第17話 クラスカースト

そうだな、何から説明すればいいのやら……。オレは目立つのが嫌いなんだ。

「俺が説明しようかな?」

そこへいきなり現れたのは黒澤先生だった。

「お願いします」

「まず、ルールの最後の方に書かれてあった、【また、赤点は10点未満。追試験申請金額は1科目2000円とする】これが切札となったんだ」

「先生、それはいったいどういう……?」

混乱している生徒、やや怒りをあらわにする生徒が騒ぎだした。

「簡単にいうと追試験ってのは本試験と全く同じ問題だったんだ。ほら、電子手帳を見せて見ろ、天道」


[7100]


オレは現在の所持金額が表示された電子手帳をみんなの前で見せた。


「Q.E.D勝利ポイント+5月の振込にしては少なすぎる。それは1科目2000円の追試験5科目分で消えたというわけだ」

「そうっすね」

「ちょっといいかな、天道くん。追試験=本試験という情報をどうやって手に入れたんだ? お得意のセルフマネーシステム取引かい?」

「どういう取引で情報を手に入れたのかは言えませんが、2年生の先輩からですね」

黒牙に続くように久遠がどういう意味?とこちらへ詰めてきた。

「私たちのチームが満点をたたき出した理由はなんとなくわかったわ。じゃあ他のチームの点数は? どうやったの?」

「それは俺もしらないぞ」

黒澤先生も興味深い感じでその場に椅子を持って来て座りだした。

「不正行為を第三者委員会に報告したんですよ。あの追試があった日、黒澤先生と別れて職員室に行くと言いましたよね」

「そうか。あれか」

「修多羅」

オレは遠くにいた修多羅を呼んでその場に例の盗聴器を机に広げた。

「これは……」

「試験前日にこの盗聴器16個を久遠チーム以外の席の分かりにくい場所に修多羅に設置してもらったんですよ」

「!?」

名探偵育成高等学校に通う生徒たちは流石に正義感が強い人たちばかり。

それでも本気の怒りをぶつけてくる生徒はいなかった。

おそらく自分たちも黒澤先生から模範解答を貰っていたためオレたちをシンプルに批判することはできないのだろう。

「うまく設置したな、修多羅」

「監視カメラに映る位置かつテスト開始前の机周りの確認でバレない位置。そう天道くんに言われたんですよ」

「……!」


納得したのかそれとも諦めたのか、自分たちの行為を悔いているのか、生徒たちは自分の席に着いた。

「またあなたのおかげね」

敢えてオレは久遠の方を見ずに遠くの窓を見つめていた。が、おそらく静かに悔しさや怒りを堪えているのだろうと察した。

「たまたまだ。修多羅が盗聴器をたまたま持っていたことや柊先輩にたまたま出会ってその情報を手に入れたこと」

「追試験はあなたの実力でしょ?」

「言ったろ。本試験と同じだからそれを覚えてアウトプットしただけだ」

「それよ、普通の人なら満点が取れる暗記すらできないのよ」

「へぇ~、じゃあそれもたまたまってやつだな」

「あなた、出身中学は? どういう教育を受けてきたわけ?」

「さあな、それはプライバシーだ」

それからその日の授業が終わるまでオレは一切誰とも喋らずにいた。


放課後。

「明日からクラスはどうなるのか、私たちのチームに居場所はあるのか、心配事は増えるばかりね」

「これを見ろ。他のチームの順位だ。ポイントは見れないがな」

久遠はオレから電子手帳を奪い取り、目を画面すれすれまで近づけていた。

「1A、1位天道チーム、1B、1位天星チーム、1C、1位八神チーム、1D、1位久遠チーム……」

「うちのクラスはうやむやになったが、おそらく他クラスはそいつらは今回の中間試験でリーダーの立ち位置になったってことだな」

「1Aの天道っていうのはたまたま?」

「たまたまだ、オレは一人っ子だ」

昨日出会った人たちが1A、1Bのリーダーになるとはな。

そして今回はルールがルールだったってのもあるがクラス内の順位しか決まらなかった。具体的にどのクラスが1位かはまだ分からないな。


夜になり、オレの部屋に久遠チームのメンバーが集合した。

「乾杯しよ! 一人勝ちじゃん私たち!」

「あのクラスの空気じゃあ素直に喜べないのだけれど……神代さん」

神代が机に大量の駄菓子やジュースを広げ始め、一気にパーティー感が増した。

「ほらっ! 修多羅も活躍したんだから飲んで飲んで!」

「僕はいいですよ……。それに何で全部コーラなんですか?」

「パーティー=コーラでしょ、ねえ 天道」

100歩譲ってその理論が正しくても何で2Lコーラを10本も買って来たんだよ……。

「まあいいでしょ。祝勝会というやつさ」

友情・努力・勝利とはいかなかったが、味方がいるだけでこうやって楽しく過ごせている。

「そういえば、あなたのセルフマネーシステム、少なすぎなかった?」

「だからそれは追試験の-10000だ」

「いや、あのQ.E.D終了時点ではおそらく15000以上あったはず、それに5月分の+10000。単純計算で25000-10000で15000はあるはずよ? それなのに7100って」

鋭いな……。あの一瞬でよくそんなとこまで頭が回ったな。

「それはだな……。修多羅の件というか柊先輩の件というかだな」

オレは柊先輩との会話を思い出した。


「それで、天道くんの相談って中間試験のこと?」


……


「もともと何を相談するつもりだったのですか?」


……


「そうですか、ですが今の情報はちょっと出し過ぎたような気がするのでその相談には乗れませんね」


「大丈夫です。コスセンで良いことを思いついたので。その衣装がいくらかかるか分かりませんがね」



「――ってことだ」

オレは宅配屋さんに変装するための衣装が1万円以上するとは思わなかったんだ。

「なるほど……中間試験概要の発表の前日に既にあなたは王手だったのね。じゃあ何で最初の作戦会議の時にそのことを教えてくれなかったの?」

「もしかしたらそんなことしなくてもお前が優秀すぎて普通に勝てたかもしれないだろう? 他のチームがあんなズルして満点取ろうなんて当日初めて知ったんだ。奥の手は簡単に出さない方が良い。味方だろうとな……」

「そうね、あなたは正しかったわ」


能ある鷹は爪を隠す。それだけじゃあ勝てない。能ある鷹は爪を出して牙を隠し、種を偽る、ってな。

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