名探偵育成高等学校

ミステリー兎

Prologue 魔法使いと探偵の違い

少し昔の曖昧な話。


小学生最後の夏。オレはある少女と出会った。名前は覚えていないが、透き通った肌に黒く長い髪が印象的な美少女であった。

当時の日本は経済不況の最中。犯罪件数、未解決事件数は過去最大を記録。あやしげな宗教と就職困難な若者たちの大きな夢だけが世の中を満たしていた。

オレが覚えているのは「魔法使い!」というアニメが流行っていたということ。最近になってやっと気づいたことだが、大流行の原因はおそらく多くの人が現実から目を背けたかったからなのだろう。


「ねえ、あんたは魔法使いそういうのになりたいの?」


公園のベンチに座っていた彼女は見ず知らずのオレに質問をふっかけてきた。

魔法があればそれは便利な世の中だろう。欲しいものは手に入り、不自由のない夢の世界になっていた。少なくとも当時の日本より。


「魔法に憧れはあるよ。でも現実じゃない。目指しても意味がない」


「魔法はバカしかかからない」と一部のネット民がそのアニメを全面的に否定するかのように言っていたが、確かにその通りだ。現実に諦めた者たちが魔法という妄想に捕らわれ、社会の道から外れていくのだ。


「私はね、だから探偵になりたいの。それも探偵の中の探偵、超一流の名探偵に」


透き通ったその目と彼女の誓いを込めた笑みが深く記憶に残っている。オレはその時、一つの考えを見出した。

探偵は魔法使いとは違う。今あるものを搔き集め、真実を証明し、現状を打破する。魔法使いのように0から1を生み出すことはできないが、1を1だと証明できる存在なのだと――



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