね、天道くん」
「ああ、これまでなにかと効率の良さを考えることが多かったからな」
まずは駄菓子屋の開店準備を燈火さんと一緒に行った。品出しと賞味期限の確認、整頓、レジの準備などを順にこなした後はその他の部屋の掃除、雑巾がけを千藤とした。
「おじゃまします、瑞希です」
「えっあいつ……探偵の研修生だってのに駄菓子屋の雑用させてんの~? ホントばか、ゴミ人間」
「そういえばいつもは水さんにやらせてましたね、あの男は」
しばらくして瑞希くんと潤羽さんと高身長の見たことのない男が駄菓子屋を訪れた。
「「おじゃましてます」」
「この人は私たちの学校の先生で純とは親友未満知り合い以上的な人」
水さんが紹介してくれたその男はどこか不気味な雰囲気をまとったイケメンだった。
「初めまして、
「黒斗、今週は名探偵育成高等学校からプラティカル・エール……探偵の仕事体験みたいなので天道くんと千藤さんがきてるのよ」
「そうですか……天音純から学べることはたくさんありますよ。反面教師としてかもしれませんがね。僕たちは2階に行ってますので何かあれば」
「ああ、こいつらの指導は私が純から任されてるからね」
にしても天音さんの駄菓子屋……よくお客さんというかお友達が来るな。
「他にも天音さんの友達はよく来るんですか?」
「純の妹さんとか同級生で警部の人とかも来るよ」
「賑やかですね」
「君たちはさ、どんな探偵を目指してるんだい?」
「はいはい!」
「はい、千藤さん」
「私は私らしく依頼人に対して明るく振舞いたいな! もちろん深刻な事件もたくさんあるだろうけど依頼人には最後には必ず少しでも笑顔になって欲しい」
「そうだね、応援するよ。天道くんは?」
「自分だけを信用できるくらい優秀な探偵ですかね」
「誰にも頼らないで事件を解決するってこと?」
「そうですね、技、知、推理など全て自分の中で最大限を発揮出来ればそれが一番であり、名探偵の条件だと思ってます」
「君は私に似てるよ……ちょっと2階見てくるね」
燈火さんは小さくそうささやいてその場を外した。
「ピザ取ってきたぞ~~!! 集合だお前ら!」
正午になると天音さんはピザを両手に抱えて戻ってきた。どうやらそれという事件は別になかったらしい。
天音さんの声で2階から4人も降りてきてピザを分け合って田舎の駄菓子屋は小さなパーティー会場へと姿を変えた。
「2、4、6、……。7人もいるのは珍しいぜホント」
「純! このピザどうしたの……? 盗んだの?」
水さんはピザカッターを天音さんの喉に向けて問い詰める。
「ぬすっ、? バカタレ! こちとら探偵だぞ! ピザ屋のおっさんが忙しそうだったから出前手伝ってやったんだ。たまたまバイクだったし」
「ピザという恩欲しさにやったんでしょどうせ」
「うるせーな大神先生! 水たちの勉強ありがとよ」
オレと千藤は知らない親戚の集まりに紛れ込んでしまったような感覚になっていた。
その後も彼らにとってはいつもの日常会話のようなじゃれ合いが繰り広げられ、そのまま夕方になってしまっていた。
「依頼、こなかったな」
「天道くんはやっぱり依頼来てほしかったんでしょ? それも大事件並の」
「いいや、オレはプラティカル・エールにここを選んだ時点で大方予想してた。翼こそ物足りないんじゃないのか?」
「ううん、全然! こういう探偵事務所も悪くないなぁって思ってたところ。みんな面白い人たちで退屈しないしね」
「そうだな。入学してから一番平和を感じたしな」
「うん!」
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大神黒斗:水や瑞希の学校の先生。不気味系?イケメンだが天音純の味方。
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