第54話 ダークホース

「お疲れ様」

「天道くんに久遠さんか、励ましに来てくれたのかい?」

「まあな」


黒牙チームの控室。

想像以上に落ち込んでいる様子はなかった。


「惜しかったわね、黒牙くん」

「そう見えたならまだましかな。負けたのは悔しいけど、認めるしかないよ」

黒牙と久遠の関係もそれなりに良好なようだ。

「そうね、黒牙ちゃん♡ 彼女たちは球技大会に参加する生徒としてじゃなく、探偵として作戦を考えてきたのよ。盲点だったわ♡」

「素直に応援しよう。そして次の試験では必ず黒牙チームが勝つ」

「そうだな! にしても夏目は一番上達したな!」

「簡単に褒めるな!」

ワシャっと赤星に頭をなでられた夏目はすぐさまその腕を振り払う。


「ん? それ何だ?」

「あぁ、山ちゃんが作ってきてくれたレモンのハチミツづけだよ」

「天道ちゃんも食べていいわよ♡」

「それなら、俺も作ってきたぞ!」

「何よ夏目ーー!!? 見してみなさい!!」


夏目がカバンの中から笑顔でソレを出してきた。

禍々しいレモンの死骸……? 見た目と匂いからしてそれが不味いということは明白だった。


「……夏目。ごめんね……♡」

「何がだ?」

「一応女の子……でしょ?♡」

「あ?」


オレと黒牙は特に意味はないが久遠の後ろにそっと隠れた。


「俺のも食べていいぞ。久遠」

「遠慮するわ。それ、食べ物じゃないもの」

おい久遠さんよ。いい加減オブラートという日本人の心を学んで来い。


向けられたソレからオレは目をそらし、赤星なら食べてくれるとジェスチャーする。


「……へ?」

「食べて」

「――ッ!! ……お、お゛いじいです……」 


ありがとう赤星。お前は男の鑑だよ。


……



黒牙チームとの時間を忘れる雑談はしばらく続いた。

もう1Dの第二試合が始まっているということでオレと久遠は昼食を簡単に済ませて先に2階ベンチに行くことにした。

ベンチに着くと既に1Qが終了していた。


「さっきと違って一方的ね、千藤チーム……」


神宮寺チームvs千藤チームの1Q試合結果は24-4で千藤チームがリードしていた。


「神宮寺たちには悪いが、勝負はもうきまったな」

「ええ」


2Qも目立った展開はなく、そのままの流れで千藤チームが勝利した。


そして――、千藤チームは以降の試合を放棄した。理由は疲労による大きなケガが怖いと千藤が言っていたが、おそらく違う。目的はシルバークラスの獲得のみ。無駄な勝負はしないって考えだ。





体育館外。


自動販売機の前で千藤チームの宮地が水分補給をしていた。


「千藤チーム、強かったな」

「天道唯人、か。リーダーさんのおかげでね。こんなところに来て、他の勝ち上がったクラスの試合は見なくていいの?」

「データなら全部、修多羅と神代が取ってくれてるからな。そっちこそチームと一緒じゃなくていいのか?」

「……」

返事がない。

「……じゃあオレはこれで、」

「待て」

「?」

「何でも探るのが好きなようだな、君は」

「何の話だ?」

「とぼけなくていいよ。私と君は多分やり方が似てるからわかるんだ。この時期になってまだ君は手札を見せたくないのだろう?」

「手札は久遠チームだ。それ以上でもそれ以下でもなく」

「そうか。なら忠告しておくよ。何かを得るためには何かを捨てなければならない。殻にこもったままじゃあ知りたい情報も、何も知れないよ?」

宮地柚は『注目される』ってのを賭けてシルバークラスを手に入れたってわけか。

「……自分が本気になったと言ってるように聞こえるが、、いったい何を目指してる? 千藤チームで、それとも1Dで……もしくは……」



吹き荒れる風に耐え切れなかった木の葉が舞った――。



「……、だよ」

「……?」



風になびいた彼女の髪の毛が口元を隠し、ごうごうと吹く風のせいで宮地の言葉がうまく聞き取れなかった。



季節の移り変わり。

球技大会は幕を閉じた――。



(6章おわり)


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実は1章の最初に天道が視線を感じてた正体は九十九ノアでもあったりします。天道は視線を感じても正体が分かれば気にしないのですが、……ということでした。当分のゴール(最終)は十探帝でしょうか。2年生はまだしも3年生編はないかもしれません笑

6章ありがとうございました。

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