第35話 怖いほど本気
試験開始から10時間経過――
時刻は夜の6時を回っていた。
「中の様子は見れないのか?」
「残念ながら見れない。試験監督の黒澤先生しかな。だから本当に危険な場合は止めてくれるってわけだ」
「なら今のところ大丈夫か」
残りの生徒は修多羅、山下、夏目の3人――
時間無制限といういつ試験が終わるのか分からない怖さを待機していたチームメイトたちは身にしみて感じていた。
顔を見て、言葉を届けて応援することも……オレたちのチームはシルバークラスまでリーチが掛かっていると伝えることも許されない。今回最も過酷で作戦が練れない種目と言えるだろう。
「今回私はシルバークラスは届かなかったわ……」
久遠が残念そうにそう言って隣に来た。
「まだチャンスはあるし、滅多に獲得できる代物じゃないだろ」
「でも実際に今あなたたちのチームはリーチ。すごいわね」
「オレだけじゃない」
「そ。まあ応援してるわ……」
「神代の件なんだが」
「いえ、今は話さなくていいわ。ただ披露する機会がなかった、組手……格闘技が実は得意だった。それだけで今はいい」
「そうだな。久遠チームはバランス型の良いチームだ。修多羅や神代のように飛びぬけた才を持つ者たちを引っ張るリーダーはオールラウンダーの久遠しかありえない。そこは誰も疑っていないから安心しろ」
「私は利用なんてしない」
「?」
「チーム、クラス、仲間と協力して勝ちを目指す。それが遠回りでも、間違っていても私が決めて歩き進むと決めたのなら……それが真実だから」
「ああ。そうだな」
13時間経過の時点で修多羅が試験官に連れ出された。
ルールの1つである睡眠禁止を破ってしまったらしい。体力と精神力が削られた上で時間も時間だ。発狂して飛び出すか、ぶっ倒れて運び出されるかの2択。
だが、担架の上で眠っている修多羅は気持ちよさそうに笑っていた。いつもの3割増で可愛く見えたなんて感想を心にしまいこみ、静かに頭を撫でた。
「……良い夢でも見てるのか?」
「どうせ楽しい妄想でもしてたら寝ちゃったってオチでしょ」
「絶対そうだな……」
「残りはいよいい2人ね」
「夏目か山下か、か」
「夏目さんになにか作戦を伝えたの?」
「オレはただ御守を渡しただけだ」
「御守? 天道くんが?」
「オレが渡しちゃ悪いのかよ……」
「あなた達っていつからそういう関係なの?」
「そういう関係って……。ただチームで勝つための気合い入れみたいなもんだろ。オレは誰とも付き合ってたりなんかしてない。できればしたいが」
「……へー。裏ではどうだか」
「そっちこそどうなんだよ……。性格以外は、あぁ……いや。何でもない……今の会話は忘れてくれ」
「性格以外……?」
「痛い!」
横腹に鋭く肘を入れられた。
「みんな続々と集まってきたな」
まわりを見渡すと扉がまだ開いていない部屋を囲むように1Dクラスの生徒たちがそれぞれ雑談をしながら待っていた。それはシャトルランの終わりの走者たちを応援するような空間だった。
「ちなみに夏目は案外チョロいぞ」
「は!?」
久遠が声を出して驚いた。
「出会ったときや黒牙チームにいた時は黒牙一筋かと思ってたが、犬猿の仲のように思えた遠藤に照れるような場面もあったし」
「あなたたち夏目さんに変なことしてないでしょうね……?」
「何だよ変なことって……するわけないだろ」
「にしても……仮眠も休憩も取らずに他のチームまでよくこんなに張り付いて待ってるな」
「気になるからよ。今まで曖昧だったことが今回はっきりとわかるから。誰が何が得意で、何の種目を積極的に選んで、どのチームの作戦が上手なのか、誰が考案したものなのか、ね?」
「そうだな、他のチームの生徒と交じることで情報も開けた感じがする。1Dの結束というやつが高まっただろうな」
「ええ」
時計の針が夜の12時をまわった瞬間に暗黒が漏れ出す扉がゆっくりと開いた。
辛そうな態勢で現れたのは夏目だった。目にクマができ、今にも倒れそうな限界の様子だった。
「すまぬ……。天道……」
「大丈夫か夏目」
オレの前で倒れ込んだ夏目をなんとか両手で支えた。
「左の扉……山下の扉はまだ開いておらぬようだ……。俺は負けた……んだ」
「……目をつぶって少し休め」
担架の上に夏目を乗せて毛布を上からかけた。1Dは山下を称賛する声だけではなく、夏目の粘りもほめたたえていた。
「とりあえずこれで探偵試験は……」
オレたちはその場で試験監督を務め、今まで1Dの全ての種目の管理していた黒澤先生の到着を待っていた。
声に出して悔しがる生徒はいなかった。自分の欠点を反省し、それをチームに持ち帰り、今度は上位を狙うと決意した1Dの目がそこには並んでいた。
――探偵試験は終了だ
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